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正解が見えない心休まらぬ休息 01

 白檀の甘い香りが程好く混ざる、湿度の高い空気は、激しい交魔法の修行で疲労した、心と身体を癒してくれる。香りの元は、白く泡立つ石鹸に含まれている香料。

 修行を終え、住居である倉庫の二階に戻った朝霞は、バスルームで身体を洗っているのだ。吐瀉物や汗に塗れた、汚れた身体を。

 倉庫の一室を、そのまま改装した為、六畳程の広さがある、かなり広めのバスルームの殆どは、床も壁も……浴槽までも、白いタイル張り。煉瓦は吸水性が高く、コンクリートはカビ易いらしいとの事で、メンテナンスが楽なタイル張りになったのだ。

 そんなバスルームで、普段より大量に石鹸を泡立て、朝霞は身体を念入りに洗った。無論、身体が普段より汚れているからである。

 やや熱めのシャワーの湯が、雪解けの様に肌の上の泡を溶かす。朝霞の肌に付着した汚れと共に、泡は溶けながら床に流れ落ちて行く。

 朝霞は肌のあちこちに鼻を近付け、嗅いでみる。吐瀉物の臭いが、肌に残っているかどうか、確かめる為に。

「――あ、臭い気になるんだ?」

 左隣から幸手の声がしたかと思うと、白い泡に塗れた腕が伸びて来て、首に巻きつく。そして、ぐいっと朝霞を抱き寄せると、幸手は朝霞に顔を寄せ、身体のあちこちを嗅ぎ始める。

 その際、泡に塗れているとはいえ、幸手の豊かな胸や……それ以外の部分が、朝霞の目に映る。恥ずかしいので、払い除けたいところだが、それだけの体力が残っていない程度に、朝霞は体力だけで無く気力も消耗していたので、恥ずかしくはあったが、幸手の為すがままだ。

 同居しているとはいえ、入浴は基本一人ずつ。女三人は、割と一緒に入る場合も多いのだが、朝霞は一人で入るのが基本。とはいえ、仕事や修行などのせいで、消耗や身体の汚れが激しい時などは、順番を待つのが面倒だと、全員で一緒に入ってしまう場合もある。

 今日は、その一緒に入ってしまうパターン。一応、ジャンケンで入浴の順番を決めて、朝霞が一番最初に入る事に決まったのだが、女三人……特に身体の汚れが酷い神流と幸手の二人が、朝霞の入浴が終わるまで待ち切れないと、バスルームになだれ込み、ティナヤも後に続く形で、四人での入浴となった。

「もう全然、臭わないよ」

 朝霞の臭いを嗅ぎ終えた幸手は、感想を口にする。

「そりゃ、良かった……けど、放してくんない? 湯船に浸かるから」

 そんな朝霞の依頼を無視し、幸手は朝霞を抱き締める、朝霞の顔が豊かな胸の谷間に、埋まる様な感じで。

(――え?)

 突然、柔らかな胸の膨らみに、朝霞は顔を挟まれる形になる。いきなりの幸手の積極的な行動に、朝霞は驚き……呆然としてしまう。

 驚いたのは、朝霞だけではない。朝霞と幸手の後ろで、朝霞達の様子を気にしつつ身体を洗っていた、ティナヤと神流も同様だ。

 ティナヤは目尻を吊り上げ、上擦り気味の驚きの声を上げる。

「な……何を? いきなり何をしてるのかなッ?」

 神流に至っては、声よりも先に身体が動いた。即座に手を伸ばし、親猫が子猫の首根っこを咥えるかの様に、朝霞の首根っこを掴むと、強引に引き寄せ、幸手から引き剥がす。

「私も吐かれたのが胸に付いたから、臭いが残ってるかどうか、朝霞っちに胸の辺りの臭いを、確認して貰おうと思っただけなんだけど」

 しれっとした表情で、幸手はティナヤの問いに答える。

「嘘吐け! どう考えても、それ抱き寄せる口実だろ!」

 強い口調の神流に突っ込まれ、幸手は悪戯っ子の様に舌を出して見せてから、言い返す。

「――でも、神流っちも同じ事……やってるじゃない」

 幸手に指摘され、神流は気付く。自分が少し前の幸手同様に、引き寄せた朝霞を抱き締めている事に……しかも、朝霞の顔を、胸の谷間に埋める形で。

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