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交魔法と修行 13

「あいつの下ネタ好きは、どうにかならないもんかな?」


 天久米八幡女姿となった幸手を見ながら、朝霞は顔をしかめて愚痴る。


「口ばっかりなんだけどね。実際には幸手も、何の経験も無いんだし」


 朝霞の右隣に来た神流は、幸手を睨みながら、続ける。


「その手の知識は、ネットやエロゲで仕入れたのばかりだって、前に酔っ払った時に、喋ってたから」


 年齢的に、幸手は酒を飲まない。

 だが、以前、朝霞達……天橋市近辺を根城にしている、蒼玉界出身の聖盗達が会合を開くラウンジバーで、ウエイトレスがソフトドリンクと間違えて、見た目と香りが似たハードドリンクを配ったせいで、酔っ払ってしまった事がある。


 その際、性的な経験は皆無で、下ネタ関連知識はネットや、年齢を偽って中学の頃から通販で購入して遊んでいた、男性向けのアダルトゲームから得ていた事を、神流の前で告白してしまったのである(ちなみに、本人が記憶を失っている高校時代にも、その手の経験とは無縁であった)。


「――でも、朝霞は本当に、そういう事してみたいって思わないのかな? してみたいなら、私だって……」


 朝霞の左隣に移動してきたティナヤが、朝霞に問いかける。


「だから、思わないって!」


 強い口調で、再度否定の言葉を口にする朝霞の目に、ティナヤの腕時計が映る。

 ストップウォッチ機能付きの、腕時計だ。


「あ……俺は二回目、どれくらいもったんだ?」


「一分二十九秒」


 それぞれの結果を記録してあるメモを見ながら、ティナヤは答を返す。


「四秒抜かれたか……」


 やや悔しげに、神流は呟く。


「目標の一分半は、一秒足りずに達成出来なかったけど……」


 口惜しそうな朝霞を、ティナヤはフォローする。


「でも、一度目は全然身体を動かせなかったのに、二度目は右足……動かせたから、凄い進歩じゃないかな?」


「身体全体を動かそうとせず、右の膝上だけに精神も力も集中して動かそうとしたら、何とか動いたんだ。まぁ、動かすのがせいぜいで、そのまま転んじまったけどな」


「いや、でも動いたのは立派な進歩だよ。あたしも一回目、全然身体が動かなかったから……二回目は、その身体の一箇所に精神と力を集中するの、試してみる」


 そんな神流の言葉の末尾は、大きな排気音にかき消されてしまった。

 天久米八幡女の額の六芒星から、蒸気機関車の如き大きな排気音と共に、膨大な煙が噴出し始めたからだ。


 灰色の煙に包まれながら、ティナヤは腕時計のストップウォッチを操作し、幸手の交魔法の継続時間を計測し始める。

 六芒星のデザインに五芒星が加わった、天久米八幡女と化している幸手は、微動だにせず、ただ時間が過ぎて行く。


「一分半……超えたよ。一回目より、かなり長いね」


 そうティナヤが呟いた数秒後、限界を迎えたのだろう、青い炎に包まれながら変身は解除され、幸手は天久米八幡女の姿から、元の姿に戻る。

 そして、意識を失ったまま、倒壊するビルの様に、ゆっくりと膝から崩れ落ち始める。


 無論、コンクリートの上に倒れる前に、瞬時に駆け付けた朝霞に、幸手の身体は抱き止められる。

 軽く嗚咽するが、朝霞と違って一回目に吐き切ったのだろう、幸手は吐きはしなかった……気分が悪そうに、青褪めた表情であったが。


 朝霞は手際良く、幸手に活法を施し、意識を回復させる。

 そして、朝霞は神流にしたのと同じ、身体を動かすコツについて、幸手に話す。


 幸手や神流も、自分達が交魔法を発動した際、気付いた事などに関して話した。

 黒猫団の三人は、交魔法を発動した際の情報の共有を、始めたのだ。


 その後、二時間ほど……三人は気力や体力が限界を迎えるまで、交魔法の修行に繰り返し挑み続けた。

 合間に、それぞれが気付いた様々な事について話し合い、情報の共有を進めつつ。


 結果として、その日……八日の修行が終わる頃には、三人共五分を超える長さまで、交魔法に耐えられる様になり、発動中に歩ける程度まで、修行は進んだ。

 だが、それでも負荷に耐え切れる様にはなれず、戦うのは間違っても不可能というのが、現実だった。


    ×    ×    ×





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