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煙る世界と聖なる泥棒 06

「銃器の見本市かよ、この屋敷は?」


 鳴り響く銃声の中、横殴りの雨の様に降り注いでくる、無数の銃弾をかわしながら、黒猫は愚痴る。

場所は屋敷一階の通路、地下室から一階に上がった時点で、多数の警備員達に迎え撃たれ、黒猫は逃走中なのだ。


 大抵の警備員達は、剣とセットで装備していた銃を撃って来るのだが、軍隊や警察の部隊の様に銃器は統一されておらず、サイズや機能など、様々な銃器を使っているので、黒猫は銃器の見本市と表現したのである。

 ガンソードベルトを装備した者が多い為、拳銃を使う者が多数派だが、散弾の雨を撒き散らすショットガンや、魔術機構を利用し連射機能を得てる、大型の魔動機関銃を手にしたホプライトなども混ざっている。


 屋敷の一階だけで二十人以上の銃器を手にした者達に、屋内で追い回されているのだから、人間離れした素早さを持ち、魔術を奪える変身中の黒猫でも、逃げるのは困難。

 広い屋外でなら、簡単に逃げられただろうが、屋敷とはいえ空間の広がりに制限がある屋内では、素早さを黒猫は生かし切れない。


 廊下を駆け回る黒猫の、右側の壁に銃弾が降り注ぎ、蜂の巣の様に穴だらけになる。


「一応は由緒ある屋敷なんだろ? 少しは壊さない様に気を使って撃てっての!」


 背後から銃撃してくる警備員達を怒鳴り散らしながら、黒猫は廊下の角を回る。

 すると、その進行方向の二十メートル程先に、月明かりにしては、多少強い気がする光が射し込む窓があった。


(あそこから外に出られる!)


 心の中で喝采しつつ、その窓に向かってダッシュした黒猫の正面に、別のルートを通って来たホプライトが現れ、窓との間に割り込んで来る。

 どちらも右手にショットガン、左手に斧を手にしている。


 黒猫がダッシュしている廊下は、広くは無い。廊下全体に散弾が散るショットガンで、正面から狙い撃ちされたら、黒猫には避けようが無い。


(こりゃヤバイっ!)


 変身中の聖盗の中では、防御力が低い部類の黒猫とはいえ、ショットガン数発の攻撃を受け、死ぬ程のダメージを負う事は無い。

 それでも、敵を振り切って逃げ切れない状態に陥る程度のダメージは、受ける可能性が高い。


 つまり、この場でショットガンを食らえば、盗みが失敗し、黒猫は組織に消されかねない。

 故に、黒猫は食らう訳には行かないのだ、ショットガンによる攻撃を。


 ホプライトは射程の短いショットガンで、確実に黒猫を仕留める為、すぐには撃たず、走って間合いを詰めて来る。


(――どうする?)

 黒猫は瞬時に頭を巡らせ、どうすべきか自問する。そして、事態を打開する方法を思い付き、即座に実行に移す。


 急停止しながら左手で床に触れ、つい先程……奪ったばかりの魔術を、与える黒を用いて、仕掛ける。

 その魔術とは発光魔術……しかも、かなり強力な。


 この古い屋敷の敷地内における通常の照明は、照明用の魔術機器も、ランプや篝火なども、余り光が強い物では無く、屋敷外の庭だけでなく屋敷内にも、暗い場所や薄暗くなっている場所が多い。

 故に、組織側は黒猫を追跡し易くする為に、屋敷の敷地内全体を明るくして、視界を確保する必要に迫られた。


 そういった事態に備えて、屋敷の敷地内の各所には、移動式の大型照明用魔術機器が、予め配置されていたのだ。

 だが、それらを非常時以外も作動させて置くと、むしろ屋敷が明るく成り過ぎて目立ってしまい、泥棒に狙われ易くなったり、警察に怪しまれる可能性が有る。


 だから、非常時以外は大型照明用魔術機器を、作動させない手筈になっていたのだが、黒猫のせいで非常時は訪れてしまった。

 結果として、それらの大型照明用魔術機器は、作動する事になったのである。


 大型照明用魔術機器の多くは屋敷外の庭に配置され、屋敷の庭を昼間の様な明るさに照らし始めた。

 屋敷内でもエントランスホールや食堂などの、主に広い空間となっている場所に配置されていて、辺りを明るく照らし始めたのだ。


 地下室から一階に移動した黒猫は、逃げ回る途中で食堂を通った際、多数の警備員達に迎え撃たれた。

 それらの警備員達による迎撃と追跡を妨害する為に、食堂に配備されていた、大型の照明用魔術機器の発光魔術を、黒猫は奪う蒼で奪っていたのである。


「食らえッ!」


 黒猫とホプライトの間にある床が一瞬、黒い稲妻の様な閃光に包まれる。

 だが、その閃光はすぐに消え去り、起動中の発光魔術が床に仕掛けられ、強烈な光を放ち始める。


 ホプライト達が、驚きの声を上げ、動きを止める。突然、床が光り始めたのに驚き、混乱したのだ。


 大型の照明用魔術機器から奪った、大出力の発光魔術とはいえ、それだけで視覚を奪える程に強い光ではない。

 だが、何らかの魔術的な攻撃なのかもしれないと、二人のホプライトに思い込ませ、動揺させるには十分な、通常は有り得ない床が光るという現象。


 攻撃を仕掛けるかの様な、「食らえッ!」という黒猫の鋭い声も、攻撃であると思わせる効果を、相当に高めた。

 故に二人のホプライトは、得体の知れぬ攻撃の可能性に怯み、隙を作ってしまう。


 その隙を、黒猫は見逃さない。

 その隙……ほんの一瞬の間に、黒猫はホプライトとの間合いを詰めると、片方のホプライトから奪う蒼で動力伝達用の魔術を奪い、もう片方のホプライトの甲冑に、その魔術を与えてしまう。


 地下室でホプライトを相手にした時と同様の方法で、黒猫はあっと言う間に、二人のホプライトの行動の自由を、奪ってしまったのだ。

 魔術を奪われたホプライトは、身構えたポーズのまま動きを止め、与えられたホプライトは、踊るような……意味不明の動きをしている。


 行動不能の状態に追い込んでしまえば、黒猫にはホプライトを相手にする理由は無い。

 戸惑いの声と罵声を上げる、二人のホプライトを放置して、黒猫は窓に向かってダッシュする。


 背後から銃声が響き、飛来した銃弾が頭を掠めたので、黒猫は総毛立つ。

 既に背後には、追いかけて来た警備員連中が迫っているのだ。


 窓を開ける手間と時間が勿体無いとばかりに、黒猫は窓を鎧戸ごと叩き割ると、窓の外に向かって飛び出す。

 窓の外は、夜の庭……しかも月明かりだけでなく、発光魔術で全体が明るく照らされた庭だった。


 多数の庭木やオブジェなどが、魔術の光に照らし出され、昼間の様にはっきりと姿を見せている。

 月明かりと篝火だけだった侵入時とは、明らかに違う景色。


 景色が違うのは、明るさによるものだけではない。

 屋敷の中同様、何処にそれだけの数が潜んでいたんだと、黒猫ではなくとも愚痴りたくなる程に、警備員の数が増えている。


(ここから確認出来る数だけでも、百は余裕で越えてるな。ホプライトは三分の一程……)


 窓ガラスが割れた音を聞きつけ、窓枠から飛び出して来た黒猫の方を、一斉に振り向いた警備員達の数を、黒猫は大雑把に数える。

 その多くが銃器を手にしていて、当然……黒猫の方に銃口を向け始めている。


 トランクの中に入っている物は、銃器程度で破壊可能な物では無いので、警備員達は盗まれた物を銃撃で破壊してしまう可能性など、気にもとめない。

 皆、大雑把に黒猫に狙いを定め、引金を引く。


 続け様に響き渡る、爆竹が連続で弾けまくるかの様な銃声。

 花火の様に煌めきながら、マズルファイア(射撃時に銃口から出る火)が吹き荒れ、流星雨の如き無数の銃弾が、黒猫に向かって襲い掛かる。


 跳ぶ方向を深く考慮する余裕も無く、ただ黒猫は跳躍し、銃弾の雨を回避する。

 一瞬前まで黒猫がいた地面と、その背後にある壁は、巨大な蜂の巣であるかの様に、あっと言う間に穴だらけにされてしまう。


 仮面者に変身中とは言え、これだけの銃撃をまともに食らえば、流石に無事では済まない。


(あぶねー、死ぬとこだった……なんて安心してる場合じゃねえか!)


 とりあえず適当にジャンプして、屋敷の三階辺りにある窓枠の出っ張りに、着地していた黒猫は、下を見下ろして焦る。

 警備員達が銃口を上に向け、自分を狙っている事に気付いたのだ。


 自分に向けられた銃口が、次々と火を吹き始めるのを見て、黒猫は再度、また跳ぶ方向を深く考慮する余裕無しに、とりあえず屋敷の屋根の上にでも身を隠すかとばかりに、また上に向かって跳躍してしまう。

 だが、それは失敗だったと、黒猫はすぐに気付く。


(しまった! 上に跳んじゃ駄目だ! 広く展開してる多数の敵から、高い所は狙われ易いに決まってるじゃねえか!)


 普段なら、その程度の事は頭に置いた上で、黒猫は行動する。

 しかし、焦って逃げ回っていた為に、跳んだ時の黒猫は、その事を考慮し損ない、上に跳んで逃げてしまったのだ。


 当然、庭全体に広く展開している、多数の警備員達からは、狙い放題の状態になる。

 屋敷の最上階……五階の壁付近を上昇中の黒猫の視界には、ちゃんと移動する自分をフォローし、銃口の狙いを定めている、多数の警備員達の姿が入る。


(やばい! こりゃ……避けられねぇ!)


 開けた空中にいるというのに、黒猫は自分が隘路に追い込まれてしまった事を自覚していた。

 変身中とはいえ、これだけ大量の銃器による銃弾の雨を受ければ、死が避けられないのは確実。


 黒猫は自分の身近に迫った死の影に怯え、背筋が凍る思いをし始める。

 だが、その死の影が……いきなり遠ざかる。


 突如、眼下で直径十メートル程の大きな旋風つむじかぜが発生し、多数の警備員達が、爆風の如き強さの風に、吹き飛ばされたのだ。

 ホプライト達は、何とか持ち堪えているが、姿勢を保つのがせいぜいで、黒猫を銃撃する事など、皆不可能な状態。


「あ……あれは、旋風崩し(つむじくずし)!」


 警備員達が総崩れ状態になり、銃器の集中攻撃による死の危機から免れた黒猫は、そのまま屋敷の屋根に上がり、下を見下ろしながら、安堵の声を漏らす。


「――布都怒志ふつぬしじゃないか! 来てくれたんだ、助かった!」


 旋風が発生した場所から、大雑把に黒猫は、助けに現れたのだろう仲間の姿を探す。

 旋風が発生した辺りで、何とか倒れずに堪えていたホプライトの近くに、その仲間はいた。


 その仲間の姿を一言で片付ければ、姫武者。

 全体的に黒いが、一部だけ青いカラーリングの和風の鎧を身に付けている、大柄の女性。


 鎧の装飾は控え目であり、動き易さと防御力を重視した作り。

 女性用の鎧らしく、胸の部分は膨らんでいるが、腰の部分は絞ってある作りになっている。


 面具も鬼面の様な有り勝ちな奴ではなく、すっきりした女性的なデザイン。

 黒い兜の面立て(兜の額部分の飾り)は、蒼玉の色に似た物で出来た、青い六芒星。


 黒猫の仲間である、姫武者姿をした布都怒志は、右手には長刀、左手には脇差を手にした二刀流。

 布都怒志は、先程放ったばかりの旋風崩しという、回転しながら刀を高速で振るい、発生させた空気の流れで、敵の体勢を崩す技では、崩し切れなかったホプライト達に襲い掛かり、次々と仕留め続けている。


 黒猫に意識を集中し過ぎて、虚を突かれたホプライト達は、布都怒志の奇襲に対処出来ず、次々と倒されてしまう。


「おい、幾ら裏世界の犯罪者連中だからって、殺すなよ!」


 屋根の上から声をかける黒猫に、布都怒志は言い返す。


「ちゃんと峰打ちにしてるって!」

「お前の峰打ちって、ホプライトでも死にかねないだろ! 死なない程度に手加減しろよな!」

「いちいち五月蝿いんだよ! お前がミスって見付かったせいで、あたしが出しゃばる羽目になったんだろうが!」


 布都怒志は屋根の上の黒猫相手に、怒鳴り続ける。


「そんな所でグダグダ抜かしていないで、さっさと合流地点まで逃げやがれ!」


 怒鳴り声を涼しい顔で聞き流しながら、眼下の庭……というより屋敷全体の様子を観察していた黒猫は、布都怒志に言葉を返す。


「そうさせて貰う! 何処に潜んでいたのか知らないが、警備の連中の援軍が、大量に近付いて来てるからな!」


 敷地内の大部分が見渡せる場所にいる黒猫は、屋敷の中からや庭の他所のエリアから、警備員の援軍が駆けつけて来る様子が、見えたのだ。

 黒塗りの乗用車や、他のホプライトより重装甲かつ重武装のヘビー級……重装型ホプライトを荷台に載せたトラックなどが、動き始めた光景などが。


「重装型のホプライトもいるようだし、屋敷から逃がした場合の追跡用の車も、車庫から出し始めてる! お前もさっさと逃げた方がいいぞ!」


 そう言い放つと、黒猫は屋根の上をダッシュし、合流地点がある方向に向かって移動を開始する。

 屋根の端まで来た黒猫は、躊躇いもせずに屋根を蹴り、宙に舞う。


 緩い弧を描いて、降下して行く黒猫の先には、豊かに茂った庭木がある。

 その庭木を大きくしならせ、枝葉をざわめかせつつ、太い枝を中継の足場とした黒猫は、再び跳躍し、庭木から二十メートル程離れた場所に聳える石壁を、軽々と飛び越えて、屋敷の敷地内の外に姿を消す。


 変身前の黒猫も、人並み外れた身軽さを誇っているが、変身している今は、その数段上のレベルに達している。

 仮面者に変身している時は、全ての身体能力が数倍になるのだ。


「――逃げられたみたいだね」


 黒猫の姿を目で追い、黒猫を助けて逃がすという役目を、自分が果たし終えたと考えた布都怒志は、辺りを見回してみる。

 遠くから、警備員達の増援が駆けつけて来るのを、布都怒志は視認する。


「重装型のホプライトもいるって言ってたな。ありゃ殺さない様に倒すのは、割と面倒だし……交戦は避けた方が無難だろう」


 呟きながら、布都怒志は左手に持つ脇差を前に、右手に持つ長刀を後ろに回し、腰を落として溜めを作る。

 額の六芒星が、仄かに……青い光を放ち始める。


 その上で布都怒志は、身体を駒の様に勢い良く回転させる。

 すると、迫り来る増援の警備員達と布都怒志の間に、大気を震わせながら、先程と同程度の大きさがある旋風が発生する。


 旋風崩しを放って自分と増援の間に、旋風を作り出し、布都怒志は増援の警備員達の追跡を、妨害するつもりなのだ。

 黒猫程のスピードや身軽さが無い、戦闘タイプの布都怒志は、足の速い追っ手から追いつかれない為、妨害手段として旋風を置いておいたのである。


「さーて、あたしもさっさと逃げるとするか」


 黒猫程ではないとはいえ、並みの人間に比べれば、布都怒志の駆けるスピードは速い。旋風の強風に混乱している追跡者達の悲鳴を背中に受けながら、布都怒志も土煙を上げながら、庭を疾走する……合流地点がある側の壁に向かって。


    ×    ×    ×





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