交魔法と修行 04
ティナヤが中心となって用意した、簡素な夕食を摂った後、四人はすぐに倉庫に向かい、幸手を中心としてイダテンの修理を進めた。
四人がかりで頑張ったせいもあり、修理は二時間もかからず、午後九時には殆ど終わってしまった。
少しだけ休憩を取った後、黒猫団の三人は、動き易さを重視した、黒いタンクトップにスパッツという服装に着替えると、倉庫の下にある地下室に下りた。
元々は地下室も一階同様、大型の倉庫だったのだが、今は黒猫団のトレーニング場となっている。
階段を下りた朝霞は、近くにあるスイッチを入れる。
すると、天井に設置された照明用の魔術機構が働き始め、室内が昼間の様に明るくなり、同時に換気扇がモーターに似た音を発しながら動き始め、淀んでいた地下室の空気を攪拌し始める。
明るくなったので、トレーニング場の様子が見える様になる。
いわゆるコンクリートの打ちっぱなしと言われる状態の広い室内のあちこちには、様々なトレーニング設備や機器がある。
元々は上階同様、煉瓦造りの壁に板床を敷いた作りだった。
だが、強度を上げる為に幸手が壁や床、天井などにコンクリートを厚塗りし、いわゆるコンクリートの打ちっぱなし状態になったのだ。
その上で、日本では剣道や古武術道場の娘だった神流が、黒猫団用のトレーニング場として整えた。
ベンチプレス用器具やサンドバッグにパンチングボール、射撃訓練用の設備や格闘術訓練用のリングなど、一通りのトレーニングが可能な状態に設えてある。
「――少し身体を温めてからの方が、いいかもな」
神流の言葉に、朝霞と幸手は頷く。
日本にいた頃から、剣道や古武術道場の娘だったせいで、神流は身体や武術などのトレーニングに関しては、朝霞や幸手より遥かに詳しい為、トレーニング場では神流が場を仕切る場合が多い。
三人はストレッチや軽めのランニングをした後、主に変身前の姿で格闘術を訓練する為、畳敷きにしてある所で、軽い組み手を行う。
十分ほどのウォーミングアップを続け、身体が温まった頃合に、軽食や飲み物を手にしたティナヤが、地下室に姿を現した。
トレーニング中の喉の渇きや空腹を満たす物を用意する為、ティナヤは朝霞達より送れて、地下室に来たのである。
「ティナヤも来たから、そろそろ始めるとするか」
神流と組み手をしていた朝霞は、動きを止めると、神流と幸手に呼びかける。
「そうだね、身体も十分に温まった事だし」
同意の言葉を口にした神流に続き、ベンチプレスをしていた幸手も、タオルで汗を拭ってから、朝霞達の方に歩いて来る。
三人共、程好く肌が上気している。
仮面者に変身した上で格闘術のトレーニングを行う、床がコンクリートのままになっている、トレーニング場の最も奥にある場所に、朝霞達は移動する。
その場所の近くには、鉄色のロッカーが置いてあり、中には三人がトレーニングとして、仮面者に変身する際に使用する帽子がしまってある。
色はどれも黒、朝霞はキャスケット、神流はソフト帽、幸手はベレー帽と、聖盗としての活動時に使用するのと同じタイプだが、被って外を歩くのは少し恥ずかしい程度に、痛んでいる。
それぞれの帽子を手に取り、三人は頭にかぶる。
「交魔法の修行に入る前に、もう一度……これ読んで方法確認しておこう」
ポケットからシールドカードを取り出すと、朝霞は鍵番号を記入する。
封印を解除されたシールドカードは、黒煙を噴出しながら、薄い文庫本の様な形状に姿を変える(シールドカードは情報量により、メモ帳レベルの物から辞書レベルまで、様々なものがある)。
この紫色の本が、ナイルに渡された交魔法の解説書だ。
夕食前にナイルに聞いた話をした際、黒猫団の三人は皆、この解説書に目を通したので、交魔法のやり方自体は、既に頭に入っている。
上書きに使用する魔術の、魔術式も含めて。
だが、初めてでもあるし、リスクも高い方法なので、念の為に朝霞は再度確認しているのだ。




