交魔法と修行 02
「――確かに、あたし達の今後に……かなりの影響与えそうな話だね」
朝霞とティナヤの話が終わった後、参ったなと言わんばかりの口調で、神流は感想を口にし続ける。
「香巴拉の八部衆が掻き集めてる、完全記憶結晶の中には、あたし達が集めてる蒼玉も含まれているんだろうし、これから蒼玉を巡って八部衆と出くわす事態は、想定しておくべきなのかな?」
神流の問いに、残り三人は頷く。その上で、幸手が口を開く。
「まぁ、八部衆は四人だけみたいだし、聖盗と出会う確率自体は、かなり低いと思うんだけど。これまで私達だけでなく、蒼玉界の聖盗は誰も、蒼玉を盗み出す際……八部衆と出くわしてはいない訳だし」
幸手がわざわざ「蒼玉を盗み出す際」と、条件を絞ったのは、黒猫団とティナヤに関して調べている可能性がある緊那羅と、朝霞が塗炭通りで遭遇した話を聞いたからである。
「確率自体は低いんだろうけど、それは八部衆が主に、記憶警察とか政府系の、膨大な数の完全記憶結晶が保管されている施設を中心に、襲撃しているせいなのかもしれない」
朝霞はナイルの話や、オルガのシールドカードから得た情報などを思い出しつつ、続ける。
「少人数で大量に集めようとすれば、そうする方が効率が良いからな。聖盗の中では比較的、数が多い獲物を狙い勝ちだった俺達でも、記憶警察や政府系の保管施設程に膨大な数の完全記憶結晶を、保管している獲物を狙った事は無いし……」
ちなみに、政府系の保管施設で保管される完全記憶結晶の中で、異世界由来の物は、その世界の聖盗達に、まとめて返還される。
紅玉界の聖盗達が夜叉と思われる八部衆と遭遇したのは、返還される紅玉を受け取る為、保管施設を訪れた際だった。
「つまり、今まで通りやっていれば、黒猫団が八部衆と遭遇する事は……無いのかな?」
ティナヤに問われた朝霞は、頷いてみせる。
「今まで通りにやっていれば、多分……。だけど、問題なのは……来週越南州のハノイで催されるらしい、万単位の完全記憶結晶が取引されるという、ブラックマーケットなんだよね……」
「――それだけの数が集まる機会となると、八部衆と遭遇する確率高いよね、やっぱり」
深刻そうに眉間に皺を寄せる、幸手の言葉に、皆が頷く。
「だからといって、総数で万単位なら、数百から数千の蒼玉が集まる可能性が有る、今回のブラックマーケットを、やり過ごす訳にはいかないんじゃないのか?」
そんな神流の意見も、もっともなものであり、皆は頷く。
取引されるだろう大量の蒼玉を無視は出来ないが、現時点で八部衆と遭遇するのは、出来れば避けたいというのが本音。
「それでも今回は手を引いて、様子を見るべきだと思う。そこまで危険な連中なら、遭遇しかねない案件は、避けるべきだ」
安全を優先した意見を、幸手が主張すれば、神流は蒼玉回収を優先する主張を口にする。
「取引される蒼玉の中に、あたし達にとって大事な人間の蒼玉が、含まれている可能性だってある。仮に……八部衆と遭遇しようが、出し抜いて蒼玉を盗み出すくらいの気概でいないと、駄目なんじゃないの?」
朝霞にとっての妹同様、神流は父親と妹、幸手も妹と弟が、蒼玉という形で記憶を奪われている。
蒼玉が闇取引されるのを見逃すという事は、家族の記憶が失われたままになるだけでなく、取引された後の利用形態によっては、死ぬ事を意味しているのだ。
幸手と神流、どちらの主張にも正しさがある。
そして、二人も互いの主張に正しさがあるのを理解している。
神流も幸手の言う危険性は理解しているし、幸手も自分の家族の蒼玉が闇取引されてしまう可能性を、理解している。
その上で、何を優先し、どうすべきかを二人は自分の中で、結論付けている。
そして、二人より少し遅れたが、朝霞も結論を出そうとしていた。




