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門の無い大学と明かされる秘密 15

「俺達の世界から、大量に完全記憶結晶を奪ったのも、その収集の一環なんだろうな」


 元の世界で目撃した、膨大な数の完全記憶結晶を盗まれた場面を思い浮かべつつ、朝霞は続ける。


「あ……でも連中は異世界に移動し、膨大な数の完全記憶結晶を盗み出せるのに、何でこの世界でストックされている奴を、強奪しているんだろう?」


「異世界との通路を開く魔術や、膨大な数の完全記憶結晶を作り出す魔術は、香巴拉の八部衆といえ、簡単に発動出来るものではないのさ。数ヶ月に一度、発動出来るかとうかだろう」


 朝霞の疑問に、ナイルは答え続ける。


「それに、異世界から大量の完全記憶結晶を盗み出す際、殆どの完全記憶結晶は、異世界と煙水晶界を繋ぐ通路を超高速で通り抜けた後、煙水晶界の様々な所に飛び散ってしまうんだ。つまり、八部衆が今現在、世界中から掻き集めている完全記憶結晶の中には、元から煙水晶界にあるものだけでなく、今現在活動中の八部衆が、異世界から奪い取ったものも含まれているのだよ」


 ナイルの話は、朝霞にも合点がいくものだった。

 二人の八部衆……緊那羅と摩睺羅伽と思われる二人が、川神市の人々から奪い取ったと思われる完全記憶結晶には、既に回収された物も多いのだが、それらは全て……香巴拉や八部衆とは無縁の者達が保有していたのを、朝霞達……蒼玉界の聖盗達が、奪い返した物だった。


 八部衆の二人が蒼玉界の川神市から、大量の完全記憶結晶……蒼玉を奪い取った後、自分達で保有していたのなら、そんな事にはならんかった筈。

 つまり、ナイルの話した通り、膨大な蒼玉が煙水晶界の様々な所に飛び散っていたからこそ、香巴拉と無関係な者達が、川神市から奪われた蒼玉を保有していたのである。


「奴らが何の為に、膨大な完全記憶結晶を掻き集めているかは分からないが、この国にとっては良くない事の為に決まっているし、最小でも四人の八部衆が復活を果たしている事は、エリシオン政府の方に伝えておいた方が良さそうだな。記憶警察の保管施設を襲った夜叉については、記憶警察の方から情報を得ているだろうが、摩睺羅伽復活については、まだ情報を掴んでいない可能性もある」


 ナイルは歴史書を閉じた後、出現させたタイニィ・バブルスにしまう。


「私はこれから、八部衆が四人復活している可能性が高いという情報を、政府の友人に急いで伝えなければならない。申し訳無いが、今日のところは……ここまでにしてくれ給え」


 済まなそうな顔のナイルに、逆に朝霞は恐縮してしまう。


「そんな……お話、大変参考になりました」


 礼の言葉を口にしてから、朝霞は頭を下げる。

 ほぼ同時に、ナイルに礼をしたティナヤと共に立ち上がると、ドアに向かって歩き出す。


 ドアを開け、部屋から出て行こうとした朝霞とティナヤに、ナイルは声をかける。


「教えておくべき事は、ほぼ教え終えたとは思うのだが、分からなかったり……気になる事があるなら、何時でも研究室を訪ねてくれ」


「――遠慮しないで、そうさせて貰います」


「あと……今後、八部衆とエリシオン政府の戦いに、聖盗は関わらざるを得なくなる確率が高くなるだろう。自ら参戦するにせよ、巻き込まれる形にせよ。そうなれば、当然の様に、交魔法が使える聖盗の数は、多いにこした事は無い」


 深刻な口調で、ナイルは朝霞に語りかける。


「だから、まず黒猫団が交魔法を習得し、交魔法を理解した上で、それを使いこなせるだろう実力があり、情報を漏らさないと信頼出来る聖盗がいるなら、香巴拉と交魔法に関する情報は、開示して構わない。無論、秘密厳守が前提ではあるが……特に煙水晶界の人間にはね」


「――分かりました」


 そんな聖盗の候補を思い浮かべながら、ナイルに返事を返すと、朝霞はドアを閉めて、ティナヤと共に歩き去って行った。

 二人が去っていく靴音が、次第に小さくなって行く。


「それにしても、ララル君の噂の彼氏が、黒猫団の黒猫だとはね……驚いたよ」


 友人に会いに行く為に、身支度を整えながら、ナイルは呟く。


「――驚いたといえば、八部衆がララル君について調べているらしい事もだな。聖盗の中でも、最も名が売れた部類に入る黒猫団について調べるなら、まだ分かるが……ララル君について、八部衆が……何故、何を調べる必要がある?」


 自問してみるが、答えは思い浮かばない。


「念の為に、その辺についても調べておくか……」


 答えの出ない問題について考え続けるのを止め、ナイルは身支度を整え続けた。


    ×    ×    ×





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