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煙る世界と聖なる泥棒 05

 暗く鬱蒼とした、夜の森。森の中を通り抜ける林道に停車している、闇夜では目立たない、丸っこいデザインの黒い小型車。


 その運転席のドアに寄りかかっていた、ボーイッシュな長身の少女が、左ハンドルの運転席に座っている少女に問いかける。

 近くにある屋敷から夜空に響き渡っている、ベルの様な音を聞きながら。


「このベルみたいな音、警報用の魔術だよね?」


 ラウンド型のメタルフレーム製の眼鏡をかけた、セミロングの髪をうなじの辺りで一つ結びにしている、運転席の少女は、顔をしかめつつ返事をする。


「――たぶん。ドジって、組織の連中に見付かったんじゃないかな」


 眼鏡の少女は挿し込みっ放しにしてあったキーを回し、車のエンジンをかける。

 唸る様な動作音が鳴り響き始め、後部に据え付けられている排気口が、黒煙を吐き始める。


 発生する煙の量は、ガソリンエンジンのレベルではなく、むしろ石炭を燃料にした蒸気機関車に近いレベル。

 だが、この車の動力はガソリンエンジンでもなければ蒸気機関でも無い、煙水晶を燃料とする魔術機構の中でも、動力を生み出すタイプの魔動機関……魔動エンジンである。


 長身の少女が素早く後部座席に乗り込むと、眼鏡の少女は車をスタートさせる。

 運転席と後部座席の二人は、どちらもマニッシュなダークスーツ姿だが、長身で胸が貧しい分、長身の少女の方が、似合っているといえる。


 ちなみに、二人共ネクタイはしておらず、シャツボタンを上から二つ目まで外し、胸元を少しだけ開けている。

 どちらも黒い帽子をかぶっているが、長身の少女はソフト帽で、眼鏡の少女はベレー帽と、帽子のタイプは異なる。


 顔立ちは女性としては二人共、かなり恵まれた部類だが、ボーイッシュの方は凛々しく、眼鏡の方は知的でクールな感じ。


「組織の連中だって、相当警戒してるだろうから、見付かるのは仕方が無いんじゃない?」


 長身の少女が一応、警報用の魔術を発動させる羽目になっただろう、仲間を擁護する。


「ま、それはそうだけど……蒼玉盗み出すのに失敗してたら、流石にお仕置きもんだよね」


 ややおどけた様な口調で、そう言った眼鏡の少女に、長身の少女は身を前に……助手席の方に乗り出して、問う。


「蒼玉を盗み出す前だか後だかは知らないけど、あいつが警報ベル鳴らしたくらいで引き下がって、蒼玉盗まずに逃げ帰って来る様な奴だと思う?」


「まさか! あいつは状況が悪かろうが、しぶとく立ち回って、目的を果たそうとするタイプだからね、昔から……」


 問いに答えながら、ほんの一瞬だけ眼鏡の少女が浮かべた、懐かしげな表情を、長身の少女は見逃さない。

 助手席側に身を乗り出していた為、後部座席からでも、その表情は見えたのだ。

 長身の少女は、更に問いかける。


「――昔からって、何時頃の話?」

「え? あ、いや……前に少し、そんな事があったの、思い出しただけの話」


 僅かに狼狽したかの様な表情を見せた後、それ以上、話す気は無いという空気を醸し出し、眼鏡の少女は話題を切り替える。


「見えて来たよ、準備して」


 眼鏡の少女が見えて来たと言ったのは、林道を抜けた車の、フロントガラスの前に姿を現した、進行方向にある屋敷を囲む壁である。

 黒猫が忍び込んだ屋敷の、城壁の如き石積みの壁。


 侵入者に気付いたせいだろう、屋敷だけでなく庭全体も、照明で照らし出されて明るくなっている。

 発光魔術が仕掛けられた、大出力の照明用魔術機器が複数、一斉に作動し始めたらしく、屋敷の敷地内は昼間の様な明るさに見える。


 長身の少女は、前に乗り出していた上体を元に戻すと、天井のホルダーに固定してあった、日本刀風の黒い鞘に収められた長刀と脇差を、ホルダーを外して手に取る。

 そして、丈の短いジャケットの下に装着している、ブレードベルトの状態を確認する。


 屋敷の庭を警備していた者達が装備していたガンソードベルトと似ているが、ホルスターは無い。

 代わりに長刀に脇差……投擲用の小刀など、様々な刀を装着出来る。


 通常は左側に長刀と脇差を、右側に数本の小刀などを装着する。

 小刀などは装着したままの場合が多いが、長刀や脇差は乗車の場合は邪魔になるので、ブレードベルトから外し、車のホルダーに固定したり、椅子に置いたりするのである。


 長刀と脇差を膝の上に置いた長身の少女は、胸元に右手を突っ込み、黒猫がしているのと同じペンダントの、メタル製のミニボトルになっているチャームを取り出す。

 そして、ミニボトルの中に入っている、蒼玉粒の数を確認すると、ペンダントのチャームを元の位置に戻す。


「ま、二個あれば何とかなるでしょ」


 長身の少女が呟いた直後、車は急停止する。場所は屋敷の外壁のすぐ近くにある道の上。


「じゃ、言って来る」


 そう言い残すと、長身の少女はドアを開けて車外に出ると、長刀と脇差を左のホルダーに装着する。

 そして、黒猫程では無いが、かなりの身軽さで屋敷の壁を上って行くと、既に銃声や怒声などで騒然としている屋敷の敷地内に、長身の少女は姿を消す。


    ×    ×    ×





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