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死亡遊戯 72

 ちなみに、元々は四華州の古い言葉で命名された魔術であり、エンリケの操紅光輪サオフォンカンルンという呼び方の方が正しい。アリリオが西班牙州の古い言葉である操紅光輪ギロティナ・デ・インドゥクシオンに、魔術名を変えてしまったのである。

 アリリオは数多くの魔術の名を、そうやって変えた上で使っている。香巴拉の魔術名は、元から幾つもの言語が入り混じっている為、魔術名の言語を変えてしまう事には、割と寛容なのだ(ただし、意味は余り変えてはいけない)。

「これまでは、爆破エクスプロジオンを使う必要がある相手と、出会わなかっただけの話さ」

 事も無げに、アリリオは言い放つ。通常の操紅光輪でも、大抵の相手は仕留められたし、それで仕損じた場合でも、四光輪で行動不能には追い込めた。

 故に、これまでアリリオは、操紅光輪の爆破を使う機会が、無かったのである。四光輪を当てられなかった場合に使う、操紅光輪の最終攻撃手段である爆破を。

 その爆発により、吹き飛ばされた朝霞は、森に向って墜落しながら、必死で呼吸と精神を整え、乗矯術の制御を回復しようと試みる。朝霞の視界の中で、森の木々の姿が、急激に大きくなって行く。それだけ急速に、森に向って朝霞は落下中なのだ。

 結局、朝霞は森の木々の中に墜落するが、木々の枝がクッションとなり、落下スピードを抑えてくれたお陰で、地面に叩きつけられる直前に、朝霞は乗矯術の制御能力を回復。朝霞は翼から、全力で青い光の粒子群を噴射、急減速しながら地面に降り立つのに成功。

「あぶねぇ……性質たちが悪過ぎだ、あの光の輪みたいなの!」

 身体の各所のダメージを確認しながら、朝霞は続ける。

「追いかけてくるわ分裂するわ、おまけに最後は爆発するって、多機能過ぎるだろ!」

 身体を守るプロテクターの、数箇所が破損してはいたが、戦闘に支障が出る程のダメージは負ってないのを確認し、朝霞は安堵する。だが、安堵している場合ではなかった。

 頭上から橙色の光の雨が、降り注いで来たのだ。木々の幹や枝葉を破砕する、橙色の光弾の雨が、朝霞がいる辺りの森に、掃射されたのである。

(太陽石の奴の方か!)

 先程、エンリケが放っていた光弾と同じ物が、再び襲い掛かって来たのを察した朝霞は、森の木々の間を、高速で走って逃げ始める。木々が密集して立ち並んでいる森の中では、飛ぶよりも走った方が、小回りが効いて木々を回避し易く、逃げ回り易いのだ。

 爆音と閃光が、次々と背後で起こり続ける。逃げ回る朝霞を、速射激光スーシェジークァンの光弾による攻撃が、追いかけて来ているのである。

(森の中に隠れても、ちゃんと俺を狙い撃ちしてきやがる! 身を消しても、やっぱり方向は把握されてるな)

 上空にいる敵からは、森の木々の陰にいる自分の姿は、見えてはいない筈。それなのに、大雑把にではあるが、エンリケに狙い撃ちされているのだから、朝霞としては、そう判断するしかない。

 エンリケは方向だけしか分からないので、朝霞がいる筈の方向の、落下地点から推測した、移動可能と思われる範囲を狙い、大雑把に光弾をばらまいている。飛行速度の速さから、地上速度も相当に速いだろうと考えたエンリケは、かなり正確に朝霞の位置を、推測出来ていた。

 だが、エンリケの攻撃は本命というより、朝霞の大雑把な位置を絞り込む為に、行われていたのだ。速射激光の光弾は、数を当てなければ、朝霞を仕留め切れはしないし、朝霞の動きの速さから、それは難しいだろうと、エンリケも判断していたので。

 本命の攻撃は、その近くで空中静止しながら、時間をかけて魔力を両腕にチャージしていた、アリリオの方。両腕を燃え上がらせているかの様な、目に眩しい赤い光を発する程、アリリオは膨大な魔力を、両腕にチャージしていたのである。

 アリリオは一度、左側に身体を捻って、両腕を後ろに向ける感じで振る。そして、そろそろ魔力切れで途切れつつある、エンリケの速射激光の光弾が着弾している辺りを、アリリオは見下ろす。

 高度三百メートル付近で、アリリオは滞空中。エンリケが攻撃中のポイントは、アリリオから見て、四百メートル程の南方。

 つまり、直線距離にして五百メートル辺りの森を、アリリオは見下ろしているのである。

「あの辺りか!」

 腕を身体の正面に戻しつつ、捻った身体を元に戻すと、見下ろした辺りに向けて、アリリオは両腕を組む。右前腕は立てて、左前腕は寝かせ、左手の甲の上に、右肘を乗せる形の、対面から見てL字に見える感じの、腕の組み方だ。

 L字に輝くアリリオの前腕……その左前腕から右前腕に、赤い光が全て移動し、L字の光がIの字の光に変化。右前腕が、アリリオの全身を包み込む程の閃光を放ったかと思うと、眩いばかりの強烈な光線が、アリリオの右前腕から発射される。

 耳をつんざく程の噴射音と共に放たれた光線の色は、紅玉と同じ色ではない。青と桃色……そして白という三色をメインに、様々な色が混ざり合った、不安定な色合いの、幅広い光線である。

 膨大な破壊エネルギーを、無理がある程に収束して放つ為、色が不安定に変色し続ける光線を放つ、奇光奔流トルレンテ・デ・ルズ・エクストラーニャという光線魔術を、アリリオは使ったのだ。八部衆で最も多彩な光線魔術を操る、アリリオの主力光線魔術が、この奇光奔流。

 発射までの隙は大きいが、高速かつ超遠距離射程。絶対防御能力で防がぬ限り、直撃を食らったターゲットは、完全消滅に追い込まれる。

 仮に直撃を避けられたとしても、ターゲットの周囲の地面などに当たった光線は、爆発を引き起こし、半径二百メートル程の範囲を、集中的に破壊し尽くす。その範囲から逃れ損なえば、絶対防御能力無しでは、完全破壊を免れられない。

 そんな強力な奇光奔流のカラフルな光線が、朝霞がいる辺りの森に向って伸びて行く。そして、朝霞を半径二百メートル以内に捉えた状態で、光線は起爆して大爆発を引き起こした。


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