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死亡遊戯 71

 強烈な光と高周波音を放ちながら、大皿程の大きさがある光輪は、高速で朝霞に迫る。光線程には速く無いが、余裕で朝霞に追い付ける程度に、光輪の飛行速度が速いのは、一応は光線魔術の一種により、作り出されたからである。

 光と音のせいで、背後から迫る光輪に気付けた朝霞は、上昇を止めて水平飛行に入り、光輪をかわそうとする。だが、光輪は飛行経路を変え、水平飛行に入った朝霞を追い続ける。

(自動追尾か!)

 コースを変えても、光と音が迫って来るので、後ろを振り返った朝霞は、光輪が自分を追いかけて来ているのに気付く。だが、朝霞の認識は、正確ではない。

 アリリオが光輪を放った魔術の名は、操紅光輪ギロティナ・デ・インドゥクシオン。ポワカが自動追尾だと勘違いした、麗華の操翠光弾カオツィクァンダンと同様に、放った魔術師が進行方向を操作するタイプの魔術であり、自動追尾が可能な訳ではない。

 飛行速度が操翠光弾より遅く、放つまでの隙も大きい欠点があるのだが、その欠点の分を差し引いても、操紅光輪の方が優れていると評価出来るだけの長所がある。その長所の一つが、強力な切断能力だ。

 操紅光輪の光輪は、丸鋸の様な見た目に相応しい、強力な切断能力があり、大抵の防御殻を切り裂き、防御殻で身を守る魔術師ごと切断出来てしまう。ギロティナとは、西班牙の古い言葉で「ギロチン」を意味するのだが、一撃で罪人の首をね処刑してしまうギロチンの様に、当たれば一撃で大抵の敵を、真っ二つにして殺害出来る。

 絶対防御能力を無効化出来る訳ではないので、絶対防御能力で身を守る者は、一撃でという訳にはいかないし、身体を両断されても死なない程に、強力な生命力を持つ者相手でも、一撃必殺には至らない。だが、朝霞は絶対防御能力を持たないし、身体を真っ二つにされて死なない程に、強力な生命力は持ち合わせてはいない。

 つまり、迫り来る操紅光輪の光輪は、朝霞にとって、致命的な一撃と成り得るのである。アリリオの「これで仕留められれば良し」という発言は、操紅光輪の光輪を朝霞に当てれば、それで仕留められると確信しているからこその、発言だった。

 朝霞は冷静に光輪の動きに目を配り、空にS字の青いラインを曳きながら、回避運動を続ける。光輪はスピード自体は速くとも、余り小回りが効かない為、朝霞には余裕で回避が可能だったのだ。

「このまま当てるのは無理か……」

 空中静止したまま、光輪を操作し続けていたアリリオは、多少口惜しげに呟いてから、言葉を続ける。

「だったら、四光輪クワトロ・デ・ラ・ギルティーナならどうだ? 」

 アリリオは右手の指を、弾いて鳴らす。直後、光輪が……四つの光輪に分裂する。形状は変わらないが、サイズは小皿程となった四つの光輪が、朝霞に襲い掛かり始める。

 敵の回避能力が高い場合、操紅光輪は一つの大きな光輪を、小さな四つの光輪に分けて、四つの光輪による同時攻撃に、切り替える事が出来る。この状態が、アリリオの言う四光輪なのだ。

 威力がかなり落ちる為、強力な防御能力を持つ相手を、一撃必殺という訳にはいかなくなる。それでも、交魔法状態で飛行中の朝霞を、撃墜するには十分な威力がある。

 アリリオの「仕損じても墜としてみせる!」という発言は、光輪が一つの状態での、一撃必殺には失敗しても、四光輪に切り替えた上で、朝霞を撃ち落してみせるという意味合いだった。四つに分けた光輪も、アリリオは自由に操作が可能。

 光輪の一つは、朝霞を背後から追いかける。残りの三つは、朝霞の回避先となり得る方向に先回りし、朝霞の逃げ道を塞いでいる。

 全ての回避先を、光輪が塞げる訳では無いので、塞がれなかった方向に、朝霞は回避する。

(こりゃキツイな……)

 次々と遅い来る四つの光輪を回避しながら、朝霞は心の中で呟く。立体迷路の様な複雑な光のラインを、朝霞は空に描きながら、見事に光輪をかわし続ける。だが、何とかギリギリ回避出来ている状態であり、朝霞は仮面の下で、焦りの表情を浮かべていた。

「四つに分けても当たらねぇな、手ェ貸すか?」

 とりあえずはアリリオに任せようと、空中停止して見守っていたエンリケが、焦れた風な表情で問いかける。

「――不要だ」

 アリリオは即答する。

「当てられずとも、墜とせる!」

 当てた……直撃させた方が、大きなダメージを与えられるので、出来れば光輪を直撃させた上で、アリリオは朝霞を撃墜したかった。だが、朝霞の回避能力の高さから、それは無理だろうと、アリリオは判断。

 直撃程のダメージを与えられないが、撃墜させられる策に切り替え、アリリオは左手の指先を弾いて鳴らす。すると、まとわりつく様に朝霞の近くを飛んでいた、四つの光輪が閃光を放ち、一斉に大爆発を起す。

 回避する暇もすべも無く、爆発に巻き込まれた朝霞は、衝撃波に全身を打ちのめされ、悲鳴を上げる余裕すらない。激痛に苛まれ、呼吸すら出来ぬ状態で、乗矯術を制御するに足る精神集中を維持出来ず、爆煙の中から姿を現した朝霞は、森に向って墜落し始める。

「お見事!」

 宣言通りに、朝霞を撃墜したのを目にして、エンリケはアリリオに声をかける。

「――操紅光輪サオフォンカンルン爆破バオプォを使ったのを見るのは、久し振り……いや、初めてだったか」

 アリリオが操紅光輪の光輪を、爆発させたのをエンリケが見るのは、初めてである。過去の迦楼羅が操紅光輪を使い、その最終段階である爆破を使った記憶を、エンリケは法輪と共に受け継いでいる為、自分が見た事があったかの様に、錯覚してしまったのだ。


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