死亡遊戯 68
「また右だ。右に避ける癖があんのか?」
アリリオの連射が終わる頃合、太陽石の周囲の光点が真下になる様に、やや右に向きを変えてから、エンリケは両掌で太陽石に触れて、両腕に魔力をチャージする。
「それとも同じ方向に逃げた方が、意表を突けると思ってやがるのか?」
そして、敵がいる筈の方向に、アリリオと同じく射角を上下に変えながら、エンリケは速射激光の赤い光弾をばら撒く。すると、今度はアリリオの時よりも、数十メートル下で着弾、エンリケは爆発が起こった辺りに集中し、腕にチャージした魔力が尽きるまで、赤い光弾を撃ち続ける。
その赤い光弾の雨が降り注いでいる側……空中では、姿を消して飛ぶ四人が、光弾を回避すべく、右斜め下に急降下を開始。だが、逃げる四人を追いかけて、光弾の発射方向が右側に移動して来るので、四人は光弾を回避し切れない。
「上下に撃ち分けてるから、高さまでは分からないみたいだけど、方向はバレてるっスね」
飛行する四人の中心にいるタチアナが、大雑把に状況を判断し、声を上げる。タチアナの右腕には朝霞、左腕にはタマラが掴まり、肩にオルガが掴まる形で、四人は一塊となり、、赤い巨大な布に海苔巻きの様に巻かれた状態で、空を飛んで逃げていた。
八部衆の襲撃を察した四人は、ポケットに忍ばせてあった、折り畳める帽子と記憶結晶粒を使い、一気に仮面者から交魔法状態へと移行。病み上がりであった朝霞も、一週間振りの交魔法だったのだが、八部衆が現れた以上、躊躇っている場合ではないとばかりに交魔法に挑み、発動に成功していた。
四人は即座に、タチアナの交魔法版の魔術的迷彩で姿を消し、飛んで逃げ始めたのだが、すぐにアリリオとエンリケからの光弾による攻撃を受けた。オルガが咄嗟に、四人を防御対象として、赤いマフラー……鋼鉄幕を使用したので、光弾によるダメージは防げていた。
鋼鉄幕で身を守りながら、タチアナは方向や高さを変え、光弾を回避しようと試みたのだが、失敗した。故に、姿を消しても、敵には方向がばれているという認識に、タチアナは至ったのである。
「どうやら、魔術的迷彩で姿隠して飛ぶより、普通に飛んで逃げた方が、マシみたいっスね」
魔術的迷彩の使用時は、攻撃が出来ないという制限があるだけでなく、魔力消耗が激しい為、他の魔術の性能が落ちてしまうので、飛行速度も通常時より落ちる。高さは誤魔化せても、方向がばれてしまい、攻撃を受けるのを避け難いのなら、魔術的迷彩で姿を消しながら逃げるのに、メリットは無いのではないかと、タチアナは思ったのだ。
現状は光弾を防ぎ切れている鋼鉄幕も、このまま光弾を食らい続ければ、限界を迎えてしまうのは確実。タチアナ以外の三人も、このままではジリ貧だろうという認識を、共有していた。
「――あたしも鋼鉄幕を解除するから、ターニャも魔術的迷彩を解除しな! 相手は二人、散開して逃げるよ!」
「了解!」
オルガの指示に、三人が同意した直後、オルガは四人の身体を包み込んでいた、赤い巨大な布……鋼鉄幕を解除。一メートル程の長さの赤いマフラーに戻して、オルガは首に巻く。
「魔術的迷彩、解除するっス!」
言い終えてから、タチアナは言葉通りに魔術的迷彩を解除。陽炎の如く揺らめきながら、一体となって飛行する四人が、その姿を現す。
「散っ!」
オルガの声を切っ掛けに、四人は花火の様に弾け、別々の方向に高速で飛び始める。これまでは、魔術的迷彩のせいでスピードが出せないタチアナに合わせ、四人は余りスピードを出さずに飛んでいたのだが、一気に全速力で。
西に向って飛んでいたタチアナは、そのまま西へ。右腕に掴まっていた朝霞は北、左腕に掴まっていたタマラは南、肩に掴まりタチアナの上にいたオルガは、急上昇して上に向い、飛び去り始める。
「――ようやく燻り出せたか」
姿を現し、北に向って飛び去る朝霞を目で追い、アリリオは笑みを浮かべて呟く。他の三人と違い、朝霞だけが青い光の粒子群を噴射して飛んでいるので、北に向かって飛んでいるのが朝霞だと、エンリケの太陽系牢に頼らずとも、アリリオには分かるのだ。
エンリケは既に、橙色の光の粒子を背中の翼から噴射し、北に向かって飛び始めている。トリグラフの三人など、眼中に無いとばかりに。
アリリオは赤い光の粒子群を噴射し、三方向に分かれて飛び去るトリグラフに、順番に目をやってから、どうすべきか迷う。
「タイソン達を出し抜いた連中だ、軽視すべきでは無いが、太陽系牢がある以上、逃げられはしない」
朝霞とエンリケが飛び去って行く、北側に目をやり、アリリオは呟き続ける。
「タイソンと一対一で戦い、金剛杵を使わせた黒猫だ。太陽石が半減してるエンリケだけに任すより、ここは二人がかりで確実に、黒猫を仕留めるべきだろう」
迷った結果、まずは本来のターゲットである黒猫……朝霞を、最優先で倒すべきだと、アリリオは決意。エンリケの後を追い、赤い光の粒子群を、背中の翼から噴射しつつ、アリリオも北に向かって飛び始める。




