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死亡遊戯 67

 まずはエンリケが、光線魔術のモーションに入る。エンリケは両腕を天に伸ばしてから、すぐさま自分が指し示した方向にある森に向ける。

 すると、まるでエンリケの両腕が機関砲にでも化けたかの様に、両掌から橙色だいだいいろの光弾が、轟音を発しながら連射され始める。光弾は流星雨の如く森に襲い掛かり、次々と爆発して炎の花を咲かせ、木々を吹き飛ばし地面に大穴を穿つ。

 エンリケは腕の角度を変えて、森の手前から遠くの方へと、次第に攻撃の狙いを変えていく。先程、指し示した直線上にある森を、エンリケは戦闘機で機銃掃射でもするかの様に攻撃し、爆撃機で空爆したのに匹敵する被害を与え、完全に吹き飛ばしてしまった。

 幅にして百メートル程、五キロ程の長さに渡り、地面には無数のクレーター状の穴が穿たれ、森は分断された。吹き飛ばされた木々の残骸だけでなく、森の木々の一部は燃え上がり、爆煙と混ざり合って、森の上空の大気を汚す。

 目標とする範囲の破壊を終えた頃合に、腕にチャージした魔力が切れたので、光弾の発射を止めたエンリケは、首を傾げてから呟く。

「――妙だな、聖盗連中が姿を現しやがらねぇ」

 エンリケは穴だらけとなった地上から、自分の胸に目線を移動させる。太陽石の周囲にある光点は、四人の聖盗が健在であり、エンリケが攻撃した方向に居る事を示している。

速射激光スーシェジークァンには、仮面者を倒せる程の威力はねぇが、変身前の聖盗が耐え切れる程に、威力が低い訳でもねぇのに」

 速射激光とは、連続で光弾を発射する、エンリケが使った光線魔術だ(光線状ではないのだが、分類上は光線魔術になる)。エンリケの言葉通りの威力があり、敵を仕留める用途よりも、広範囲を適度に破壊して、敵を燻り出したり、飛行魔術を使う敵への牽制に使う場合が多い。

 エンリケは朝霞達が、森の木々の中に潜んでいると考えたので、速射激光で直線上にある森を一掃したのだ。速射激光で朝霞達を倒せるなどと、エンリケは思っていない。

 あくまで森の中から朝霞達を燻り出す目的で、エンリケは速射激光を使ったのである。だが、朝霞達は姿を現さなかったので、エンリケは「妙だな」と思ったのだ。

太陽系牢タイヤンクシィラオに探知された魔術師は、太陽系牢が解除されない限り、太陽系牢の中から出る事は出来ねぇから……」

 破壊され穴だらけとなった方向を、左手で指差しながら、エンリケは続ける。

「この直線上……五キロ以内に、黒猫達はいる筈なんだが」

「あの辺り……煙の流れが、不自然だ」

 エンリケが指差し、攻撃した直線上……といえる範囲の右端、自分達より僅かに高く、一キロ程離れた辺りを、アリリオは指差す。爆発で舞い上がった爆煙や、燃える木々からの煙が、突然の風に流される煙突の煙の様に、急に傾いて流れたのだ。

「突風でも吹いたのかもしれないが、聖盗にはまれに……姿を消せる奴がいる」

 そう言いながら、アリリオは胸の前で腕をクロスさせる。

「黒猫共は魔術的迷彩を使い、姿を消して空中にいるって訳か?」

「――たぶん、そんなとこだろう」

 アリリオはエンリケの問いに答えながら、肘を曲げた状態で、両腕を頭上に振り上げる。

「――相変わらず目聡いな。この前の鳥といい今回の煙といい、普通は気付かねぇよ」

 感心するエンリケの前で、アリリオは両腕を伸ばすと、自分が指差したばかりの方向に、赤く輝く両腕を向ける。今度はアリリオの両掌が、轟音を発しながら、機関砲の様に赤い光弾を連射し始める。

 速射激光と機能的には、ほぼ同じ光線魔術なのだが、光弾の形が無意味に星型になっている、速射星弾エストレイヤ・デ・バラを、エンリケは使ったのだ。これも元々の魔術名を、アリリオが西班牙せいへんがの古い言葉に変えて、使用している。

 無数の赤い星型の光弾が、機関砲による対空攻撃の様に、空中にばら撒かれる。辺りを漂う煙を吹き飛ばしながら、殆どの光弾は彼方へと飛び去って行くが、一部は何かに着弾し、空中で爆発する。

 エンリケは両掌で太陽石に触れて、魔力を両腕にチャージしつつ、興奮気味の声を上げる。

「いやがった!」

 光弾の着弾を示す爆発により、目に見えぬ何者かが空にいるのは確実となった。アリリオが速射星弾を撃ち終えたタイミングを見計らい、エンリケは両腕を爆発が起こった辺りに向けると、再び速射激光を放ち、火の玉の如き無数の光弾を、空にばら撒く。

 大部分の光弾は彼方へと飛び去るが、一部の光弾は空を行く何者かを直撃。幾つかの爆光を空に煌かせ、大気に爆煙を撒き散らす。

「――牽制用の光弾でも、あれだけ食らえば普通は墜ちる筈。かなりの防御能力の持ち主がいる様だな」

 そう言いながら、速射星弾の発射モーションに入ったアリリオに、速射激光の連射を終えたエンリケが声をかける。

「右に逃げた!」

 エンリケは胸元を見下ろして、光点の位置を確認しつつ、光点が示す方向を、左手で指差していた。

「高さも変えただろう、上下に散らしてみるか」

 アリリオはエンリケが指差す方を向くと、両腕を伸ばして速射星弾の発射を開始。腕の角度を上下させ、赤い星型の光弾を、上下に幅を持たせてばら撒く。

 すると、アリリオより百メートル程高く、一キロ半程離れた辺りで、光弾は何者かに着弾して爆発する。爆発が起こった辺りに、アリリオは腕にチャージした魔力が尽きるまで、光弾を連射し続ける。

 だが、アリリオの連射の途中で、光弾は何者かに当たらなくなる。空を行く何者かが移動し、降り注ぐ光弾を回避したのだ。


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