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死亡遊戯 59

 瞼越しにでも陽の光を感じる程度に、寝室が明るくなったせいで、朝霞は目覚め始める。まどろむ朝霞の耳は、心地良さ気な寝息を聞き取る。

(朝か……)

 大きく息を吸い込んだ朝霞は、好ましくは無い臭いを嗅いでしまい、顔を顰める。何処と無く獣臭い臭いと、えた臭いが混ざり合った感じの臭いだ。

 寝息と臭いが、一人寝ではなかったのを、朝霞に思い出させる。それだけでなく、寝息を立てている三人を相手に、寝入る前に自分がしてしまった行為を思い出し、朝霞は頬を赤らめつつ、羞恥と自己嫌悪に苛まれる。

(――臭いがキツイんだよな、こいつらは)

 羞恥を覚える様な行為をすれば、肌や布団などが色々な体液に塗れたりもする訳で、それらは時間が過ぎれば悪臭を残す。普段、そういった行為の相手となる、三人の同居人よりも、残された臭いが強いのだ、城舗栄でベッドを共にしている三人は。

(ま、もう慣れたけどさ……)

 心の中で呟きながら、ゆっくりと瞼を上げた、朝霞の目に映るのは白い天井。紅玉界の聖盗達が避難所としている屋敷で、朝霞とトリグラフの三人が利用している、ホテルの部屋を思わせる設えの、寝室の天井だ。

 寝息は両側から聞こえるが、一番近くからだと思われる右隣に、朝霞は目をやる。朝陽に煌く産毛が見える程の近くで、仰向けに寝たまま、呼吸に合わせて胸を上下させている、タマラの裸体が朝霞の目に映る。

 白いバスローブを毛布の様に使い、腰の辺りまで申し訳程度に覆っているが、胸は完全に露になっていた。ただし、女性的な膨らみとは無縁の胸である為、女性的な顔立ちの少年が寝ている風にしか見えない。

 一番近く、つまり同じベッドの右隣に寝ているのがタマラだったので、オルガとタチアナが、左側に並べて置かれているベッドで寝ているのが、朝霞には分かる。トリグラフの三人と朝霞は、同じ部屋にベッドを二つ並べて、夜を過ごしているのである。

 視界に入ったのがタマラだったのに、朝霞は安堵する。

(蛇女やジャラジャラじゃなくて良かった、あの二人の裸は……色々刺激が強過ぎて、起きたばかりじゃ目の毒だ)

 魅力的な異性ではあるのだが、タマラの場合は上半身だけなら、肌も露な姿を見ても、余り女を感じずに済むので、朝霞は性的な刺激を受け難い。でも、オルガとタチアナの場合は、見た目だけでも女としての魅力が、暴力的な程に強い為、目にするだけでも性的な刺激を受けてしまい、身体が反応してしまいかねない。

 朝霞としては、それは避けたかったのだ。

(一昨日みたいな事になったら、困るし……)

 トリグラフの三人は、様々な行為を楽しんだ後、朝霞と同じベッドで寝る順番を、初日の夜に籤引きで決めていた。タチアナが最初で二番目がタマラ、最後がオルガという順であり、一昨日……つまり三度目の朝、目覚めた朝霞の隣にいたのはオルガ。

 目覚めて早々、艶っぽい魅力に溢れたオルガの裸体を目にして、つい身体が反応してしまったのを、朝霞はオルガに気付かれてしまった。結果、強引に求めて来たオルガに流され、寝る前の続きを始める羽目になり、目覚めたタチアナとタマラも加わる形で行為は長引き、朝霞は朝から体力を消耗し過ぎてしまったのである。

 そのせいで、朝霞は一昨日の午前中、体力回復と体術の感覚を取り戻す為のトレーニングが、まともに出来ない状態になってしまった。一日でも早く、元の感覚と体力を取り戻したい朝霞としては、一昨日みたいな状況に陥りたくはないのだ。

 命を救われた上に、重傷の治療までして貰ったばかりの朝霞としては、トリグラフの三人からの求めを、気分的に強くは拒み辛い。それに、自身にも歳相応の性欲や性的好奇心がある為、なし崩し的に相手をする流れになってしまうだろう事が、朝霞には分かっているので、朝っぱらから相手が「その気」にならない様に、求められない様にしたいのである。

 ちなみに朝霞は、三人の同居人達相手と同様、トリグラフの三人を相手にも、相当に刺激的で淫靡な行為に及んではいても、最後の一線を越えるには至っていない。その一線を越えるのは、朝霞自身が拙いと思っていて、強く拒むせいでもあるのだが、同居人達やトリグラフの方にも、一線を越え難い理由がある。

 聖盗としての活動に支障をきたすのが確実な、妊娠を避ける為というのが、その理由だ。ティナヤの場合は、黒猫団の活動のサポートと、大学生生活への支障というべきだが。

 科学技術や工業生産能力において、蒼玉界に劣る煙水晶界は、出来の良い避妊具が殆ど流通していない。月経周期を利用したり、中に出さないといった、確率の低い避妊法しか一般的には使用されない為、煙水晶界では男女が一線を越えるハードルが、蒼玉界よりも高いのだ。

 娼婦などは、完全に近い形で妊娠を防げる魔術を使用しているが、その類の魔術は身体的なダメージのリスクから、禁術となっている。娼婦などが裏社会で使う場合を除いて、殆ど使用されてはいない。

 そういった、煙水晶界における避妊法の事情を背景とした、女性陣の都合も、朝霞相手に性的好奇心と欲望を満たしはするが、最後の一線を越えない理由となっている。

(とにかく、さっさとシャワー浴びて、トレーニング場行こう)

 朝霞は上体を起こすと、毛布代わりにしていた白いバスローブを手にベッドから下り、バスローブを羽織りつつスリッパを履く。その間、オルガとタチアナの裸体が、なるべく視界に入らない様に、朝霞は気を付ける。

 そして、部屋のドアの近くにあるシャワールームに向って、朝霞は移動を始める。寝入る前の行為で汚れた身体を清めつつ、心と身体を完全に目覚めさせる為に。




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