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天橋暮らし 14

 朝霞はシールドカードを読み進める。

 オルガから貰ったシールドカードには、記憶結晶の所在に関する情報だけでは無く、他にも色々な情報が載せられていた。


 例えば、注意警戒すべき事柄などに関してなど。


「――例の記憶警察襲撃犯に関して、多少……新しい情報が手に入ったみたいだ」


 朝霞の言う、「例の記憶警察襲撃犯」とは、記憶警察関連施設を襲撃する、謎の犯罪者達の事である。

 違法に取引される記憶結晶を記憶警察が押収した際、記憶結晶は記憶警察の関連施設に、暫定的に保管される。


 その上で、記憶結晶は全て消滅処理を行われ、記憶は持主の元に戻されるのだが、そこはお役所仕事という奴で、消滅処理が行われるまでに時間がかかってしまう。

 その消滅処理が行われるまでの間、保管されている完全記憶結晶を、記憶警察の保管施設を襲撃し、強奪する犯罪者達が存在するという情報が、以前から流れているのだ。


 この事件は、朝霞達が煙水晶界を訪れる一年程前から、続いている。

 ろくな目撃者もおらず、犯人達については、高度な魔術的能力と戦闘能力を持つという事以外、殆ど分かっていないのが実情なのである。


 その殆ど分かっていない、記憶警察襲撃犯に関する情報が入ったという、オルガの書いた文面を見て、朝霞は当然の様に、強く興味を惹かれる。


「少し前に、紅玉界からの聖盗連中が、記憶警察の保管施設で、記憶警察襲撃犯に遭遇したんだそうだ」


 シールドカードには、記憶警察が保管したまま、消滅処理を行わなず放置している紅玉の引渡しを求めて、紅玉界からの聖盗達が、保管施設に向かったという、遭遇に至る経緯も記述されていた。

 だが、その情報は話す必要は無いだろうと判断し、朝霞は端折って話を続ける。


「そこで聖盗連中は記憶警察と共に、襲撃犯と戦ったんだが、襲撃犯の戦闘能力は強力で、相当なダメージを受けた上で、逃げ延びるのが精一杯だったらしい。たった一人の襲撃犯相手に、戦闘用魔術のエキスパートである、記憶警察の警備部隊数十名と、仮面者に変身した三人の聖盗が共闘したというのに……」


「たった一人で、それだけの戦力相手に圧勝か……。記憶警察襲撃犯の戦闘力の高さは、噂には聞いていたが、そこまでとはな」


 深刻な面持ちで、幸手は呟く。

 完全記憶結晶の収集が狙いだろう、記憶警察襲撃犯とは、完全記憶結晶の回収を目的とする聖盗である幸手……というか黒猫団自体も、交戦する可能性が有る為、この問題は他人事では無いのだ。


「新しい情報っていうのは、紅玉界の聖盗連中が、記憶警察襲撃犯と戦ったって事だけか?」


 神流の問いに、朝霞はシールドカードを読みつつ、答えを返す。


「いや、今回の情報は、その聖盗連中が……襲撃犯の、かなり変わった特徴に関する情報を、入手したって奴らしいんだが。えーっと、次のページに解説用のイラストが、描いてあるのか……」


 シールドカードのページをめくり、その解説用のイラストを、朝霞は確認する。

 そして、頭を強く殴られたかの様な衝撃を受けた朝霞は、目を見開いて、食い入る様な目でイラストを睨み、そのまま数秒間、硬直してしまう。


「――どうした?」


 朝霞の様子が変わったのに気付いた神流が、訝しげに問いかける。

 すると、朝霞は黙ったまま、自分が見ていたシールドカードを神流の方に差し出し、イラストを見せる。


 神流だけでなく幸手も身を乗り出し、イラストを覗き込む。


「!」


 イラストを目にした神流と幸手も、朝霞同様に驚きの表情を浮かべ、硬直する。

 何故なら、そのイラストに描かれた姿に、神流と幸手も見覚えがあったからだ。


「これは、あの時の奴じゃないか!」


 神流が言う「あの時の奴」とは、大忘却発生の際、川神高等学校の校庭で、黒猫団の三人が目にした青年の事である。

 チャイナドレスに似た服に、ドレスと同色の細身のパンツという出で立ちの、女と見紛う様な二人の青年を思い出さざるを得ない外見的特長を、イラストに描かれた人物は備えていた。


 その特徴とは、胸の中央に埋め込まれている球体の存在である。

 イラストに描かれた青年の胸には、大忘却時に見かけた青年達と同様、胸の中央に球体が埋め込まれていたのだ。


 自分達が煙水晶界に来る原因を作った者達と、イラストに描かれている人物が、同じ特徴を備えていた為、朝霞達は硬直する程に驚いたのである。


「いや、あの時の二人とは違う。あの二人の胸にあった完全記憶結晶は、翠玉すいぎょく瑠璃玉るりぎょくだったからな」


 朝霞は神流の言葉を否定しつつ、イラストに添えられている、解説文を指差す。

「胸の球体は、何か模様が描かれた、琥珀玉こはくぎょくと思われる」と記された、解説文を。


 解説文に目を通した神流と幸手は、成る程とばかりに頷く。

 ちなみに、朝霞達にとって、大忘却の際……見かけた二人の青年の胸に埋め込まれていた、球体の正体は不明だった。


 だが、煙水晶界に来てから、朝霞達は二人の青年の胸にあった球体と、そっくりな物を目にしていたのだ。

 それが、完全記憶結晶状態の、翠玉と瑠璃玉である。


 故に、現在の朝霞達は、あの謎の青年達が胸に埋め込んでいたのは、翠玉と瑠璃玉の完全記憶結晶である可能性が高いと、認識していた。

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