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死亡遊戯 57

「それに……魔術での若作りと言えば、実践しまくりなのはエアハルトじゃないか!」

 閔兄弟に続いて、ティルダは戦闘服姿の男……エアハルト・フォン・ゼークトを指差し、食って掛かり始める。

「処刑されたのが六十過ぎなんだから、二十年は身体を若返らせてる筈じゃないか! 何を他人事みたいに、微妙な顔していやがんだよ?」

 突如、矛先が自分に向いたのに狼狽しつつ、エアハルトは弁解を口にする。

「――よわい六十過ぎの身体では、激しい魔術戦闘は厳しいのでな、回春術で二十年程若返らせただけだ。それに、君と違って回春術の使用を隠しては……」

 ティルダが身体を若返らせる魔術……回春術を使った上で隠しているという意味合いの話を、口にしてしまったのに気付き、エアハルトは話を途中で止める。踏まずに済んだ地雷を、踏んでしまったかの様な表情を、エアハルトは浮かべている。

「あたしが何を隠してるって?」

 威嚇する猫科の猛獣を思わせる、迫力ある表情と口調で、ティルダはエアハルトを詰問する。

「――龍の逆鱗に触れたか」

 眉を八の字にした困り顔で、エアハルトは愚痴る。猫科の猛獣を思わせる表情や口調なら、虎の尾を踏んだと表現する方が相応しいのだろうが、エアハルトが龍に例えて話したのは、ティルダがナーガの八部衆だからだ。

「あたしは老化を止めてるだけで、若返りの回春術は使ってないって、何度も言ってるだろ! まだ二十代後半だから、二十代後半!」

 強い口調で文句を言い続けるティルダに、どう対処したものか、困り顔を浮かべるエアハルト……。そんな二人の様子を見て、楽しげに笑っている閔兄弟……という感じで、四人の作業は完全に止まってしまっていた。

「お前等、手が止まらないなら、雑談くらい好きにしろって話だが、作業の手が止まるんだったら、雑談は控えろ! 今日中に曼荼羅への配置を、終わらせる予定だろうが!」

 雑談している時でも、作業は続けていたタイソンが、他の四人を呆れ顔で窘める。

「タイソンの言う通りだ! 作業の手が止まるようでは、雑談に興じてなどいられぬな!」

 渡りに船とばかりに、エアハルトはタイソンの言葉に乗っかる。

「聖盗共との合流の前か後かは分からぬが、戦力を揃えたアナテマは、近い内に仕掛けてくるだろう。その前に菩提薩埵を起動させておかなければ、まずい事になるやもしれん」

 足元の袋から紅玉を取り出しつつ、エアハルトは言葉を続ける。

「暫くは、黙って作業に集中する事にしよう」

「あー、教授誤魔化したー!」

 閔兄弟は声を揃えて、少女の様に囃し立てる。

「こんな話の流れになったのは、お前等が回春術の話なんざ、持ち出したからだろ」

 うんざりした風な表情と口調で、タイソンは閔兄弟を咎め立てる。

「口ではなく手を動かせ、手を!」

 タイソンに咎められた閔兄弟は、完全記憶結晶のチェックと配置作業を再開する。華麗は悪びれた様子も見せず、麗華は少し悪ふざけが過ぎたと思ったか、僅かに気まずそうな表情を浮かべて。

 その後、五人は黙々と作業を続けたが、静寂は長くはもたなかった。

「――虫湧いてるよね? またエンリケが生ゴミ、溜め込んでんじゃない?」

 作業中、何度か付近を飛び回る羽虫を目にした華麗が、不愉快そうに口にした問いを切っ掛けに、結局は雑談が再開されてしまったのだ。華麗がエンリケの名前を出したのは、エンリケが生ゴミを溜め込んだ結果、虫が大量発生した事が、以前あったせいである。

 結局、菩提薩埵の復活作業は、雑談と共に続けられた。一機で国家すら殲滅が可能な、香巴拉の超兵器を復活させる為とは思えぬ程、気楽な雰囲気で作業は続けられているが、八部衆達は決して油断などしておらず、念入りな完全記憶結晶のチェックが行われ続けた。

 完全記憶結晶に魔術式が仕掛けられていれば、法輪によるチェックで発見出来る。既に発動済みの魔術が引き起こした何かが、完全記憶結晶に仕掛けられているなら、それも高度な能力を持つ魔術師である八部衆であれば、普通なら見逃す筈など無い。

 ただし、何事にも例外というものが、僅かではあるが存在するものだ。例えば、香巴拉式を使える者には決して使えない相性の悪さ故、香巴拉において殆ど研究が進まなかった、特殊な魔術流派の魔術が、その例外と成り得る。

 その魔術流派であっても、攻撃魔術など……分かり易い魔術的現象を引き起こす魔術なら、五感により明確に感知し認識出来る為、見逃す様な事は無い。だが、その魔術流派の魔術により、ごく小さな規模で引き起される、有り触れた現象に似せた魔術的現象は、八部衆であっても、見逃す可能性が無いとは言い切れない。

 この時、既に敵の仕掛けた何かが、動き始めていたのだ。だが、余りにも静かで地味な動きであったが故に、八部衆は誰一人、その動きに気付けずにいた。




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