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死亡遊戯 56

 滅魔煙陣の使い手である妖風が、崑崙崩壊以前から崑崙最強の存在であり、死神スーシェンの通り名を持っていた、飛鴻と組んでいたのを知っていたタイソンは、ハノイには妖風だけでなく、飛鴻もいただろうと推測。裏社会に潜っていた飛鴻と妖風が、アナテマの大作戦にハノイが巻き込まれるのを防ぐかの様に、ハノイに現れた理由は、二人がアナテマに参加したからではないかと、タイソンは考えた。

 タイソンの話を聞いた、独逸どくいつ州で軍大学の教授であった過去を持つ事から、教授という仇名で呼ばれている戦闘服姿の男も、タイソンの意見に同意。タイソンをして、完全な状態でなければ勝てると言えない存在である飛鴻と、金剛杵にすら耐え得る結界を張れる妖風が、アナテマに合流したという最悪のケースを想定し、備えておくべきだと戦闘服姿の男は主張した。

「想定を超える戦力を揃えたと思われるアナテマに、交魔法に至った聖盗共までもが合流したら、天が復活する前の我等では、勝てぬ可能性もある」

 左手に持つ煙水晶を、胸元の紫水晶に触れさせながら、戦闘服姿の男は話を続ける。

「封印戦争の頃より、現在の聖盗の数は遥かに少なく、確率的に交魔法に至る者も少数の筈だが、交魔法に至った聖盗は異常な力を得る場合がある。その脅威を軽んじる訳にはいくまい」

「異常な力……かっての香巴拉の天敵の様に?」

 戦闘服姿の女が言う「かっての香巴拉の天敵」とは、封印戦争の時代に活動していた、朝霞ではない黒猫を意味している。

「そうだ。まぁ、我等の天敵……あの黒猫は、交魔法を使う前から、性質たちの悪い能力を持ってはいたが」

 受け継いだ記憶の中にある、かっての黒猫の事を思い浮かべ、戦闘服姿の男は顔を顰める。

「交魔法に至り、奴の『奪う蒼』が異常な進化を遂げなければ、菩提薩埵が何度も機能停止に追い込まれる事は無かった。我等の先達はハデスの兜の発動前に、無常流転門を破壊出来ていた筈だったのだ」

「今回の黒猫は、そこまでの力を得る前に殺せて良かったじゃない。お手柄よタイソン、ご褒美に一晩くらいなら、相手してあげてもいいんだけど?」

 戦闘服姿の女が、頭と腰に手を当てて、しなを作って見せながら、冗談染みた口調でタイソンに声をかける。

「――遠慮しとく、俺は年下が好みなんだ」

 冗談なのは分かっているので、にべもなくタイソンは言い放つ。何時の間にか姿を現した、周囲を飛び回っていた羽虫を、手で払い除けながら。

「そうそう、タイソンの好みは僕等みたいな年下だから」

 華麗の軽口を聞いたタイソンは、渋い表情で言い直す。

「俺は年下の女が好みなんだ」

「私達も心は女だけどね、身体が男なだけで」

 からかう様な口調の麗華の言葉を聞いたタイソンは、努めて平静を装った口調で言い放つ。

「俺は年下の女が好みなんだ……心だけじゃなくて、身体も女のがな」

「身体の性別なんて、魔術でどうにでもなるんだけどねぇ」

 肩を竦めながらの麗華の言葉を、同じポーズの華麗が受け継ぐ。旗袍や完全記憶結晶の色、ポニーテールとストレートという髪型の違いがあるので、鏡に写したという程ではないが、双子だけの事はあり、仕草までもが良く似ている。

「性別変えると戦闘能力が極端に落ちるから、世界を香巴拉のものにするまでは、その魔術は使わないけどさ」

 二人の話は嘘では無く、香巴拉式の魔術には、身体を作り変えて性別を変えるものがある。ただし、本来の性別であった間に鍛え上げ、獲得した身体的能力の殆どを失ってしまう。

 閔兄弟の場合は、タイソン程ではないにしろ、高度な四華州の武術能力を持つ。しかも、香巴拉式の戦闘用魔術は、仙術や陰陽術と同様、武術と魔術が融合した魔武術ベラマギとしての性質が強い為、より戦闘能力を引き上げる為には、体術の修練も必要となる。

 もしも魔術で性別を変えてしまえば、閔兄弟の高度な戦闘能力を支える身体的能力や、体術が失われてしまい、大きな戦力ダウンとなってしまう。そうなれば、魔術国家香巴拉を復活させ、煙水晶界の支配権を取り戻すという、八部衆……いや香巴拉の現在の目標達成が危うくなる。

 故に、法輪による精神支配が発動し、性別を変えたいという閔兄弟の願望を、実行に移させない様にしているのだ。

「性別も身体の年齢みたいに、戦闘能力を落とさず、気楽に変えられたら良いのにな」

 戦闘服の女の方を、半目で見ながらの華麗の言葉を、今度は麗華が受け継ぐ。

回春術かいしゅんじゅつ使って若作りすれば、ある程度までとはいえ、戦闘能力が上昇するくらいだもんね」

 肉体を若返らせる事が出来る、香巴拉式の魔術が回春術。一度に十年単位で若返らせたりすれば、性別転換同様のデメリットがある。

 だが、数年ずつ徐々に若返らせれば、デメリットは殆ど無い。それどころか、身体が若返った分、体力や身体強度が上がり、戦闘能力が上昇する場合が多いのだ。

 そんな回春術に関する会話を、自分の方を見ながら交わした閔兄弟を、戦闘服姿の女は睨み付ける。

「何故、あたしの方を見ながら、回春術の話をする?」

 戦闘服姿の女の問いかけに、しれっとした顔で、麗華は答を返す。

「いや、ほら……魔術を使った若作りといえば、やっぱティルダが詳しいじゃない。実践してる訳だし」

「実践してないって、何度も言っているだろ! 老化を何年か止めてはいるけど、若返らせた訳じゃない!」

 戦闘服姿の女……ティルダ・ヴァルカーレは、語気を強めて抗議する。目の前を横切ろうとした羽虫を、邪魔臭いとばかりに手で払い除けつつ。

「二十代後半だから、あたしは! まだ三十前!」

 二十代後半を自称するティルダの発言を耳にして、その場にいる全員が、微妙な表情を浮かべる。明らかに発言を信じていない、呆れ返った風なニュアンスの表情だ。

「お前等、何だそのツラは?」

 皆の表情から、大体どんな事を考えているかを察し、ティルダは語気を荒げながら、閔兄弟を指差して、言葉を続ける、

「だいたい、お前等だって老化は止めてるんだから、見た目通りの歳じゃないだろ!」

「――老化を止めてると言っても、私達の場合は三年程度だから、大して変わらないよ」

 麗華の言葉に、華麗は頷いて同意を示す。どちらも二十歳前後、若く見れば十代後半に見えなくもないが、魔術的に身体の老化を三年間止めているので、実際は二十歳を超えている。


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