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死亡遊戯 53

 封印戦争時、七天守護聖セブンヘブンスの最後の結界を破れずに、八部衆は全滅。二機の菩提薩埵も破壊された。だが、香巴拉を倒した当時の連合軍は、一つのミスを犯してしまった。

 菩提薩埵の残骸は、封印戦争の終結後、建国されたエリシオン政府の魔術研究組織が回収、研究を行う事になっていた。ところが、研究開始直後、殆どの残骸が忽然と消え失せてしまったのである。

 原因は、菩提薩埵の主要パーツに仕掛けられていた、鹵獲ろかく防止用の魔術機構が作動した為だった。香巴拉式魔術の情報流出を防ぐ為、香巴拉式以外の魔術により、パーツ内部の主要部位が弄られた場合、敵に捕らわれそうになった軍艦が、鹵獲を防ぐ為に海に自沈するかの様に、パーツが亜空間に自沈……沈み込む様に投棄されるシステムが、搭載されていたのだ。

 エリシオン政府機関による研究開始と共に、その鹵獲防止機構が作動し、菩提薩埵の主要パーツの殆どは亜空間に消え去り、行方知れずとなった。殆どであり全てでないのは、パーツの損傷度合いが酷く、鹵獲防止機構が作動しなかった物が、僅かにあった為。

 亜空間に投棄された菩提薩埵のパーツは、封印戦争後に散発的な復活を遂げた八部衆達により、少しずつサルベージされ続けた。当代の八部衆ではアリリオとエンリケが、サルベージを担当していたのだが、二機の菩提薩埵を修復するのに十分なパーツを集め終えた為、最近になって二人も完全記憶結晶の収集に回った(収集を専らとするのは、タイソンと閔兄弟の三人だが、手が空いた者は収集に回る)。

 過去の八部衆や、アリリオとエンリケがサルベージしたパーツは、曼荼羅の作成も担当していた、乾闥婆とナーガを中心として、修復が続けられた。そして、二機の菩提薩埵の修復が終わり、起動に必要な完全記憶結晶が揃い、曼荼羅の作成も終わった為、念願であった菩提薩埵の起動作業を開始すべく、八部衆は準備を進めているのである。

「まぁ、仮に卒塔婆や羅漢が残っていても、私達の労力に大差は無かったんじゃないかな」

 華麗とタイソンの会話を、同じ曼荼羅の上の、少し離れた場所で聞いていた麗華が、口を挟んでくる。緑の旗袍の胸元から顔を出している、仄かな緑色の光を放つ翠玉に、右手に持つ蒼玉を触れさせながら。

「アナテマが宝珠に何か仕掛けたかもしれない可能性を考えると、こうやって一つ一つ……法輪で魔術式の有無を調べなければ、危険だからね」

 麗華が持つ蒼玉の光は、すぐに消え失せる。光が失せた蒼玉を、華麗の方に差し出して見せながら、麗華は言葉を続ける。

「アナテマから直接奪った宝珠の場合は、私達に奪われた時に備えて、アナテマが何らかの魔術式を仕掛けた可能性が高いのは、当たり前。アナテマ以外から回収した宝珠も、途中でアナテマの手に渡り、何かを仕掛けられている可能性もあるから」

 完全記憶結晶を曼荼羅に配置する前に、胸の完全記憶結晶の光に触れさせているのは、魔術式の有無を確認する為。法輪には魔術式の有無をチェックする能力があるので、法輪にセットされた完全記憶結晶に触れさせれば、完全記憶結晶に何らかの魔術式が仕掛けられているなら、どんな偽装が施されていようが、発見出来るのだ。

 タンロン鉱山跡で、アナテマから手に入れた完全記憶結晶は、星牢という相当に強固な魔術的結界に保護されていたが、八部衆なら解除出来る事は、アナテマにも分かっていた筈。となれば当然、奪われた場合に備えて、完全記憶結晶自体にも何らかの対策を施してあるのではないかと、八部衆の殆どの者達は警戒した(華麗とエンリケは、警戒しなかった)。

 故に、曼荼羅に配置する前に、完全記憶結晶の魔術式の有無を、八部衆が自ら調べる事にしたのだ。五人の八部衆は昨日から、完全記憶結晶を法輪で調べた上で、最終チェックを終えた曼荼羅に並べる、地道な作業を続けていた。

 アナテマが罠を仕掛けた可能性があるので、八部衆自ら調べる必要があるのは、華麗も事前の話し合いで理解していた。それでも、既に一日半も単純作業を続け、飽き飽きした挙句、不満をぶちまけたという格好だ。

「――狡いよな、アリリオとエンリケは」

 華麗は半目で、不満を口にし続ける。不満をぶつける矛先が、単調な作業からアリリオとエンリケに変わる。

「自分達だけ面倒な作業から逃げて、墨西哥に行ったっきり帰って来ないし」

「あの二人が墨西哥に行ったのは、お前等がタンロンで紅玉を聖盗に奪われて、紅玉が足りなくなったからだろうが」

 タイソンが作業を続けながら、華麗に言い放った言葉を聞いて、華麗は気まずそうに目線を泳がせ、麗華は華麗を睨む。タンロン鉱山跡で紅玉を奪われたのは、華麗だけでなく麗華のせいでもあった。

 華麗の愚痴が呼び水となり、その話を今更タイソンに持ち出された麗華としては、自分で藪をつついた訳でもないのに、蛇が出た様なもの。だからこそ、藪を突いた本人である華麗を、麗華は睨み付けたのだ。


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