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死亡遊戯 49

「――いや、だが……噂で聞いてたのと違うだろ? 聖盗でも無いのに、ここ暫く完全記憶結晶の強奪を続けてる妙な連中は、たしか四華州系の連中で、四華州の武術とエリシオン式の魔術や、仙術を組み合わせて使う、若い男女の筈じゃないか?」

 白酒屋同盟自身や付き合いがある組織などが、ここ暫くの間に襲撃を受けて、完全記憶結晶などを強奪された、得体の知れない連中に関して、ある程度の情報をボスは得ていた。その「得体の知れない連中」が、華武服や旗袍に身を包んだ、四華州の武術とエリシオン式の魔術や、仙術を組み合わせて使う、四華州系の若い男女だという情報を。

 その三人は、八部衆の中で完全記憶結晶の製造と回収を、主に担当していた閔兄弟とタイソンだった。閔兄弟は女と間違われ、タイソンは華武服と武術のせいで、越南州ではなく四華州の人間と勘違いされていたが。

 みん兄弟の、特に麗華が中心となり、異世界の完全記憶結晶の製造は行われる。大忘却の際、閔兄弟が歌を歌いながら、万単位の人間の記憶を奪い、完全記憶結晶を作り出していた光景を、朝霞は目にしていたが、あれは麗華が持つ歌舞天恵グーウティンフェイという、固有の能力を使い、一気に大量の完全記憶結晶を作り出し、煙水晶界に運んでいた光景だった。

 歌舞天恵は、歌と舞を組み合わせる場合が多いが、歌だけだったり、舞だけだったりする場合もある。膨大な完全記憶結晶を作り出す場合、歌舞天恵は歌だけで舞は無い。

 そして、歌舞天恵とはいえ、一度に万単位の完全記憶結晶を作り出すのは至難の業で、麗華の負担が重くなり過ぎる。だが、別の香巴拉の魔術師が、麗華と共に歌を歌い舞を舞えば、麗華の負担が軽くなるという性質が、歌舞天恵には存在する。

 故に、双子であり相性が良い華麗が同じ歌を歌って、麗華をサポートしていたのだ。麗華と違い、華麗は歌や舞が苦手なので、異世界に向う前に徹底的に、歌の指導を受けて練習を積んだ上で。

 遠過ぎる異世界は、香巴拉の八部衆とはいえ、滅多に通路を開けない。故に、開いた時には大量の完全記憶結晶を、一度に作り出す必要がある。尚且つ、煙水晶界から遠い為、虚空泡沫も使えないので、膨大な完全記憶結晶を虚空門を通じ、煙水晶界に向けて吹き飛ばす形で送り込むしかない。

 だが、遠過ぎる異世界同士を繋ぐ虚空門は、八部衆であっても安定させ続けるのは難しく、煙水晶側の出口の位置が揺らいでしまう。結果として、完全記憶結晶は煙水晶界の至る所に、散らばってしまう羽目になるのだ。

 その世界中に散らばった完全記憶結晶の回収を、主に担当していたのがタイソンと、閔兄弟という訳である(麗華は別件も担当していて、その途中で朝霞に塗炭通りで発見されたが)。この三人は香巴拉の魔術無しでも、四華州の武術とエリシオン式の魔術や、仙術を駆使すれば、大抵の相手より有利に戦える為、長距離移動用の虚空門以外は、殆ど香巴拉の魔術を使わずに、完全記憶結晶の回収を行えていた。

 もっとも、強力な魔術師や聖盗などが相手だと、流石に香巴拉の魔術を使わざるを得なかった。故に、アナテマに大規模な罠を仕掛けられる程度に、存在は気付かれてしまっていたのだが。

 無論、全ての完全記憶結晶を八部衆が回収出来る訳では無い。かなりの数が裏社会の人間に先に回収されてしまったり、誰にも発見されぬまま放置され続けたりもする。

 白酒屋同盟などの裏社会の人間があきなう完全記憶結晶は、当代の八部衆が煙水晶界に送り込んだ、回収前の物だったり、過去の八部衆が送り込んだまま回収し損ない、放置され続けた物だったりするのである。ちなみに、長期間放置された完全記憶結晶は、見た目は余り変わらないが、実はかなり劣化してしまっている(特に記憶の本来の持ち主の死亡後は極端に)。

 同じ八部衆でも、アリリオやエンリケは最近まで、別の役目を担当していたので、完全記憶結晶の強奪を始めたのは、つい最近になってから。故に、ボスが言うところの「得体の知れない連中」としては、まだ余り目撃されていない為、ボスはアリリオとエンリケが、「得体の知れない連中」だと気付けなかった。

 魔術戦闘の専門家であるロレンソは、「得体の知れない連中」についての情報を調べていて、数は少ないが武術やエリシオン式の魔術だけでなく、桁違いに強力な禁忌魔術を、「得体の知れない連中」が使うという情報を得ていた。結果、「得体の知れない連中」について、とある疑念を抱いていた。

 そして、「得体の知れない連中」の仲間と思われる二人と実際に出会い、疑念は確信へと変わったのである。

「ボスは何故、異世界の記憶結晶が、煙水晶界に存在するか、ご存知で?」

 ロレンソの問いに、ボスは常識的な答を返す。

「何故って、そりゃあ……異世界と行き来出来る、禁忌魔術の使い手連中が、異世界から奪って来ているんだろ」

 予想通りの返答だとばかりに、ロレンソは再びボスに問う。

「――その禁忌魔術の流派の名は?」

「それは……知る訳が無いだろう。誰も知らないからこそ、オクルトスと呼んでいるんだし」

 ボスの言うオクルトスとは、古来より異世界から煙水晶界に記憶結晶を持ち込んできた者達に、異世界の記憶結晶を商う裏社会の者達が、便宜的につけた名称である。エリシオンの魔術言語で「隠された者達」という意味の、オクルトス・エス・キスモスという言葉の冒頭部分が、そのまま単語として使われる様になった言葉だ。


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