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死亡遊戯 47

「いい加減な事言ってんじゃねえぞ! 何か根拠があっての話だろうなァ?」

 凄んでみせながら、エンリケはボスを問い質す。

「――妙な連中の襲撃で、結局は開催されなかったそうだが、タンロン鉱山跡のマーケットに参加する為に、ウチもバイヤーをハノイに送り込んでいたんだ」

 ボスの話は嘘では無い。実際、完全記憶結晶の入手が難しい時期、世界の何処だろうがマーケットには手を出さなければならないとばかりに、アナテマの罠だったハノイのブラックマーケットにも、越南州に詳しい子飼いのバイヤーを、白酒屋同盟は送り込んでいたのである。

 ブラックマーケットが正体不明の者達の襲撃で流れたのは、白酒屋同盟のボスも知っていた。だが、アナテマの暗躍に関する情報は完全に伏せられていた為、ボスもブラックマーケット自体が、アナテマの罠だった事は知らない。

「そのバイヤーが、ハノイの裏社会の連中から聞いた話じゃ、大怪我した黒猫と紅玉界の聖盗らしき連中は、聖盗の支援組織の連中に手引きされ、ハノイから無事逃げ遂せたそうだ」

 アリリオとエンリケは顔を見合わせ、驚きの表情を浮かべる。その上で、エンリケがボスに問いかける。

「その話は確かなものかね?」

「さぁ、どうだろうなぁ?」

 ボスは惚けた口調で、立ち話を続ける。

薬幇ヤンバンの連中の間で流れてる噂だそうだが、俺は事実だろうと思ってるよ」

「何だ、ヤンバンってのは?」

 意味が分からない言葉だったので、エンリケはボスに訊ねる。

「ハノイの裏社会仕切ってる、ウチの同業者さ。流れたマーケットは、薬幇の仕切りだ」

「――噂というのは、どの様な?」

 アリリオに問われたボスは、噂に関する説明を始める。

「タンロン荒野での戦いが終わった後、ハノイの近くで薬幇の連中が、黒猫を見たって噂さ。変身はしていなかったし、重傷を負っていたらしいが、生きていた黒猫の姿をな」

「変身していなかったのなら、何故黒猫だと分かった?」

 黒猫の素顔……つまり朝霞の顔は、知れ渡ってはいない。それなのに、薬幇の人間が変身していない状態で、何故に黒猫だと判別出来たのか、アリリオは疑問を抱いたのだ。

「黒猫はマーケットの前日に、薬幇のアジトで騒ぎを起こしたんだが、その時に薬幇の一部の連中相手に、素顔を晒している。重傷を負った黒猫を見かけたのは、その中の一人だ」

 写真などに素顔を記録された訳ではないが、薬幇のアジトで騒ぎを起こした時、朝霞が戦った相手などに、朝霞の顔は黒猫の素顔として記憶されていた(飛鴻と戦った際、黒猫と思われる仮面者に変身した為)。そして、朝霞の顔を記憶していた薬幇の男が、滅魔煙陣にハノイが覆われていた際、滅魔煙陣の外側に取り残されていたのだ。

 タンロン荒野での戦いが終わった後も、滅魔煙陣によるハノイの封鎖は続いた為、その男は仲間と共に、ハノイ近辺で時間を潰していた。その際、偶然にもタマラにより応急処置を施され、生き長らえてた朝霞の姿を、確認していたのである。

 明らかに聖盗である仮面者姿のタマラがいた為、男は襲撃などはせずに身を潜めて監視を続けた(襲撃しても勝ち目は無い)。暫くして滅魔煙陣が解除された後、タマラが信号弾を空に打ち上げるのを、男は目にした。

 信号弾をハノイの中で目にしたセマルグル(紅玉界の聖盗の支援組織名)のメンバーが、タマラの元に自動車で駆けつけ、そのまま朝霞とトリグラフを乗せて走り去った場面までを、薬幇の男は確認していた。赤が多いカラーリングの仮面者の聖盗が、救援として呼んだ事から、紅玉界の聖盗の支援組織が、救援に駆け付けたのだろうと、男は推測した。

 朝霞達を乗せた自動車が走り去った方向を確認してから、仲間と共に男はハノイへと戻った。結果、薬幇に持ち込まれた黒猫生存の情報が、薬幇の間で噂として広まってしまったのだ。

 白酒屋同盟が送り込んだバイヤーは、その噂を耳にしたのである。人伝ひとづての噂であり、細かい部分は色々と変化してしまっていたが、黒猫が生存していて、聖盗支援組織の手引きでハノイから逃れた事と、その逃れた先と思われる街の名は(あくまで目撃者による推測の話として)、バイヤーが耳にした噂にも、変化せずに残っていた。

「それで、黒猫が逃がされた先というのは?」

 アリリオに問われたボスは、勿体付けた様に間を置いてから口を開く。

「――城舗栄じょうほえい越南えつなんの城舗栄さ」

 少しの間、アリリオはエンリケと顔を合わせ、小声で話し合ってから、ボスに語りかける。

「面白い話を聞かせて貰った」

 赤い光を放ち始めた胸の紅玉に左手で触れつつ、アリリオは言葉を続ける。

「礼代わりに……紅玉と太陽石以外の宝珠、記憶結晶粒は置いていこう」

 アリリオの正面に、紅玉を五倍程の大きさにした感じの、赤い球体が出現する。アリリオは虚空泡沫を、出現させたのだ、

 虚空泡沫の中に、アリリオは右腕を突っ込むと、紅玉と太陽石以外の完全記憶結晶を取り出し、ボスに手渡す。更に、様々な色の記憶結晶粒が色分けされ、別々に詰められた大きい透明なボトルを、アリリオは地面に置く。

 全部で五十本を超える、カラフルで大きな酒瓶の様なボトルを、辺りの地面に並べ終えると、アリリオはエンリケに問いかける。

「私は城舗栄に向かうが、お前はどうする?」


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