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死亡遊戯 44

虚空門アカシャもんを開くぞ」

 アリリオは再び胸の紅玉に両手で触れ、空に向けて赤く強い光を発生させる。赤い光はアリリオの真上に広がる木々の枝葉を赤く染めた後、ほんの数秒で消え失せる。

 すると、赤い光の線で記述された円形の魔術式が、空中に出現した(正確には純魔術式というべきだが)。直系は五メートル程、サンスクリット語に似た香巴拉式の魔術文字で記述されているが、中央部分には何も記述されておらず、靄がかかった様になっている。

 亜空間を通り抜ける通路を開く魔術を、アリリオは使ったのだ。虚空門こくうもん虚空門アカシャもん……虚空シークン門など、呼び方自体は様々であるが、アリリオは香巴拉魔術言語で「虚空」を表現する、虚空門アカシャもんという呼び名を使う。

 香巴拉式の魔術は、魔術式を記述する魔術文字自体は、香巴拉式魔術言語の魔術文字なのだが、魔術の名称には様々な言語が混ざっている。元々が東洋を中心に広まった、香巴拉式の魔術師達が集い、香巴拉という国家を作り出した為、香巴拉自体で使われていた言語が、東洋系の様々な言語のハイブリッドとなっていた影響だ。

 同じ魔術や言葉でも、本来の香巴拉式魔術言語だけでなく、かっては「東瀛とうえい」と呼ばれていた瀛州系の言語や、「ファ」と呼ばれていた華州系言語による表現が存在する。言語などは香巴拉式の使い手にとっては、魔術により簡単に習得が可能なものでしかないので、魔術師自身が出自や好みに合わせて、昔から好きに使っていたのだ。

 封印戦争後、エリシオン語が統一言語となって以降に生まれ育ち、八部衆となった者達は、かっての香巴拉で使われていた言語ではなく、香巴拉からすれば敵であるエリシオンの言語、使い慣れたエリシオン語を言語として使っている。これも、元々が様々な言語の使い手の寄り合い所帯であった香巴拉が、宗教的な縛りが強くても、言語面においての縛りが緩い性質のせいである。

「下ろすよ」

 アリリオの言葉と共に、地上五メートル程の辺りを円盤の様に浮いていた、赤い純魔術式で構成されたリング状の虚空門が、ゆっくりと降下を開始。立っているアリリオとエンリケが、下がって来た虚空門の中央……靄がかかった様になっている部分に、頭から入り始める。

 胸に腹……脚という順で、アリリオとエンリケの身体が、虚空門に入って行く。更に、地面に座り込んだままのアズテック使いの男と、ボスと呼ばれていた男の身体も、虚空門の中に姿を消してしまう。

 虚空門は地面の中に溶け込む様に、姿を消してしまう。アリリオが移動させるつもりの四人を、虚空に転送し終えたので、この場から消え失せたのだ。虚空門には様々な種類があるのだが、地面に座っている二人を立たせて歩かせ、虚空門を通らせるのが面倒だったので、アリリオは移動するタイプの虚空門を使用したのである。

 虚空門は森の地面に、直径五メートル程、深さ一メートル程の穴を開けて消滅。四人がいた辺りの地面も、四人と一緒に転送されてしまっていたのだ。

 四人が転送された先は、暗い空間。森の中から消え去った虚空門が、いきなり地面に現れたかと思うと、その中央部分からアリリオとエンリケ、アズテック使いの男にボスと呼ばれた男が、森で姿を消したままの状態で姿を現した。

 虚空門は上昇を続け、四人の頭上に達すると崩壊を開始、赤い光の粒子群となり、辺りの空気に溶け込んで消滅してしまう。後に残されたのは、虚空門を通って転送されて来た四人と、その四人を乗せて共に移動してきた、一メートル程の厚さがある森の地面だけ。

 陽の光は届かず照明も無いので、本来ならば真っ暗な場所。だが、アリリオとエンリケの胸で輝く完全記憶結晶が光を放ち、事実上のライトとして機能している為、四人がいる周囲の様子が分かる程度の明るさはある。

 赤味を帯びた光に照らされているせいで、色は分かり辛いが、五メートル程の幅と高さがある、周囲を岩で覆われたトンネルの様な場所であるのが分かる。壁や天井……地面などが、たいらに整えてあり、壁のあちらこちらには様々な怪物が描かれている。

死者回廊ロスムルトスデルコリドール? そんな、馬鹿な?」

 アズテック使いの男が、壁画を目にして驚きの声を上げる。服の殆どは焼け焦げてボロボロになっているが、腰の辺りには何時の間にか、クリーム色のジャケットが腰巻の様に巻いてある。

 意識を取り戻したばかりの、ボスと呼ばれている男が、自分を守る為にボロボロになった部下を気づかい、自分の着ていたジャケットを与えたのだ。エンリケの魔術により、一時的に意識を失っていて、目覚めたばかりのボスと呼ばれている男も、驚きの声を上げる。

「青洲瑠から千キロ以上離れている筈の死者回廊に、何で俺達が?」

 男の言う通り、死者回廊は青洲瑠から千キロ以上離れた山間部に存在する、古代遺跡である。千年以上前……香巴拉が世界を制する以前の遺跡であり、入り口部分は只の洞窟にしか見えない用に擬装されているのだが、数キロの長さがある人工的な地下トンネルだ。


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