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死亡遊戯 40

 アリリオとエンリケの視界の中で、屋敷の姿が急速に小さくなって行く。沢山の蜂蜜色の箱を、複雑に組み合わせた感じの、特徴あるデザインの屋敷の西側には、白いビーチと青い海原が広がっている。

 東側には海程の広さは無いが、木々の枝葉が風に波打つ、緑が濃い森が広がっている。高さに差がある木々が層を形作っている、熱帯雨林の森である。

 北側には青洲瑠あするの市街地が広がっていて、南側には疎らに大きな屋敷が建っている。アリリオとエンリケが襲撃した屋敷の辺りと、その南側の沿岸部には、観光客用のホテルや青洲瑠の資産家の屋敷が並んでいて、北側の青洲瑠の市街地とは、森の手前の幹線道路で繋がっているのだ。

 二百メートル程の高さで空中停止したアリリオは、幹線道路を素早く視認し、屋敷から離れて行く車や人影が見当たらないのを確かめる。その上で、アリリオは森を見下ろし、感覚を研ぎ澄ませて、森の中を逃げているだろう者達の位置を探る。

「何処にいるか分かりゃしねぇ! 適当に森に火ぃ点けて、いぶり出すか?」

 アリリオ同様、森を見渡して獲物達の姿を探していたエンリケが、問いかける。

「――いや、その必要は無さそうだ」

 南東の方角、屋敷から二キロ程離れた辺りを右手で指差しつつ、アリリオはエンリケの問いに答える。一見、森の他の部分と何も変わりが無い様に見えるが、目を凝らせば砂粒の様に見える鳥の群が、宙に舞い上がったのを視認出来る。

 木々の枝葉で身を休めていた鳥の群が、何かに驚き飛び始めたのだ。その何かの姿は、森の木々に隠れて見えないのだが。

 鳥が舞い上がった意味に気付き、エンリケは得心がいった表情を浮かべる。

「成る程ね……相変わらず目聡いな」

 空中静止していた二人は、鳥が舞い上がった辺りを目指して飛行を再開。笛の音に似た風を切る音を発生させながら、文字通り美しい翼を広げた鳥の様に森の上を飛ぶ。

 あっという間に、目指した辺りに辿りついた二人は、鳥を驚かせ枝葉をざわつかせながら、森に向かって降下を開始。敵が近くにいる可能性が高いので、全身に魔力を流して魔力の鎧で身を守りつつ、鬱蒼とした森の地面に着地する。

 木々の枝葉に強い陽射が遮られ、森の外より暗くて気温は低い。だが、木々以外に草も茂り、土のあちこちが苔むしていている程度に水気がある、つまり湿度が高いので、空気は粘り気味、暑さとは別の不快感を、アリリオとエンリケに覚えさせる。

 森全体の話ではないが、二人が降り立った辺りは、車が通れるだけの幅が、木々の間にある。それが元からそうなのか、人の手により車が通れる様に木々が間引かれ、整備されたのかは、二人には分からない。

 アリリオは辺りの地面を見回し、土や苔を踏み荒らしたわだちを、すぐに見つけ出す。明らかに出来たばかりの轍であり、飛び立った鳥の群と同様に、この場を車両が通り抜けたばかりであるのを示す証拠であった。

 何か言いかけたエンリケの言葉を、口元で右手の人差し指を立てて制止しつつ、アリリオは聞き耳を立てる。すると、聞き漏らしそうな程に小さい魔動エンジンの音が、前方である南東の方向から聞こえて来る。

 アリリオは右手を口元から移動させ、そのまま前方を右手で指差す。そして、出しっ放しにしてあった背中の翼から、炎の様な赤い光の粒子群を噴射、前方に向けて低空飛行を開始。

 エンリケも同様に、美翼鳥法で低空飛行を始め、アリリオと並んで飛び始める。障害物の多い森の中は飛び辛いのだが、地雷などの罠を警戒したので、低空飛行による追跡を選択したのだ。

 実際、逃亡中の魔術師は、ある程度の距離ごとに魔術地雷を仕掛けていたので、二人の警戒は無駄ではない(実際に警戒したのはアリリオであり、エンリケは真似ただけだが)。ちなみに、アズテック使いの魔術師が仕掛けたのは、使い捨ての魔術機器の地雷に土を付着させて、目立たなくした物である(さすがに略式とはいえ、魔術式を記述しながら、自動車で逃げる余裕は無い)。

 程無く、前方を進むオフロード仕様のワゴン車が、二人の視界に入り始める。緑と茶色を使った迷彩塗装が施されているのは、森を逃げる場合に備えた車両であるからだ。

 ワゴン車の左右には、消防車に掴まる消防士の様に、合計四体のホプライトが掴まっている。ホプライトも森林用の迷彩塗装が施されていて、目立たない。

「――魔動エンジンの音の感じでは、もっと離されている気がしていたんだが……魔動エンジンの音が小さいのか?」

 アリリオは魔動エンジンの音の大きさから、逃げる自動車との距離を、大雑把に推測していた。だが、推測よりも自動車は相当に近くにいた為、ワゴン車タイプの自動車のエンジン音が、普通の物よりも小さいのではないかと、アリリオは考えたのだ。

「アズテックには、煙水晶を除いた記憶結晶粒を、何種類か混ぜて混合燃料にして、魔動エンジンの駆動音を抑える技術があるって話だ。詳しいやり方は知らねぇけどな」

 墨西哥の裏社会に所属していた頃に耳にした話を、エンリケは口にする。

「成る程、道理で……煙も出ていない訳だ」

 前方のワゴン車が煙を排出しないのは、煙水晶を燃料にしていないからであるのを、アリリオは理解する。


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