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死亡遊戯 36

 多数の銃器が、広いとはいえ室内で一斉に火を噴く際に発生する音は、雷鳴の様に喧しい。冷房の効いた涼しいラウンジの中では、銃口から放たれる火の花……マズルファイアが、花火の様に咲き乱れている。

 拳銃だけではなく、機関銃レベルの銃器まで手にして銃撃しているのは、明らかに堅気の人間とは思えない、派手な色使いのスーツやシャツに身を包んでいる男達だ。金はかかっている感じだが、品の無いラウンジの設えに、似合いのファッションの男達と言えなくもない。

 銃撃の対象は、二人の侵入者。二十代に見える外見と、百八十センチ前後の長身、端正な顔立ちという辺りは共通しているが、二人の外見的印象は大きく異なる。

 侵入者の一人は、黒いレザーのパンツにレザーのタンクトップという出で立ちの男。露になっている程良く鍛え上げられた筋肉質の両腕は、刺青で彩られていて、堅気に見えないという意味では、銃撃している男達と大差無い。

 褐色の肌に、はっきりとした目鼻立ちの顔が与える印象は濃く、瞳と同じ黒い色の、肩にかからない程度の長めの髪は、ウエーブがかかっていて、荒っぽく整えられている。夕陽に似た色合いの石がはめ込まれた、刺々しいデザインの鈍色にびいろのアクセサリーを、身体のあちこちに身につけていて、全体的な印象も、アクセサリー同様に刺々しい。

 もう一人の侵入者は、一人だけ場違いな感じに見える、品の良いベージュのサマースーツを着た、銀縁眼鏡をかけた男。若いやり手のビジネスマン風であり、銃声が響く場所よりは、タイプライターや計算機の音がするオフィスが似合う感じ。

 前髪が長めのナチュラルなショートヘアーは、目立つ金色であり、涼しげな青い瞳や筋の通った高い鼻と合わせて、西欧系の血筋が濃いのが見た目で分かる。地味な服装の中、炎の様に赤いネクタイの辺りだけが、派手なワンポイントになていて、ネクタイピンも赤い宝石風の小石で飾られている。

 タイプが違う二人の侵入者は、侵入先である屋敷の者達に、銃撃による手荒い歓迎を受けた。だが、銃弾は二人に辿り着く前に、その全てが弾き返され、大きなホテルのものと同等の広さがある、屋敷のラウンジのあちこちに兆弾し、家具を壊し壁を穿つ。

 銃弾が届かなかったのは、太陽の様なオレンジ色を帯びた、半透明の球状の防御殻が出現し、二人の侵入者を包み込んだからだ。色味も厚さも薄い防御殻なのだが、多数の銃弾を余裕で弾き返してしまっている。

「こいつら魔術師だ! しかも禁忌魔術使いの!」

 銃撃した側にいた魔術に詳しい男が、明らかにエリシオン式ではない魔術を、侵入者が使ったのに気付き、焦り気味の声を上げる。エリシオン式には略式による発動が無い為、瞬時に防御殻を作り出す魔術を発動する為には、魔術機構という道具が必要になる。

 多数の銃弾を弾き返せる程に強力な防御殻を作り出す、高度な魔術式を組み込んだ魔術機構は、最低でもセカンドバッグ程の大きさになってしまう。それだけのサイズの魔術機器を所持し、発動したのなら、銃撃した男達にも視認出来た筈。

 だが、銃撃した側の魔術に詳しい男は、侵入者が魔術機構を発動したのを、視認出来なかった。レザーファッションの男が、タンクトップの胸元にあるファスナーを降ろし、胸元に右手を突っ込んだ直後、防御殻と似た色合いの光を放った為、何等かの禁忌魔術を使っただろうと察したのである。

「ボスを逃がせ! 護衛には魔術師とホプライトをつけろ!」

 三十代だろう、先程から声を出している、魔術に詳しい厳つい感じの男が、仲間に指示を出しながら、両手を派手な柄のジャケットのポケットに突っ込みつつ、右足で地面に魔術式を書き込む。男が魔術に詳しいのは、魔術師だったからだ……しかも、ナイルが見せたのと同じ、足だけで魔術を発動させる技術まで持ち合わせているレベルの。

 板張りの床に男が描いたのは、ギザギザに折れ曲がった線が、円の中に入った紋様。略式の魔術式を、素早く右足だけで書き込んだのだ(紋様という意味では描き、魔術式は書く)。

 すると、二人の侵入者の前に、城壁の如き石壁が出現した。厚みだけで三メートル程はあるだけでなく、魔術により強化された石壁である為、並の魔術的防御殻を、防御力は上回る。

 ちなみに、コンクリートに似た灰色の石壁は、透明性とは無縁である為、壁の向こう側の様子は見えなくなる。

阿式雷紋グレカ……アズテックか、珍しい流派だな」

 床に書かれた略式の魔術式……阿式雷紋を目にしていた、ベージュのスーツの男は、珍しい物でも目にしたかの様に呟く。

墨西哥ぼくせいかの裏社会じゃ、珍しくも何ともねぇよ。エリシオン式と違って、殺しに便利なアズテックの魔術式を、ガキでも習える腐れた所だ」

 レザーファッションの男が、不愉快そうに言葉を吐き捨てる。

「エンリケ……君がアズテックを使えるという話、聞いた覚えが無いのだが?」

 眼鏡のフレームを弄りながら、ベージュのスーツの男は問いかける。

「使えねぇよ、墨西哥に住んでた頃は、魔術は苦手だったからな」

 エンリケと呼ばれた、レザーファッションの男……エンリケ・サングリエンタは、何時の間にか手にしていた、刃渡り二十センチ程のナイフを右手で弄びつつ、問いに答えた。


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