表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
301/344

死亡遊戯 29

(これは、ちゃんと礼を言わないと駄目だよな)

 多少、気恥ずかしくはあったのだが、助けて貰いながら礼も言わないのは、人としてどうかと思った朝霞は、即座にトリグラフの三人に、丁寧に頭を下げる。

「――助けてくれて、有り難う。お前等の助けが無かったら、今回……俺は確実に死んでいた筈だ」

 突如、朝霞に頭を下げられて、礼を言われたトリグラフの三人は、驚き半分……喜び半分と言った感じの表情を浮かべて、顔を見合わせる。

「命の危険もあっただろうし、酷い怪我もさせる羽目になったみたいし、悪かったな」

「大仰だねぇ、あたし達だって黒猫には命を救われた事があるんだし、お互い様って奴さ」

 いきなり改まって頭を下げられたオルガは、嬉しそうに……それでいて僅かに照れ臭さを感じさせる、気楽な感じの口調で言葉を返す。

「そうそう、受けた恩を返すのは、当たり前の事っスから!」

「危険な目に遭ってる恋人を助けるのなんて、当たり前なんだから、礼などいらないよ。頭を上げ給え」

 トリグラフの三人は、三者三様の言い方で、面映おもはゆさを誤魔化す為の言葉を、朝霞にかける。

「――それに、そもそもハノイでのブラックマーケットに関する情報を、アナテマが八部衆を誘き寄せる罠だとも知らずに、黒猫団に流したのは、あたし等だからね」

 ばつが悪そうな表情で、オルガは続ける。

「あたし等のせいで、黒猫は夜叉と戦う羽目になって、殺されそうになっていた様なもんなんだから、助けない訳にはいかないだろ。悪かったね、罠だと気付かず情報流して」

「気にするなよ、罠だろうが何だろうが、大量の蒼玉があったのは事実なんだし、お陰で三千人以上の分の蒼玉を取り返せたんだ」

 顔を上げた朝霞は、オルガに言葉を返す。

「あれが八部衆に渡ってたら、蒼玉界の人間が、大量に死ぬ羽目になっていたのかも知れない。そうならずに済んだのは、トリグラフからの情報のお陰でもあるんだし」

 別にオルガ達を気遣っての言葉ではなく、朝霞の本音である。もしもトリグラフからの情報が無ければ、三千人以上の命がかかっている蒼玉が、八部衆に渡る羽目になっていたのだ。

 しかも、盗み返した蒼玉の中に、妹の美里の蒼玉が含まれていたのを、家族であるが故の勘か何かで、朝霞は察する事が出来ていた。オルガ達から情報を得られなかった方が、まずかっただろうと、朝霞は思っているのだ。

 無論、生き延びた今だからこそ、そう思えるだけなのかもしれないが。

「俺も結局は助かった訳だから、結果良ければ全て良しって奴さ」

 自分が罠だと知らずに流した情報で、結果的に朝霞を死地に赴かせた事に対し、密かに罪悪感を抱いていたオルガは、安堵の表情を浮かべる。

「蒼玉と言えば、姫や巫女は……無事に天橋市まで蒼玉を持ち帰って、消滅させられたのかな?」

 盗み出した蒼玉についての話題が出たので、命懸けで盗み出した蒼玉のその後が、朝霞は気になり始める。一応は聖盗としての活動中なので、朝霞は神流や幸手を、エロ黒子や乳眼鏡とは呼ばない。

「旦那と違って、二人がやられたという情報は出回って無いから、無事に天橋市には戻れたと思うけど、まだ蒼玉の消滅は出来てないんじゃないっスかね?」

 タチアナの返答は、朝霞に二つの疑問を抱かせた。まず、一つ目の疑問を、朝霞はタチアナにぶつけてみる。

「俺と違ってって?」

「――そういえば、まだ話してなかったっスね」

 話すのを忘れていたとでも言わんばかりの口調で、タチアナは話を続ける。

「実は、ハノイの地元紙が原因なんスけど、タンロン荒野での大規模魔術戦闘で、旦那が死んだらしいって、報道されちまったんスよ」

「俺が死んだらしいって、報道された?」

 驚きの余り、声を上擦らせる朝霞の問いに、タチアナは頷く。

「あの戦闘は、かなり大きなニュースになって、世界中に配信されたんスけど、配信の元の情報が、旦那が死んだらしいと報道した、ハノイの地元紙の奴だったんで……」

「『黒猫、ハノイで死亡?』って感じで、世界中に報道されたのさ」

 オルガがタチアナの言葉に、そう付け加える。

「那威州の盗みも、結構あちこちで報道されてた程度には、旦那は有名だし……死んだとなれば、そりゃ報道もされるってもんスよ」

「俺……死んでないんだけど! 誤報だろ! 訂正しないと……」

 生きているのに死んでいると思われるのは、朝霞としては気分が悪いし、仲間や友人知人に、ショックや不安を与えてしまっているかもしれない。何らかの形で新聞社相手に生存をアピールし、訂正報道をさせよう……と、朝霞は一度考えたのだが、すぐにその考えを改める。

 タイソンと戦闘中に交わした会話を、思い出したが故に。

「いや、止めておこう。暫くは死んだと思われていた方が、良いかもしれないし」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ