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死亡遊戯 28

「――その後、あたしとターニャと黒猫は、離れた所でトーマの応急処置を受けてから、皆で煙が晴れたハノイに戻って……」

 オルガの話を、タチアナが受け継ぐ。

「ハノイにいた支援組織の手引きで、八部衆が去ったのと逆方向にある避難所である、城舗栄のこの屋敷まで逃げて来て、トーマの治療を受け続けてたって訳っス」

「ま、手短でなく話せば、こんな流れで……あたし達に助けられ、黒猫は此処にいる訳さ」

 話を締め括る感じの、オルガの話を聞いて、納得が行かないとばかりに、タマラは問いかける。

「姐御、話を終わらせようとしてない?」

「結構な長話になったから、そろそろ締め括らないと。他にも話さなきゃいけない事はあるんだし」

 乾いた髪を指先で弄りながら、オルガは問いに答える。話を始める前には湿っていた髪が、夜風で乾き切る程の、長話ではあったのだ。

「いや、この後……まだ僕が華麗に活躍する話が、沢山あるじゃないか! 組織の支援は受けたけど、治療から移動まで、殆ど僕一人でやったんだよ!」

 タマラは強い口調で、言葉を続ける。

「死んでいてもおかしくない程、酷いダメージ負ってた黒猫君の身体なんて、治療系の魔術に強い魔術師連中ですら、修復だけで数ヶ月かかる筈なんだ! それを、たった二日くらいで、ここまで治せたのは、月光浴ルーネ・バンネ聖水スヴィテワダを組み合わせた、僕ならではの治療法のお陰なんだからね!」

 月光浴とは、朝霞が意識を取り戻した時に、タマラが使っていた仮面者としての能力だ。額の三日月から放つ赤い光には、身体的なダメージから人を回復させる能力があり、交魔法習得以前から、相当に強力な治療系の能力であった。

 それが交魔法により、治療能力が数倍に上がっただけでなく、聖水と併用する事により、タマラの治療能力は異常なレベルに達している。ちなみにタマラの使う聖水とは、紅玉界における薬湯の様な、人の身体を癒す力がある液体であり(温度の点では湯ではないが)、月光浴と併用すると、治療効果は著しい上昇を見せるのだ。

「姐御やターニャだって、僕が治さなければ、まだベッドの上から動けなかった筈なんだし、みんなもっと僕を褒め称えるべきだと思うんだ!」

「そういう事自分で言うと、むしろ褒められないと、いい加減学習するっス」

 タチアナの言葉に、オルガが同意するように大きく頷く。

「いや、でも……実際に凄いな、美少年の治療能力」

 自分の左腕の、色が微妙に薄い部分を擦りながら、朝霞はタマラに話しかける。屋敷の備品である赤いタンクトップと短パンを、朝霞は借りて着ているので、両腕と両脚はむき出しの状態。

 元から褐色気味の肌の色をしているのだが、今の朝霞の肌には、やや色が薄い部分が多い。再生されたばかりの部分の肌は、陽に焼けていないせいか、色が微妙に薄い為、元からある肌の色と、完全に馴染んではいないのだ。

 腕や脚だけでなく、顔や胸元……そして着衣に隠された背中や腹部などにも、色が薄い部分があるのを、朝霞は服を着る前に、鏡で確認済みだった。傷の深さまでは分からないが、表皮の半分程を損傷していた、満身創痍といえる状態だったであろう事は、朝霞には分かっている。

 しかも、皹が入っていたと思われる左腕や、千臂殲撃の初撃を回避し墜落した際、おそらくは折っただろう左足首も、完全に治っていた。朝霞は様子を探る様に、左足首を回してみながら、率直な感想を口にする。

「左足は骨折してたと思うんだが、こんなに速く治せるなんて、信じられないくらいだ」

「左腕も折れてたんだよ、気付かなかった?」

 タマラの口調と表情は、自慢げだ。ちなみに、タマラとオルガ……タチアナの三人も、屋敷の備品を借りているので、朝霞と同じ格好をしている。

「左腕も?」

 驚きの声を上げる朝霞に、タマラは頷く。

「鉄鋼巨人の右手に握られていた黒猫君は、肘が有り得ない方向に曲がっていたからね」

 左腕が骨折する前に、朝霞は意識を失っていた上、意識が回復した時には、既に骨折部分が治癒していた為、朝霞は左腕の骨折自体に気付いていなかったのだ。

 朝霞は改めて、タマラの治療能力の高さに驚く。

「全く気付かなかった、傷の方は肌の色が馴染んでいないせいで分かるけど、骨折は見た目じゃ分からないからな」

「肌の方も、すぐに馴染むよ。黒猫君より傷が全体的に浅かった、姐御とターニャの肌は、黒猫君より再生が速かったから、もう目立たないくらいに馴染んでるし」

 タマラの言葉を聞いた朝霞は、オルガとタチアナの身体に、目線を移動させる。朝霞程に目立たないが、二人も身体だけでなく顔にまで、肌の色が薄い部分がある。

 褐色のオルガの方が分かり易いが、色白のタチアナですら、再生された肌の方が明らかに白い。

(俺を助ける為に、相当に酷い傷を負ったみたいだな。幾ら美少年の治療能力が高いとはいえ、あの光線の土砂降りの中に飛び込んだのなら、当たり前か……)

 オルガとタチアナの肌に残る傷の跡を目にして、二人が命懸けで自分を救ってくれただろう事を、朝霞は思い知る。そして、二人だけでなく、傷を治療する形で、自分を救ってくれたタマラにも、「助けて貰ったのは有り難い」程度の言葉を口にしただけで、まだちゃんと礼をしていなかったのに、朝霞は気付く。

 意識が回復して以降、色々とゴタゴタしていた為、命を救われていたのは分かっていたのだが、朝霞は礼を言いそびれてしまっていたのだ。


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