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死亡遊戯 25

「逃げろ! 鋼鉄幕が……」

 鉄鋼幕が限界に達しようとしているのを察したオルガは、タチアナに向かって叫び声を上げるが、その叫び声は途切れてしまう。炎に投げ込まれた布地の様に、鋼鉄幕が燃え上がり消滅、防御能力が消滅したのだ。

 しかも、黄天城は金剛杵である為、金剛才華ヴァジュラ・シャクティ……絶対防御能力を無効化する攻撃を放つ事が出来る。故に、オルガの考えとは違い、鋼鉄幕は消滅時に、絶対防御能力で光線の威力を無効化出来なかった。

 鉄鋼幕が受け止め、防いだ分の威力を削る事は出来た。だが、鉄鋼幕の消滅後に続いた分の光線による攻撃力と、周囲に降り注いでいる光線が地上を直撃し、発生させた大爆発の威力は、打ち消す事は出来ない。

 それらの威力が、朝霞を抱き締めたオルガと、二人を右手で握る鉄鋼巨人に襲い掛かった。タチアナへのオルガの叫びが途切れたのは、光線の飛沫を食らって、ダメージを受けたせいだった。

「絶対防御能力で、打ち消せないのか?」

 自分達に襲い掛かって来た光線を目にして、仮面の下で苦痛に顔を歪めながら、オルガは驚きの声を上げる。最悪でも、鋼鉄幕が直撃を受けた光線の威力は、絶対防御能力で打ち消せる筈だと、オルガは考えていた。

 だが、鋼鉄幕を破壊した光線は消え失せず、そのままオルガ達に襲い掛かった。その光景を目にして、光線の飛沫を身に受けて、オルガは黄天城が放った光線には、絶対防御能力が効いていないのに気付いたのである。

 襲い掛かり続ける光線を目にしたタチアナは、オルガと朝霞を握る右手と、紅玉の星牢を握る左手を、胸に抱くかの様に動かしつつ、鉄鋼巨人の巨体を胎児の様に丸める。鉄鋼巨人の身体自体を盾として、胸元にいだいた二人と星牢を、タチアナは守ろうとしたのだ。

 降り注ぐ無数の光線は、鉄鋼巨人の背面を直撃、防御魔術が施された装甲を、チーズの様に穴だらけにしてしまう。光線が地表直撃して発生させた大爆発の衝撃波と、大爆発に吹き飛ばされて来た岩石群が、鉄鋼巨人に襲い掛かり、光線で穴だらけとなった装甲を打ち砕いて、悲鳴の如き金属音を発生させつつ引き剥がし、内部の機械らしき構造物まで破壊する。

 程無く、光線の照射は終わるが、光線が引き起こした爆発の中に、鉄鋼巨人は飲み込まれる。耳を劈く程の爆音を響かせながらの、街ごと吹き飛ばせそうな程の大爆発は、辺りを破壊し尽くしてしまう。

 その爆風は凄まじく、数百メートル程離れた場所で、岩陰に身を潜めていたタマラを、数十メートルも吹き飛ばしてしまう程の激しさであった。交魔法発動中の仮面者姿であったので、地面を転がされたし、吹き飛ばされて来た砂礫を大量に食らいはしたが、タマラはダメージを負いはしない。

 何とか体勢を整え、再び近くにあった岩陰に身を隠しつつ、タマラは爆発が起こった方向に目をやる。立ち昇る土色の爆煙だけが、タマラの目に映る。

「――一体、どうなってるんだ?」

 爆煙を眺めながら、答える者などいる筈も無い問いを、タマラは口にする。元々、光線の雨に飲み込まれた朝霞の姿を、タマラは見失っていたし、超魔術的迷彩のせいで、鉄鋼巨人から降りた時点で、二人の仲間の姿も見えなくなっていた。

 故に、仲間や朝霞がどうなっているのか、タマラには何も分からないのだ。無事かどうかも、どの辺りにいるのかも。

 猛烈な不安感に苛まれつつ、再び岩陰に身を潜め、タマラは成り行きを見守る事しか出来ない。地面を転がされた時に、程よく全身が土に汚れた為、それが自然な迷彩効果となり、タマラの姿を見付かり難くしている。

 風の強い荒野では、幾ら大規模だとはいえ、燃焼による煙では無い、ただの舞い上がった土煙は、大して時間もかからずに吹き流され始める。爆発の発生から数分後、黄天城が爆心地の様子を確かめる為に、高度を落としながら爆心地の上空に飛来する。

 三百メートルを超える直径の、巨大なクレーター状の大穴だけでなく、無数の穴がクレーターの内外に穿たれている。爆発で吹き飛ばされた大小様々な岩石群が、周囲に散らばった状態になっていて、まだ仄かに土煙が舞い上がり、風に棚引いている。

 噴火を終えたばかりの、火山の如き光景。この大爆発を引き起こした攻撃を受け、生き残った者などいる筈が無いと、見る者に思わせる凄惨な爆心地を目にして、朝霞を仕留めたと確信したタイソンは、金剛杵の発動を停止。

 黄天城は黄色い光の粒子群となり、空中で崩壊を開始。膨大な光の粒子群を大気中に撒き散らしつつ、黄天城の巨体は崩れ去って行く。

 タイソンは崩壊する黄天城の中から姿を現し、五十メートル程の高さから降下して、巨大な穴の縁辺りに着地する。金剛密印を解いたタイソンが、左手を天に向けると、その左手に黄天城を作り出していた光の粒子群が集まり、金剛杵に姿を変える。

「あれが琥珀玉の八部衆、夜叉……」

 距離が開き過ぎているので、タイソンが何をしているのかまでは、呟いたタマラには分からない。胸に小さく輝く琥珀玉や、魔術の発動時の光の色などで、夜叉だというのは分かるのだが。

 緊張の面持ちを仮面で隠したまま、どうすべきかについて頭を巡らせつつ、タマラはタイソンの様子を観察し続ける。だが、すぐに状況は変わり始める。

 突如、ハノイの方から遠雷が響いて来たのだ。雷など発生しそうにない青天であるにも関わらず。続け様に轟き始めた雷鳴に驚き、タイソンだけでなくタマラも、ハノイの方を振り向く。

 二人の視線の先……地平線の向こうのハノイの辺りは、濃淡のある灰色に染まっていた。地上に降りて来た雲が、巨大なハノイの街全体を覆い尽くそうとしているかの様に、二人の目には映った。

 ハノイを覆い始めた、雲の如き何かのあちらこちらで稲妻が発生し、天に向かって伸びている。この天に伸びる稲妻……樹雷じゅらいの雷鳴が、タマラとタイソンの耳まで届いたのである。

 妖風がハノイを守る為に展開した滅魔煙陣が、その巨大過ぎる姿を現したのだ。遠距離から眺めるタイソンは、その正体を知るが故に複雑な驚きの表情を、正体を知らぬタマラは単純な驚きの表情を、それぞれ浮かべる。


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