死亡遊戯 19
「君等ばかり楽しむのはずるい、僕も混ぜて貰うからね!」
ボーイッシュな少女は、まずは靴を脱いでから、気取った風な仕草を織り交ぜつつ、着衣を脱ぎ始める。ワイシャツからジーンズ、下着という順で脱ぎ捨て、少年の石膏像の様な裸身を露にする。
「トーマまで混ざるとなると、浴槽が狭いっスね。広げる?」
浴槽はタチアナが魔術で作り出した物で、その大きさや形状を、ある程度の範囲でなら制御出来るのだ。酷いダメージを負った三人の身体の治癒に利用する為、三人用としてタチアナは浴槽を作ったので、もう一人の少女が加わり四人となるなら、狭いのではと考えたのである。
トーマと呼ばれたボーイッシュな少女……タマラ・クリカレフは、朝霞を挟んで左右に位置する、オルガとタチアナを交互に見つつ、少しだけ考える。
「このままで良いよ、僕は上からにするから」
タマラは答を返しつつ、水飛沫を立てない様に気づかいながら、静かに浴槽の中に入る。そして、三人の足元の方に移動すると、朝霞の上に覆い被さる様に四つん這いになる。
(上からって、そういう事か!)
朝霞はタマラが口にした「上から」という言葉が、上から覆い被さる形で抱き付いてくるという意味であるのを、うろたえながらも理解する。
「病み上がりの旦那の負担にならない様に、力の加減には気を遣うっスよ!」
「分かってるって。まぁ、あたしも本調子じゃないし……そんなに力は出ないさ」
「治療回復を担当する僕が、そんなヘマをする訳が無いじゃないか」
オルガとタマラの返答を聞いて、満足げに頷いた後、朝霞の右の耳元に唇を寄せ、タチアナは囁く。
「旦那も無駄な抵抗とか、止めた方が良いっスよ。まだ力とか……まともに入らないとは思うけど、無理に力入れたりすると、回復が遅れる可能性があるっスから」
(――そういえば、余り力が入らないな)
オルガやタチアナを振り解こうとした時、まともに腕に力が入らなかったのを、朝霞は思い出す。
(俺が病み上がりだとか、治療だの回復だの言ってたな。俺は病み上がりで、治療や回復中だから、腕に力が入らなかったりするのか……)
朝霞は考える……何故に自分が回復や治療が必要な、病み上がりの状態であるのかを。そして、脳裏にフラッシュバックする様々な場面と共に、朝霞は思い出す。
意識を失う前、八部衆の夜叉と戦って敗北し、土砂降りの様に降り注ぐ、回避不可能な金色の破壊光線による一斉砲撃を受け、死んでもおかしくは無いダメージを負っていた事を。
(そうだ! 俺は夜叉と戦って負けたんだ! あの後、一体……俺はどうなったんだ? 神流や幸手は、無事なのか?)
意識を失う前の自分の状況が、次第に甦り始めた朝霞の頭に、一斉に様々な疑問が浮かんで来る。その問いを、トリグラフの三人にぶつけるべく、朝霞は口を開くが、問いかけの言葉は呻き声に化ける。
滑る唇の感触を、朝霞は覚える……開いたばかりの唇を、オルガに唇で塞がれたのだ。更に、耳元で囁いていたタチアナに、耳たぶを甘く噛まれ、ぞくりとする感覚に、朝霞は身を震わせてしまう。
そして、オルガが唇を離したタイミングで、タチアナは朝霞の右肩に手をかけ、顔を右側に向けさせると、照れて紅潮した顔を朝霞の顔に寄せ、唇を重ねる。初めは軽く、猫が飼い主の顔を舐める感じだが、次第に深く大胆に、唇を重ね始める。
タマラは腰の辺りに跨りながら、朝霞の身体に手を這わせつつ、タチアナと朝霞のキスを見下ろしていた。十分にキスを楽しみ終えたタチアナが、朝霞から顔を離すのを待ってから、タマラは朝霞から離した両手で、浴槽を満たす透明な液体を掬い上げる。
「――聖水は浴するのが基本だけど、飲んでも治癒効果は高まるんだよ」
器の様にした両手を口元に運ぶと、タマラは両手を煽って聖水を口に含む。そのまま上体を前に倒しつつ、朝霞の左頬に右手を添えて、自分の方に向けさせると、タマラは顔を寄せて唇を重ねる。
重ねた唇を通し、朝霞の口の中に聖水が流れ込んで来る。治癒効果が高まると言われたせいもあり、恥ずかしくはあったのだが、朝霞は吐き出したりはせず、口腔で受け止めた聖水を飲み下す。
口移しで聖水を飲ませた後も、タマラは唇を離さず、朝霞とのキスを続ける。オルガやタチアナと同程度の時間、自分も朝霞とのキスを楽しむつもりなのだ。
恋人関係では無い相手とは、本来ならすべきでない行為を、相手が望んでいるとはいえ、してしまう事に対し、幾許かの罪悪感を朝霞は覚える。恋人では無いとはいえ、それに近い存在である三人の少女達にも、心のどこかで後ろめたさを感じないといえば、それは嘘になる。
抗おうにも身体に力は入らないし、相手は三人がかりなので、抗えない状態。しかも、まだ記憶ははっきりしないのだが、夜叉相手に敗北した自分が生き長らえているのは、トリグラフの三人に助けられたからであるらしいのは、朝霞も既に察していた。
命を救われた後だけに、朝霞としては強い態度で、三人を跳ね除け難い心理状態。結果として、抗おうという意志が心の中から消え去り、朝霞は三人の為すがままになってしまう。
(何か俺……何時も流されてる気がする。いいのかな、俺……こんなんで?)
普段は仲間である三人の少女相手に流され続け、今回は仲間ですらないトリグラフの三人相手に、流されてしまっている事に対し、自己嫌悪を覚えつつ朝霞は自問する。問いに対する答を出す為の朝霞の思考は、三人の異性が好奇心と欲望を満たす為の行為に乱される。
故に、問いに対する答など出ぬまま、罪悪感と快感が交差する時間を、朝霞は暫しの間、過ごし続ける羽目になった……。




