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死亡遊戯 06

 五月十日の朝には、ナイルは阿瓦隆に辿り着き、旧知の友人であるライデンを呼び出して、夜叉の復活を知らせた。その後、ナイルは情報局や軍などを回り、情報のやり取りをしたり、軍の新装備に関して意見を聞かれたりしている間に日々が過ぎ、今日……十七日の昼近く、阿瓦隆を発つ予定だったのである。

 ちなみに、情報局は夜叉復活の情報を、掴んではいなかった。情報局は記憶警察との関係は悪く無いので、八部衆らしき者が記憶警察の保管庫の襲撃を続けているのは知っていたのだが、夜叉の情報は入手できていなかったのである。

 理由はシンプルであり、夜叉……つまりタイソンが、その襲撃の殆どにおいて、香巴拉の魔術を使わなかったから。記憶警察には魔術戦闘に優れた魔術師も多いのだが、四華州系の武術や仙術を使えるタイソンからすれば、香巴拉の魔術を使わずとも、余裕で対処出来る範囲でしかなかったのだ。

 事実上、唯一の例外となった、香巴拉の魔術を使用した襲撃時は、偶然に鉢合わせした紅玉界の聖盗三人が記憶警察側についていた。三人の仮面者を相手にするのは、流石に武術と仙術だけでは厳しく、香巴拉の魔術を使用する羽目になったのである。

 タイソンが香巴拉の魔術を使ったのは、三人の仮面者相手のみ。しかも、使う段階で記憶警察の者達は殆ど倒されていた為、八部衆の夜叉としてのタイソンの姿を目にしたのは、三人の聖盗だけであった。

 聖盗達は大ダメージを負いながらも、その場から何とか逃げ延びた。故に、聖盗達が目にした夜叉としてのタイソンの姿は、記憶警察の者達には伝えられなかった。

 その結果、記憶警察の者達は、夜叉としてのタイソンの特徴的な姿を知る事が出来ず、情報局にも情報が伝わらなかったという訳だ。

「――ハノイからの情報弾が届いた、一昨日の午前……夜叉を含む三人の八部衆が、ハノイでアナテマと派手な戦闘を行ったそうだ」

 部屋の隅にある簡素な応接セットに移動し、ナイルとテーブルを挟んで向い合わせに座ったライデンは、本題を切り出し始める。ライデンの言う情報弾とは、情報を書き込んだ書類などを詰め込んだ砲弾に、徹底的に防御魔術を仕掛けた上で大砲で撃ち、一気に数十キロの距離……情報を輸送する、政府機関のみが行える情報伝達手段だ。

 砲撃を行う性質上、使用出来る場所やルートは限られるが、縮地橋と組み合わせれば、縮地橋だけしか使えない民間人に比べると、遠距離での情報伝達にかかる時間を、三割以上短縮出来るのである。

 ほんの少し前に、ハノイでの戦闘に関する情報を伝える情報弾が、阿瓦隆島沖に着水し、情報局に回収された。ハノイとの距離は廈門に比べ、阿瓦隆は数倍といえるのだが、半日以下の遅れ程度で情報が届いたのは、情報弾を使ったからこそと言える。

「八部衆が三人だと! それで……ハノイはどうなった? 無事か?」

 ナイルは慌て気味の口調で、ライデンに問いかける。八部衆が三人も参戦する戦いとなると、ハノイが巻き込まれたら万単位の犠牲者が出かねないので、まずはハノイ住民の安否を、ナイルは気にしたのだ。

「無事だ、ハノイ住民には犠牲者は出ていない。戦いはハノイ南西部のタンロン荒野で行われた上、ハノイ全体が妙な結界に防御されていたお陰で」

「妙な結界?」

「雷雲みたいな巨大な煙のドームにハノイごと覆われ、暫くは住民の出入りすら出来なかったそうだ。警察が攻撃魔術による排除を試みたが、効果が無かった事から、防御結界らしいと判断出来る」

 ライデンはポケットから書類を取り出し、テーブルの上に広げる。地元新聞社が保有している写真を、情報局のエージェントは入手出来なかったし、朝刊が発行されるより前にハノイから情報を送った。

 故に、新聞に載っていた様な戦闘中の写真や、煙の結界に覆われたハノイを、外から撮影した写真などは、今回送られた情報には含まれてはいない。だが、ハノイを守った煙の防御結界を、内側から見上げる構図で撮影された写真などは、何枚も含まれていた。

「――経緯からして、ハノイを守ったのはアナテマの可能性が高い。しかし、ハノイ程の大都市を防御可能な防御結界となると、数千……いや、数万単位の魔術師の動員が必須。大きく人員を欠いた今のアナテマには、不可能だとしか思えんのだが」

 煙の防御結界の写真を指差しつつ、ライデンはナイルに訊ねる。

「写真は……空を雲に覆われた様にしか、俺には見えん。ハノイ程の大都市を防御可能な、煙の魔術的防御結界……心当たりはあるか?」

「――おそらくは、滅魔煙陣めつまえんじん

 ナイルは即答する。華州風の発音は華州系の者達以外には、聞き分け辛い場合があるので、発音が明瞭かつシンプルな瀛州読みで、ナイルは滅魔煙陣の名を口にする。

「滅魔……煙陣? 何だそれは?」

「崑崙が保有していたという、宝貝パオペェ……仙術のミルム・アンティクウス。あれなら一人でも、ハノイクラスの大都市防御が可能だ」

「ハノイ全体を覆う程の防御結界を一人で? 冗談だろう?」

 余りにも信じ難い話だったので、ライデンは声を上擦らせつつ問いかける。

「事実だ。以前は崑崙が保有していた宝貝で、崑崙が滅んでからは、行方知れずになっていた物だよ」

 ナイルは滅魔煙陣という宝貝について、ライデンに簡単に説明する。


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