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死亡遊戯 02

 最後に針の先端が触れた人間がいる方向を、生死を問わずに指し続ける、ミルム・アンティクウス……魂の羅針盤。ティナヤが針の先端を朝霞に触れさせた為、現時点では朝霞がいる方向を指し続けている筈なのだ。

 そこで、神流と幸手は二手に別れ、幸手が魂の羅針盤の調達を担当、天橋市に向う事になり、神流はハノイに滞在したまま、朝霞を探し続ける事になった。イダテンの運転を得意とする幸手の方が、天橋市に急いで向かって戻って来る役目に向いているので、魂の羅針盤の調達役となったのである。

 天橋市に向う際は蒼玉も運ぶ為、アナテマや八部衆の者達に見付かり難い様に、イダテンの色を塗り替えるなどの偽装工作を、夜中の内に二人は済ませた。そして、幸手に僅かな睡眠を取らせている間に、神流が出発の支度を整え、二人は朝を迎えた。

 そして、天橋市に出立する幸手を、神流はハノイの郊外まで、護衛を兼ねた見送りに来ていたのだ。

「――朝食には、まだ早いが……腹が減ったな」

 幸手を送り出し、ハノイの市街に戻った神流は、通りを歩きながら独白する。通りは次第に賑わい始めていて、様々な屋台などが準備を始めている。

 ハノイの朝食は外食が普通であり、屋台などで済ます人が多い為、通りには屋台が多く、既に食欲をそそる食べ物の匂いが、漂い始めているのだ。神流が朝食について口にしたのも、食べ物の匂いを嗅いだが故。

 ホテルに向かって歩き続ける神流の目に、人が群がっている屋台が映る。

「もう開いてる屋台あるんだ、客が多いみたいだけど……美味いのかも?」

 空腹を覚え始めたせいもあり、人が群がる屋台が気になった神流は、吸い寄せられる様に屋台に近付いて行く。すると、群がる人々が新聞を手にしているのに気付き、食べ物の屋台ではなく、新聞を売る屋台に人が群がっているのだと、神流は察する。

(何だ、食べ物屋じゃなくて新聞屋か)

 残念そうに心の中で呟いた神流の耳に、二人の男が語り合う声が飛び込んで来る。

「すげぇな、こんな馬鹿でかい穴をあけられる魔術師が、この世にいるのかよ!」

「政府の特務機関と禁忌魔術使いの戦いって……どっちも化け物だな」

 路肩の壁に寄り掛かりながら、新聞を広げて語り合う二人の男の会話を聞き取り、神流は新聞に興味を惹かれる。

(あれだけの戦いがあったんだ、新聞で報道されているのも当たり前だな。昨日の件について、知らない情報が載ってるかもしれないし、買ってみるか)

 神流はポケットから小銭を取り出しつつ、屋台に歩み寄る。

(流石に朝霞に関する情報は、載ってないだろうけど)

 屋台の新聞立てに並ぶ新聞を、神流は物色。新聞は複数の種類が売られていて、一面だけが見れる様にしてあるのだが、タンロン荒野での事件を一面で大きく扱っているのは、ハノイの地元紙だけ。

 広い地域で売られる大手の新聞の一面には、それらしき記事は見当たらない。情報伝達においては、日本に大きく劣る煙水晶界の場合、大手の新聞はハノイで起こった戦いのニュースを集めるのに遅れを取り、今朝の新聞に掲載し損なったのだ。

 神流はタブロイド風のハノイの地元紙を買うと、屋台から離れてホテルに向かって歩き出す。ホテルに戻ってから読もうと思って買ったのだが、中身が気になってしまった神流は、路肩で立ち止まって新聞を読み始める。

 色が白黒で印刷が多少悪い以外に、煙水晶界の新聞は蒼玉界の新聞と、大きな差は無い。タンロン鉱山に穿たれた、クレーター状の巨大な穴を写した写真が、一面には大きく掲載されている。

 やや俯瞰気味のアングルで撮影された写真だが、事実上飛行機が存在しないので、航空写真の類では無く、長い棒の先にカメラを付けて撮影したものだ。

「タンロン荒野で大規模魔術戦闘! タンロン鉱山跡壊滅! 特集面に本紙独占スクープ写真有り!」

 そんな派手なキャプションが、表紙の写真には添えられていた。一面の写真はスタンドに並んでいる状態でも見えてしまうが、独占スクープ写真は買わなければ見れない様に、内側の特集記事を載せた特集面に載っているのだ。

 独占スクープ写真が気になった神流は、新聞をめくって特集面を開く。そして、特集面を目にした神流は、写真では無くキャプションを目にして、頭を強打されたかの様な衝撃を受け、眩暈を覚えそうになる。

「黒猫、死亡!」

 特集面の写真は、神流もハノイに入った辺りで背後を振り返り、遠目で目にした巨大な黄色い球体、黄天城を撮影したものだった。神流が目にした距離よりも近距離から(一応、戦いに巻き込まれない程度の距離を、撮影者がとった上でだが)、望遠レンズを使って撮影されたものだった。

 神流には、黄色い球体としか捉えられなかった黄天城が、無数の突起に覆われている姿として、写真には捉えられていた。流石に突起が仏像の様な姿であるのは確認出来ないし、白黒写真であるのだが(色は記事の方で黄色と説明されている)。

 黄天城よりも手前の方に、黒い人影が映り込んでいる。見る者が見れば、仮面者となった聖盗の姿なのだと分かる感じで。

(これは、朝霞!)

 神流は一目で、それが朝霞だと気付く。黄天城の名は知らないが、宙に浮く黄色い球体……おそらくは夜叉の八部衆が魔術で作り出した何かと、朝霞が戦っていた場面を撮影した写真だろう事は、神流には経緯から推察出来る。


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