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昇龍擾乱 90

 兎に角、二年前にアナテマの内部抗争は集結し、バズ率いる主戦派は、既に二人以上が復活を遂げている八部衆との戦闘に備えて、本格的に動き始めた。バズや主戦派がアナテマを仕切る様になった訳ではなく、中立派も含めて複数の派閥が、アナテマ内で別々の策を遂行する体制をとった上で。

 バズがアナテマのトップに立ち、アナテマの体制を一本化しようとすれば、それは可能だったのだろうが、バズはそれを選ばなかった。自分達とは別の選択肢を選ぶ者達がアナテマ内にいた方が、自分達が敗北した時の保険になると考えたのが、その最大の理由だ。

 アナテマの新たなるトップとして、バズを推す声は多かったのだが、自他共に認める奇人変人である自分は、組織のトップには向かないとバズは固辞。自ら率いる主戦派が自由にやれる体制を確保した上で、アナテマのトップには中立派の若手至高魔術師を推し、アナテマの組織運営自体を押し付け、主戦派の作戦遂行に専念し始めたのである。

 そして、新たなる体制となった新生アナテマは、組織内抗争の結果、大幅にダウンした戦力を補強すべく、新たに多数の魔術師達を雇い入れた。その一人が、至高魔術師ですら難なく暗殺してしまった飛鴻と、その仲間といえる仙術使い達だ。

 いにしえより四華州に存在した仙術は、エリシオンにおいては特殊な存在といえる、東洋系の魔術流派である。香巴拉式に近いと言われ、危険な術も多い事から、公式には禁忌魔術扱いなのだが、四華州どころか亜細亜大州の裏社会などに、多くの非合法な使い手が存在する。

 武術との融合が最も進んでいる魔術流派なので、使い手の平均的な戦闘能力は、著しく高い。禁忌魔術指定後は秘密結社化した、仙術の総本山……崑崙こんろんは、亜細亜大州各地に存在する、四華州系の武術道場から、武術の才に恵まれた者を見つけ出しては崑崙に招き、仙術使いとして育て上げるというシステムをとっていた(ちなみに崑崙こんろんは瀛州読みであり、四華州の読み方では崑崙クンルン)。

 亜細亜大州の裏社会には、仙術使いや仙術を教える非合法な教育機関も存在する。だが、本当の意味での仙術使いと言えるのは、崑崙で仙術を学んだ者だけであり、裏社会の教育機関などで学んだ者とでは、その実力に天地程の差があるという。

 崑崙の在り処は、高位の仙術使いしか知らない程に、存在自体が秘されていた上、崑崙は多数の強力な仙術使いを抱えている為、エリシオン政府ですら取り締まるのは困難。ただ、香巴拉とは違い、人類の脅威となる様な真似をする事も無かったので、禁忌魔術系の秘密結社であっても、基本的に放置され続けた存在であったのだ。

 そんな崑崙が数年前、突如滅んだ。滅んだ原因には香巴拉が関わっていて、その際……本物といえる仙術使いの殆どは死亡し、生き残った数少ない者達は、裏社会に流れたと言われている。

 飛鴻が裏社会の人間となったのは、崑崙が滅んだ後の事だ。裏社会で渡世人の様な暮らしを続けていた飛鴻は、アナテマの過激な穏健派抹殺の際、その高過ぎる戦闘能力を見込まれ、バズによりアナテマへのスカウトを受けた。

 崑崙崩壊時の経緯から、香巴拉との因縁浅からぬ関係であった飛鴻は、バズのスカウトを受諾しアナテマに参加。そして、バズは飛鴻の伝手つてから知った、腕利きの仙術使い達をもアナテマに勧誘、倫妖風ルンヤオフェンなどの腕利きの仙術使い達が、飛鴻と同時期にアナテマに参加する運びとなった。

 実力主義であるアナテマにおいてすら、飛鴻の能力は突出していた為、ジョセファン死亡後は空席となっていた、至高魔術師の序列一位……Ⅰ(プリムン)を、別に望んでもいないのに与えられた。崑崙の残党の中では、飛鴻に次ぐ実戦能力の高さや、宝貝による異常な防御能力の高さから、妖風も十位であるⅩ(デチマ)の至高魔術師となっている。

 アナテマに参加した経緯から、その殆どが主戦派に属している崑崙の残党の者達は、アナテマに籍を置きながらも、表の世界では流れ難い情報を得やすい裏社会にも、居続けたままである。言わば最強の矛である飛鴻と、最強の盾といえる妖風も、能力的な相性が良い為、大抵は二人組となって、裏社会で色々な活動を行っている。

 今回のアナテマ単体では遂行が不可能なレベルの、大規模な罠を仕掛ける作戦において、ハノイの薬幇の協力を取り付けられたのは、元から薬幇との太いパイプを持っていた、裏社会における飛鴻の立場があってこそだ(無論、相応の報酬をアナテマは出すのだが)。飛鴻など崑崙の残党の裏社会ネットワークは、情報収集だけでなく、アナテマには大きく役立っているのである。

 単にハノイへの被害を防ぐ為の、最強の盾……妖風の気を補充する為だけに、飛鴻はハノイにいた訳では無い。表向きの商売である用心棒としての仕事もこなしつつ、薬幇の幹部との交渉に当たっていたりと、飛鴻は様々な裏工作も担当していたのだから。

 この様な流れで、元々は崑崙の仙術使いである飛鴻や妖風は、薬幇の用心棒という立場でハノイに滞在し、今回の作戦に参加していたのである。バズやポワカ……ジェームズが、気まずそうに目線を逸らした、アナテマ最大のスキャンダルである、身内での壮絶な潰し合いこそが、飛鴻がアナテマに参加する切っ掛けであったのだ。


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