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昇龍擾乱 85

「救護班……いや、治癒弾が残っている者は集まれ! バズ様に応急処置を!」

 救護班だけでは足りないと考えたジェームズの命令に従い、合計で二十名程のアパッチ達が、治癒弾への魔力充填を行いつつ、大量の煙を発生させながら、バズの周囲に集まって来る。アパッチ達はバズを取り囲み、リボルベルの銃口を向けると、一斉に暖かみのある光の照射を開始。

 ポワカの時と同様に、裂傷や火傷などは目で見て分かる程、急速に癒えて行く。傷口は再生する皮膚に塞がれ出血は止まり、焼け焦げた肌は元の綺麗な状態に再生されていく。

 救護班のアパッチが一体、バズの左足首の様子を確認した上で、折れて曲がった骨を繋ぐ様に合わせる。その上で、リボルベルの銃口を左足首に集中照射、裂傷や火傷に比べると治療が難しい骨折の治療を開始。

 その頃、バズに比べるとダメージが軽かった、ポワカの治療が終了。数多くの傷や火傷が跡形も無い……とは言えないが、ほぼ治癒した状態となったポワカは、自分の治療に当たった救護班のアパッチ達に、立ち上がって礼を言う。

「治療、感謝!」

 傷は治療されたが、着衣は至る所が破れたまま。その破れた穴から覗く傷跡を目にして、ポワカの表情は僅かに曇る。

 若い女性なのだから、身体に傷が残っているのに気付き、心や表情が曇るのは当たり前と言えば当たり前。

「結構な深手だった為、人命優先で急速再生治療を行ったので、どうしても傷跡は残ります。三ヶ月ほどで皮膚組織は入れ替わり、傷は消える筈ですので、お気になさらず」

 傷跡が残ったのを気にしているのに気付いた、救護班の一人が、ポワカに声をかける。声から分かるが、アパッチの中にいるのは若い女性だ。

「――安堵」

 救護班に言葉として言われて安心し、ポワカの表情から曇りが晴れる。治癒弾による治療には限界があり、深手を負った場合は暫く跡が残るが、数ヶ月で跡は消える事を、ポワカも知識として知ってはいた。

 だが、アナテマでもトップクラスの戦闘能力を持つ程の強者であるポワカは、深手を負う程のやられ方をした経験が、これまで無かった。故に、知識としては知っていても、自分が今回負った傷跡が、本当に消えるレベルなのかどうか、確信が持てずに不安でいた所、救護班の言葉を耳にして、その不安を振り払えたのである。

「ポワカ様の応急処置、終了しました!」

 救護班の一人が、タンロン鉱山跡の大穴の近くにいるジェームズに、大声で知らせる。

「――様はいらない」

 声を上げた救護班のアパッチに、ポワカは声をかける。サルベージされた直後には無かった精神的な余裕が生まれ、先程ジェームズには言い損ねた言葉を、口にする余裕も出来たのだ。

「バズの様子、確認」

 そう言うと、ポワカはタンロン鉱山跡の方に向かって、歩き始める。治癒弾では体力も回復する為、最初こそ歩いていたが、途中からポワカは駆け出した。

 まともでは無い身体能力の持ち主であるポワカは、魔術の助けが無くとも、アパッチと同等以上のスピードで地上を駆ける事が出来る。あっという間にバズやジェームズがいる辺りに、ポワカは辿り着いてしまう。

「ポワカ様、お身体の方は?」

 ジェームズは声をかける。

「問題無い……あと、様はいらない」

 先程は言いそびれた言葉を口にしてから、ポワカは問いかける。

「バズの状態は?」

 アパッチ達に囲まれているせいで、治療を受けているバズの状態は、確認し辛いのだ。

「かなりの深手ではありますが、致命傷は負っていません。左足首の骨折は、ここで完治させるのは難しいでしょうが」

 バズに命の危険が有る訳では無いと知り、ポワカは安堵の表情を浮かべる。

「――ジジイが死に損なったって事は、実戦テストは成功した訳か」

 突如、その場には居ない筈の者の声が、会話に割り込んで来た為、ポワカとジェームズは驚きの表情を浮かべて振り返る。

「今回の作戦で、ポワカ嬢ちゃんが死なないのは、死相算命しそうさんめいで見て分かっていたが、ジジイは死相見られるの嫌がるんで、今回死ぬかどうか分からなかったからな」

 声の主である、ポワカ達の背後に立っていた白いスーツ姿の男は、飄々とした気楽な口調で、言葉を続ける。嬢ちゃん呼ばわりされて、多少不愉快そうに顔を顰めたポワカの事など、気にもせず。

「実戦テストに失敗して、死ぬかもしれねぇなと思っていたんだが、死に損なった様で何よりだ。例のシュシーポスの岩とやら、実戦で使い物になるって事か」

「飛鴻様、何時……此処に?」

 白いスーツ姿の男……飛鴻に、ジェームズは問いかける。

「今しがた、着いたばかりだ。滅魔煙陣の中は暇なんでな、妖風に穴開けて貰って、様子を見に来たのさ」

 八部衆が去った後も、妖風は用心の為に滅魔煙陣を展開し続け、飛鴻も滅魔煙陣の中で、八部衆が戻って来た場合に備えていた。だが、八部衆が戻って来る様子は無いので、防御結界に一時的に穴を開けさせ、飛鴻はタンロン鉱山跡の様子を確認しに来たのだ。

 妖風はハノイに残り、滅魔煙陣を展開したままである。

「あ、それと……シュシーポスではなく、シーシュポスの岩です」

 ジェームズは飛鴻の間違いを正す。

「大して変わらないだろ、シュシーでもシーシュでも、岩は岩なんだから」

「そんないい加減な」

 飛鴻の言い様に、ジェームズは苦笑する。二人の会話に出て来るシーシュポスの岩とは、ポワカとバズが中に入っていた、亜空間からサルベージされた、金平糖に似た大岩の事だ。


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