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昇龍擾乱 84

 岩全体に広がった無数の魔術式は、複雑な幾何学文様に変化。その幾何学文様を切れ目として、岩はバラバラに分解し始める。

 まるで立体型のパズルが崩されるかの様に、分解し崩壊した岩の中から、人影が姿を現す。着衣の至る所が破れたり焦げたり、身体もあちこちが傷や火傷だらけ、血塗れという程でないにしろ、あちこちから出血しているポワカが、姿を現したのだ。

「――引き上げ、感謝」

 かなり消耗している為、膝立ちの姿勢のままジェームズを見上げ、ポワカは謝意を口にする。着衣が破損しているだけでなく、ポワカがアクセサリー風に全身に装着していた空水晶粒は、使い切ったり着衣の破損時に失うなどして、既に無くなっていた。

「御無事で何より……いや、御無事と言える状態では、無いのかもしれませんが」

 生きてはいるものの、無事とは言い難いポワカの様子を見て、ジェームズは言い直してから、近くにいるアパッチ達に声をかける。

「救護班、ポワカ様に応急処置を!」

 ジェームズの声に応え、近くにいた五体のアパッチ達が、ポワカに向かって移動を開始。何れも既に牽引光線弾を使い切った、身体の各所に記されている機体番号が奇数のアパッチ達である。

 アパッチ達は移動しながらリボルベルのシリンダーを回し、治癒魔術の魔術式と煙水晶粒が一体化しているカートリッジ……治癒クラティオ弾を、銃身にセット。撃鉄を下ろして、大量の煙をリボルベルから放出させつつ、魔力を治癒弾に充填。

 煙の中から姿を現し、ポワカから二メートル程の距離まで辿り着いた時点で、アパッチ達は立ち止まり、ポワカにリボルベルの銃口を向け、引き金を引く。光線ではなく懐中電灯の様に広がる、白熱電球の光の様に暖かみのある光を、リボルベルはポワカに向けて照射。

 すると、血を垂れ流し続けていた、開いていた傷が閉じ、早回しの映像の様に修復され始める。修復されるのは裂傷だけでなく、火傷も同様であり、焼け爛れていた皮膚は元の姿を次第に取り戻していく。

 治癒系の魔術は難易度が高く、酷い傷や火傷を、目で見て分かる程の速さで治せる治癒魔術など、相当に高度な魔術師か、治癒能力を持つ聖盗くらいしか使えはしない。その使用のハードルを、大幅に引き下げたリボルベルであっても、魔術の思念操作に関する並以上のスキルが必要となる。

 治癒弾はアパッチのリボルベルには、標準的に装備されているし、レッドバロン隊の魔術師達は皆、リボルベルが無くとも、ある程度の治癒魔術を操れる程度の魔術技量がある。その中でも、特に治癒魔術の技量が高い魔術師が、救護班の担当となり、救護班のアパッチには、通常の機体より多くの治癒弾が装備されている。

「四肢を失ったという訳では無いですし、治癒弾だけで大丈夫そうですね」

 ポワカの様子を見ながら、ジェームズが呟いた直後、タンロン鉱山跡の方の地上から、声が響いて来る。

「――反応出ました!」

 声を聞いたジェームズは、反応……つまり空間の著しい歪みが検出された場所まで、数度の跳躍を繰り返して移動すると、リボルベルと入れ替える形で胸に収納していた、赤い円筒形のカプセルを取り出す。既に一つは消滅したので、取り出したのは一つだけ。

 ジェームズはスイッチを押して蓋を開くと、中に収納されていた岩の破片が、近くにある穴の向こう側に存在する、本体の岩を感知。岩の破片が本体を感知した段階で、役目を終えたカプセルは自壊。

 カプセルから解き放たれた岩の破片は、本体と呼び合い、本体が存在する亜空間と繋がる穴に向けて僅かに移動。磁石同士が吸い付く様に、穴を通じて本体と融合する。

 ちなみに、岩の破片と本体が呼び合う性質は、こちらの世界では数メートルの距離でしか働かない。故に、空間に穿たれた穴を、空間の歪みを検出するセンサーにより探し出した上で(空間に穴が穿たれると、その周囲の空間は歪む為、空間が歪んでいる辺りに穴がある可能性が高い)、岩の破片を解き放つのだ。

 岩の破片が本体と融合した後は、ポワカが収納されていた岩の時と同じ流れで、亜空間から岩自体をサルベージする。ジェームズはレッドバロン隊の偶数番号のアパッチ達……百四十九体を指揮し、空間に穿たれた小さな穴を強引に広げ、もう一つの岩の、亜空間からのサルベージに成功する。

 ポワカが収納されていたのと、ほぼ同じ形状の金平糖に似た大きな岩に、ジェームズはリボルベルで解除弾を撃ち込む。ポワカの時と同様、一発での解除には成功せず、合計四発……手持ちの解除弾を全弾使用し、何とか岩に仕掛けられている高度な魔術を解除する為の、これまた高度な解除用の魔術式を、岩の表面に記すのに成功。

 もう一つの岩の方も、幾何学模様の切れ目が入り、立体パズルを崩したかの様に、ばらばらに崩れ始める。そして、中から姿を現したのは、ポワカより明らかに手酷いダメージを負っている、満身創痍といえる状態のバズであった。

 四肢は一応無事だが、片膝をついた姿勢をとっているのは、左足首が明らかに妙な方向に折れ曲がっているせいで、立てない為。赤いスーツの色のせいで目立ち難いが、全身血塗れであり、破れ放題のスーツの隙間からは、まだ血が流れ出し続けている、深い裂傷が顔を覗かせている。

 頬の辺りには、皮膚が焼け焦げた酷い火傷があり、鼻髭は焼け落ちたのか、存在すらしていない。眼光こそ鋭さを保ってはいるが、このままでは長くはもたずに命を失うだろう事が、一目で分かる程のダメージを、バズは負っていた。


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