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昇龍擾乱 82

 八部衆の三人が北の空に飛び去り、十数分が過ぎた頃合、タンロン鉱山跡の辺りには人影が集まり始めていた。その多数の赤い人影は、直径が百メートルを余裕で超えるだろう、巨大な穴を目指している。

 タンロン鉱山跡の辺りには、二つの巨大な穴がある。天井が崩落して巨大な穴となったマットチョイや、華麗の金剛杵により穿たれた、クレーター状の同等に巨大な穴だ。

 他にも高度な攻撃魔術による破壊のせいで、穴だらけの荒れ放題の状況だが、やはりその二つの穴が、桁外れに大きい。赤い人影が集っているのは、クレーター状の穴の方である。

 赤い人影の正体は、八部衆と戦う二人の至高魔術師を、被害を受けぬ様に距離を取りながら、遠距離支援攻撃を行っていたアパッチ達。かなりの距離を取っていた上、擬似護羽根プレスドワパハによる防御もあった為、損傷を受けている機体も多いが、死者や行動不能な程のダメージを受けている者はいない。

 金剛杵には絶対防御能力は効果が無いので、アパッチが装備している擬似護羽根全てを使い切り、一度だけ発動が可能な絶対防御能力は意味を成さなかった。だが、絶対防御能力無しでも、爆心地から遠く離れていたアパッチ達を守り通す程度の防御能力を、擬似護羽根は持っていたのである。

 故に、ほぼ無事で済んだアパッチ達は、荒野のあちこちに身を潜めていたのだが、八部衆の三人が退いたのを確認し、タンロン鉱山跡の近くまで戻って来たのである。ある目的を、果たす為に。

 三百体のアパッチ達は、破壊の跡だらけの荒野の至る所を、調べて回っている。アパッチ達は、黒い回転式拳銃リボルバーの様に見える魔術機器を手にしていた。

 見た目こそ回転式拳銃風だが、いわゆる弾丸を撃つ銃器の類では無く、バズが開発した拳銃型多目的魔術機構である。正式名称は作った本人すらまともに覚えていない程に長ったらしい為、アナテマでは単純にリボルベルと呼ばれていて、アパッチの場合は使用しない時、胸部装甲の内側のケースに格納されている。

 回転式拳銃における回転式弾倉の部分……シリンダーに、記憶結晶粒と小型の魔術機構が一体化したカートリッジを装填して使用する。使用する魔術の魔術機構のカートリッジが装填されたシリンダーを、銃身に相当する部分にセットして、引き金を引いている間は魔術が発動し続け、引き金から指を離すと、魔術が停止する仕組みになっている。

 本来は相当に高度な魔術的能力を持つ魔術師以外には、使用や制御が不可能な魔術を、単純化したり機能制限した上でカートリッジ化。本来なら使用出来ないレベルの魔術師でも、限定的に使用可能にしたのがリボルベルである、

 現在、アパッチ達が使用するリボルベルは、空間の歪みを捉える特殊な魔術を発動中であり、センサー的な使われ方をしている。アパッチ達は爆心地の辺りで、リボルベルを使い、空間の歪みを探しているのだ。

 地上だけでなく、エルモービル(空中機動用魔術機構)を使用して、空中を飛び回りながら、空間の歪みを探しているアパッチもいる。その空中を探し回っていたアパッチの一体が、大声を上げる。

「反応有りました!」

 地上にいた一体のアパッチが大声を聞き取り、エルモービルを発動。その右肩に狼を象った黒いマークが描かれている、微妙に他の機体とデザインが異なるアパッチは、灰色の光の粒子群を背面の小さな翼の様な部分から放射しつつ、宙に舞い上がる。

 狼のマークが付いたアパッチは、地表から百メートル程離れた辺りでホバリングを続けていた、大声を上げたアパッチの元に辿り着くと、同様にホバリングを開始。狼のアパッチは左右の手に夫々(それぞれ)握っていた、赤い円筒状のカプセルの脇にあるスイッチを押し、カプセルの蓋を開く。

 左右二つのカプセルには、それぞれ岩の破片が入っていた。そして、左手に持っていたカプセルだけが砕け散り、中に入っていた岩の破片は、空中に浮いたまま静止状態となる。

 不思議な事に、岩の破片の近くには、別の岩の姿が幻の様に現れ始めていた。岩の破片が、別の大きな岩と一体化したが、その殆どの部分が目には見えず、岩の破片と融合した辺りだけが、薄い幻の様に見えるといった感じ。

 まだ殆どが目には見えない岩が出現し、カプセル内の岩の破片と融合した為、カプセルは押し潰される形で砕かれていたのだ。

「ポワカ様の岩の融合を確認した! これよりサルベージに入る! レッドバロン隊の奇数番号の者は、牽引光線トラクトルビーム砲で岩を狙え!」

 並んでホバリングしていたアパッチと共に、地上への降下を始めた狼のアパッチの中から、若い男の鋭い声が発せられる。アパッチの中にいるジェームズが、部下達に指示を出したのである。

 すると、アパッチ達の半数程がリボルベルのシリンダーを回し、銃身にセットするカートリッジを、センサー用から牽引光線用の物に変更。アパッチ達が撃鉄を下げると、リボルベルはシリンダーの隙間から、大量の煙を排出しつつ、カートリッジ内の煙水晶粒が魔力に変換されて、カートリッジ内の魔術機構に魔力を充填。

 魔力充填を終えたリボルベルの銃身を、アパッチ達は空中に見える小さな岩の欠片に向けて、狙いを絞る。

「牽引光線、発射!」

 地上に降り立ったジェームズが、声を張り上げて命じると、リボルベルを構えたアパッチ達は一斉に引き金を引く。撃鉄が上がって魔術が発動し、弦楽器に似た音を発生させつつ、銃口から微妙に灰色がかった光線が放たれ、目標である岩に向かって、一斉に伸びて行く。


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