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昇龍擾乱 77

 妖風は続けて、たつみーうまひつじさるとりの防御結界を展開する。四華州の発音では、、チェンスーウーウェイシェンヨウとなる、六枚六重の煙による防御結界は、次々と先に展開された防御結界を外側に押し出し、激しい稲妻を発生させる。

 そして最後に、「いぬ」と「」の二文字を太極図に書き込み、妖風は叫ぶ。

シューハイ!」

 すると、文字は灰色の粒子群となって、ハノイの周囲に飛び散り、これまで通りに煙の防御結界を二枚作り出す。これを以って、十二枚の防御結界による十二重の滅魔煙陣が、完成に至った。

 消耗したのだろう、妖風は額や目元の近くに浮いた汗を、華武服の袖で拭う。一気に十枚の防御結界を作り出したせいで乱れた呼吸を、数度の深呼吸で整えてから、まだ光が残っている両手を太極図に向け、「天」と「眼」の二文字を書き込む。

天眼ティンイェン!」

 妖風が叫ぶと、書き込まれた天眼の二文字は分解し、灰色の光の粒子群となって、少しだけ移動。太極図の上に、直径二メートル程の大きさの、巨大な鏡の様な物体を作り出す。

 何らかの金属で出来ている質感の円形の枠に、鏡がはめられている様な外見。枠には東方表意文字に似た文字で、仙術の魔術式がびっしりと書き込まれている。

 そんな宙に浮いている鏡の様な物体が、妖風が作り出した天眼てんがん、四華州のや仙術本来の発音では、天眼ティンイェンとなる。一定の範囲内ではあるが、離れた場所の光景を自在に見る事が出来る、高度な仙術だ。

 優れた天眼の使い手なら、千里離れた領域の光景すら目にする事が出来たという逸話から、千里眼シンリーイェンという別名もある(ちなみにリーは四華州での古い距離の単位、だいたい五百メートルに相当する)。もっとも、現在は独力で使える術者は一人も残っておらす、集団で術を発動したり、宝貝の力を借りて使える者が残っているだけの状況。

 妖風は滅魔煙陣の発動時のみ、滅魔煙陣の太極球が搭載していると思われる、天眼の魔術機構を利用し、天眼を使う事が出来る。ただし、天眼を使い始めてしまうと、滅魔煙陣は新しい防御結界を作り出せなくなるので、展開する予定の防御結界を全て展開してからでないと、妖風は事実上天眼を使えない。

 そして、妖風の能力が低いのか、それとも滅魔煙陣の大極球に搭載されている、天眼の魔術機構が機能制限版なのかは分からないが、妖風が用いる天眼の能力は高くは無い。見る事が出来る範囲の限界は、せいぜい数里程度なのだ。

 もっとも、それだけの能力が有れば、滅魔煙陣の防御結界の中から、外の様子を探るのには十分であり、特に問題にはならない。

「あの派手な音がした辺りを、天眼てんがんに映してくれ、二撃目の方だ!」

天眼ティンイェンです!」

 瀛州読みしたがる飛鴻の発音を正しつつ、妖風は天眼を思考により操作、音が響いて来た方向を思い出しつつ、二撃目が行われたと思われる辺りを推測して天眼に表示。表示は基本的に、見たい領域を見渡せる辺りまで視点が近付き、天眼の術者が存在する方向から、ビデオカメラで撮影した感じになる。

 飛鴻の求めにより、妖風が天眼に表示した映像は、爆心地であろう巨大なクレーターと、吹き飛ばされた瓦礫や土砂により、凸凹だらけの凄惨な光景。至る所から立ち上る土煙が、風に流され揺らめいている。

 初めて金剛杵の攻撃跡を目にした妖風は、驚き……息を呑む。

「――大規模な戦場並ですね。これを、一人の魔術師が一撃で……」

 常識的な魔術攻撃による破壊跡とは、まさに桁違いの規模。多数の魔術師が争った戦争が残したものに匹敵する破壊の跡が、たった一人の魔術師が放った一撃による痕跡なのだから、妖風が驚くのも無理は無い。

 飛鴻が何かにつけて、八部衆との戦いを「戦争」と……しかも「四百年振りの大戦争」などと表現する意味を、妖風は今になって本当の意味で理解した。飛鴻も理屈としては、元から理解していたつもりではあった。

 だが、十人に満たない魔術師相手の戦いが、戦争と呼べる規模の被害を引き起こし得る事を、妖風は知識としては理解しつつも、感覚的に理解出来ていなかったのだと言える。

「馬鹿でかい爆心地の穴と、手前にある小さな穴の間に、天眼の視点を移動させてくれ」

 妖風と違い驚きもせずに、破壊の跡を観察していた飛鴻は、映像の一部に映し出されている存在に気付き、妖風に指示を出す。

「人影だ、三人いる」

 この場にいる三人の人影と言えば、八部衆の三人以外にはいる訳が無い。黄天城による攻撃が止んでいる以上、八部衆と戦っていた相手は死んだか、既に逃げたかのどちらかであり、この場に残っている筈は無いので。

 妖風は慌てて、三人の人影の姿を確認出来る辺りまで、天眼の視点を近付ける。視点は徐々に移動するというよりは、いきなり跳ぶ感じで移動し、三人の人影が天眼に大写しになる。


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