表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/344

昇龍擾乱 71

 金剛杵を握った左手で天を突き上げ、右掌を胸の琥珀玉に被せながら、タイソンは天に向かって咆哮する。

黄天こうてんまさに建つべし! 出でよ、黄天城ファンティンチャン!」

 直後、金剛杵の小宝珠が強烈な黄色い光を放ち始め、タイソンの身体は光に包み込まれる。タイソンの身体はゆっくりと宙に舞い上がりながら、黄色い半透明の防御殻に、包まれ始める。

 防御殻は一つではなく、一つの防御殻の上に、それよりも大きな防御殻が作り出されるといった風に、次々と多層構造の防御殻が、タイソンの周囲に形成され始めた。人形型ではなく球形ではあるが、あたかもマトリョーシカの様に。

 高度百メートル程の辺りで、タイソンが空中停止した頃合には、タイソンは半径百メートル程の、巨大な黄色い防御殻に包み込まれていた。一つ一つの防御殻は半透明なのだが、二十層程に重ねられて透明度が失われた為、その中心にいる筈のタイソンの姿は見えない。

 直径百メートル程で、防御殻の形成は終ったが、まだ変化が終った訳では無い。一番外側の防御殻の表面が、変化を起こし始めたのである。

 黄色い球体状の防御殻の全表面に、ある程度の間隔を空け、多数の突起が出現し始めたのだ。突起は五メートル程の大きさに達した辺りで伸びるのを止め、更なる変形を開始。人の姿を思わせる形に変わり始めた突起は、まるで歴史に名を残した仏師が彫像したかの如き、見事な仏像に姿を変える。

 どちらかといえば、日本というよりは東南アジアで良く見られる、派手な法衣や鎧を纏う、美しい男女の姿を象った仏像を思わせる意匠。宗教的な性質が強い香巴拉における、夜叉と呼ばれる鬼神の男女の像であり、タイソン……つまり八部衆の夜叉という名も、この夜叉が由来となっている。

 その外郭(外殻に非ず、城の外郭という意味で)に多数の夜叉像を並べた、天空を飛ぶ巨大な黄色い球体こそが、タイソンの金剛杵が発動した際の姿、その名を黄天城。多層構造の防御殻に守られた、まさに鉄壁といえる強力な防御力を誇る天空の城。

(何だ、あの黄色い雲丹うにみたいなの? 馬鹿でかい防御殻に見えるから、防御力は高そうだが、それだけじゃない……ヤバい感じだぞ、あれは!)

 出現した黄天城を目にした朝霞は、仮面の下で驚きの表情を浮かべつつ、無数の突起がある黄色い球体状の姿を、黄色い雲丹に例える。巨大かつ多層構造の防御殻であり、その威容に相応しいだけの、強固な防御能力は当然として、それだけでは無い得体の知れない脅威は、朝霞にも見るだけで察せられた。

 朝霞が察した通り、強固な防御能力を持つ黄天城だが、金剛杵はあくまで八部衆にとっては攻撃の切札といえる武器。特筆すべきは攻撃力の方であり、タイソンも朝霞を確実に仕留める為の決戦手段として、黄天城を出現させたのだ。

 タイソンは黄天城の中心で、黄天城を操作している。黄天城に姿を変えた為、金剛杵は既にタイソンの手の中には無い。

 黄天城の中心は、防御殻が作り出している、直径五メートル程の球形の操縦室となっていて、操縦室内でタイソンは浮いている。操縦室の内面は、まるで全天球型のモニターの様に、黄天城の周囲の光景を映し出していた。

 外郭の夜叉像の目が捉えた映像が、操縦室の内面に表示される、黄天城のシステムの名は照外鏡チャオワイジン。照外鏡に映し出された映像を見ながら、タイソンは黄天城を操縦しているのだ。

 移動や動かす夜叉像の選択など、基本的な操縦は思考だけで行えるのだが、強力な攻撃を放つ際などは、タイソン自身が攻撃の名を宣言する場合が多い。そして、照外鏡に映し出された、飛び去って行く朝霞の姿を見据えながら、タイソンは攻撃方法を宣言する。

天魔悉てんまことごとく撃ち滅ぼせ、千臂殲撃シンビージンチー!」

 攻撃方法を口にした上で、タイソンは黄殲洪流ファンジーホンリョウを放った時の様に、対面から見てL字を描く様に両腕を組み、照外鏡の中の朝霞に向ける。ただし、黄殲洪流を放つ時には必須である、琥珀玉から魔力を腕に移す動作は行わずに。

 すると、タイソンが見せた動きと連動しているかの様に、黄天城の外郭の、朝霞がいる方向に配置されている夜叉像の半分……二百五十基が、対面から見てL字に見える形に腕を組み、朝霞を狙う動きを見せる。黄天城の夜叉像の総数は千基、つまり朝霞の側を向いている側に配置されているのは五百基となり、その半分が動き始めた状態。

 腕を組んだ直後、二百五十基の夜叉像の右腕……指先から肘までが光り始めたかと思うと、一斉に眩いばかりの黄色い光線を発射。身の丈が人の三倍程の夜叉像が二百五十基、一斉に黄殲洪流の黄色い光線を、耳をつんざく程に大きな、ジェット噴射音に似た音を発生させながら、朝霞に向けて放ち始めたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ