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昇龍擾乱 69

「――俺は本当に運が良い」

 潮目が変わったのを察したのは、戦っている相手であるタイソン。防御殻で身を守りながら、身体の修復と身支度を、僅かな間に終えてしまったタイソンは、再生したばかりの身体の感覚を確かめる様に、軽く動かしてみせながら、言葉を続ける。

「二匹目の黒猫が、その能力を育て上げる前に、殺せる機会を得たのだから」

「二匹目の黒猫? 何の事だ?」

 タイソンの言葉の意味が分からなかった朝霞は、身構えつつ問いかける。

「――知らないのか? 自分が煙水晶界に現れた、二匹目の黒猫……二人目の透破猫之神なのを?」

 意外そうな表情を浮かべ、タイソンは朝霞に問いかける。

「俺が……二人目の透破猫之神?」

「そうだ、香巴拉にとっての天敵である、透破猫之神の再来である貴様こそが、香巴拉にとっては凶兆! 蒼玉の回収よりも、俺にとっては黒猫……透破猫之神を、今の段階で消し去る事の方が、既に最優先されるべき目的だ!」

(俺が二人目で、香巴拉の天敵? しかも、蒼玉の回収より俺を殺す方を優先? 一体どういう事なんだ?)

 朝霞の頭の中に、様々な疑問が浮かんで来る。

「――この戦いで俺は確信した、お前の能力は……そのまま成長を続ければ、一匹目の黒猫以上に、香巴拉にとって厄介な能力と成り得る」

 嬉しげに表情を綻ばせながら、タイソンは言葉を続ける。

「その能力を育て上げる前に、お前を仕留める機会を与えてくれた、天の差配に感謝しなければ……」

 そう言いかけた直後、タイソンの遥か後方……タンロン鉱山跡の方で、眩いばかりの青い閃光が輝いたかと思うと、巨大な光球が発生する。青い光球は一瞬で膨れ上がり、周囲の土砂を吹き飛ばし、舞い上げているのだろう、膨大な灰褐色の煙が立ち上る。

(爆発か?)

 驚きの表情を浮かべつつ、慧夢が自問した通り、タンロン鉱山跡では大爆発が発生していた。爆発が発生させた光に続いて、地表に発生した白い波の様な何かが、爆心地を中心として、周囲に猛スピードで広がり始め、朝霞やタイソンがいる方向にも、高速で迫って来る。

 地表を伝わる白い波の様に見えたのは、爆発により発生した衝撃波。地表付近を伝わる衝撃波は、地表の砂塵を舞い上げるので視認し易いが、衝撃波自体は空中をも高速で伝わり、朝霞やタイソンに向かって押し寄せて来る。

(やばい!)

 地表を見て衝撃波の到来に気付き、朝霞は防御殻に守られたタイソンを壁として利用するかの様に、タイソンの陰に移動しつつ、更に衝撃波と同方向に跳躍。直後、凄まじい衝撃波がタイソンと朝霞の元に到来。

 津波の様に襲い掛かって来る砂塵の波は、まるで機銃掃射の様。目に見えない大気を伝わる衝撃波も、同時に襲い掛かって来るが、こちらは透明で巨大な壁が、超高速で吹っ飛んで来る感じ。

 爆発の方向を向いていた朝霞は、タイソンより先に爆発に気付いたので、まずはタイソンの陰に隠れて、タイソンごと防御殻を盾としつつ、衝撃波の移動方向と同方向に、高速で跳んだ。跳んだのは、砂礫や衝撃波の勢いを殺し、ダメージを軽減する為。

 押し寄せる砂塵の多くは、タイソンの防御殻を盾として利用したせいで、防げはしたのだが、それでも全身に結構な量の砂礫を食らい、朝霞は全身に激痛を覚える。衝撃波と同方向に跳んだとはいえ、さすがに超高速の衝撃波の威力を殺し切れはせず、朝霞は暴走トラックに轢かれた程度のダメージは受けてしまう。

 荒野の上を百メートル近く、吹っ飛ばされて転げ回った挙句、朝霞は何とか四つん這いいになる形で踏み止まり、体勢を立て直す。その一連の身軽な動作は、まさに黒猫の様。

 一瞬の判断により、朝霞は上手く衝撃波のダメージを軽減する対策を取れた。そのせいか、全身の骨は軋んでいるし、身体の各所には砂礫の衝突による激痛が残っているが、深刻なダメージは負っていない。

 朝霞は即座に辺りを見回し、状況を確認。爆発が発生していたタンロン鉱山跡の方は、既に青い光は消え失せ、所々が青く染まっているが、全体としては灰褐色の、天に昇っていく巨大な爆煙だけが確認出来る状態。

 直後、朝霞の背後から爆心地に向う、強烈な空気の流れが発生、暴風を背に受けた朝霞は、バランスを失いそうになるが、何とか踏み止まる。爆風となり爆心地から周囲に吹き飛ばされた大量の空気が、気圧が下がった爆心地に向かって、一斉に戻り始めた事による空気の流れが起こったのだ。

 砂礫を舞い上げながら、暴風となった空気が爆心地に戻って行くが、流石に衝撃波の時とは違い、朝霞にダメージを与える様なものではない。朝霞は構わずに状況確認を継続、朝霞程ではないにしろ、防御殻ごと衝撃波に吹っ飛ばされて、数十メートル移動した辺りで、体勢を立て直しているタイソンの姿が、朝霞の目に映る。

(防御力高い奴だし、俺が無事で済んだ程度の衝撃波で、どうにかなる訳もないか)

 タイソンの無事を視認した朝霞は、どうすべきか考えを巡らす。


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