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昇龍擾乱 68

「どうやって倒せばいいんだ、こんな化け物を?」

 脅威の再生能力を目にしながら、自問する朝霞の視界の中で、タイソンはあっさりと左腕の再生を終えてしまう。そして、タイニィ・バブルスと同種の香巴拉の魔術、虚空泡沫シークンハオモアを使い、倉庫として利用している亜世界の中から、予備の華武服を取り出すと、素早く身に着ける。

 タイソンも身体は魔術で再生出来るが、服は魔術でも再生は出来ないのだ。戦闘中である為、ラフに開かれた胸元からは、琥珀玉が顔を覗かせている。

 琥珀玉の大きさは、既に三分の一以下になっていて、何とかギリギリ法輪が収まっているという状態。欠損した身体を再生するのは、八部衆とはいえ膨大な魔力の消耗を避けられないのだ。

「――随分と小さくなったじゃないか、琥珀玉! そんなんで戦えるのかよ?」

 かなりの魔力を消耗しただろうタイソンに、朝霞は問いかける。これ以上魔力を消耗したら、法輪が琥珀玉からはみ出しかねない状態に見えるタイソンが、これ以上戦い続けられるかどうか、かまをかけてみるつもりで。

「敵の魔力切れよりも、自分の魔力切れの方を気にするんだな!」

 再生したばかりの左手の指先で、タイソンは自分の額の部分を指差す。自分の額の様子を、朝霞に確認しろとばかりに。

(俺の魔力切れ? 額? あ!)

 タイソンの言動の意味を理解した朝霞は、黒い金属風で艶のある右の篭手を、鏡として利用。額の前に篭手を翳して、写った額の六芒星の状態を確認。

 六芒星の頂点の角に含まれた五芒星は、朝霞の視界に影響を与えない程度に、青い光を放っていた。

(五芒星が光ってる! 記憶を直接、魔力に変換し始めてるんだ!)

 頭を強打されたかの様な衝撃を、朝霞は覚える。記憶を失い始めている事自体にも衝撃を受けたのだが、それ以上にタイソン相手に、五芒星が光り始めた状態で戦わなければならない状況に追い込まれた事の方が、それ以上の衝撃だった。

 五芒星が輝き始めた状態で、一定以上の記憶を魔力に換え終えると、五芒星が崩壊して、交魔法は強制解除される。そして、五芒星が崩壊する形で交魔法が強制解除される場合、仮面者になる為の魔術式が、ダメージを受ける可能性がある。

 レベル1とはいえ、交魔法の強制解除により朝霞が受けるダメージは、軽いとは言えない。聖盗としての能力が不安定化する可能性が高く、場合によっては死の危険に晒されかねないリスクが、交魔法の強制解除には存在するのだ。

 危険であるが故に、どの程度の魔力を使えば強制解除になるのか、朝霞は実験すら行っていない。五芒星が輝き始めてから、自分がどの程度魔力を……能力を使えるのか、朝霞は知らないのである。

(いや、それ以前に……何時から五芒星が光り始めたのかも分からないんだから、問題外だな。たぶん、法輪相手に奪う蒼を使った時なんだろうが)

 あくまで大雑把にではあるのだが、どの程度自分が魔力を使ったのか、聖盗には分かる。元から奪う蒼は魔力消費が激しい上、タイソン相手に奪う蒼を使った際、膨大な魔力を消耗した自覚が、朝霞にはあったのだ。

 それでも、奪う蒼は法輪相手に、完全発動はしなかった。記憶を魔力に換える状態で使える魔力を含めても、魔力が足りなかった為に。

(法輪相手に奪う蒼を使ったのは、失敗だったか。法輪を機能停止させている間に、夜叉を倒せていたのならともかく、倒せなかったんだし)

 タイソンの身体の相当部分を破壊し、その再生に大量の魔力を使わせたのだから、奪う蒼を起点とした朝霞の攻撃は、無駄ではなかった。だが、奪う蒼の中途半端な発動により、朝霞も魔力を大量に消耗してしまった。

 消耗した魔力量自体は、タイソンの方が圧倒的に多いのだが、基本的な魔力量において、タイソンは朝霞を圧倒的に上回るので、この段階に至っても、魔力切れの心配をする様子は無い。しかも、タイソンは自分の残存魔力量を把握出来ているが、朝霞には出来ていない。

 総合的に見て、奪う蒼の使用により、自分の方が不利な状況に追い込まれたと、朝霞は感じていた。特に、後どれだけ自分が戦えるか分からないのは、朝霞にとっては厳しかった。

 魔力残量が分からないと、戦いを組み立て難いからだ。

(――勢いで押し切れそうな流れだったが、潮目が変わりやがった。これ以上戦い続けたら、やばい展開になりそうだな)

 交魔法を習得しても、八部衆との一対一での戦いは避けるべきと、ナイルや解説書により、朝霞は忠告されていた。そんな八部衆のタイソン相手に、五分どころか僅かではあるが、押し気味に戦いを進めて来た自覚が、朝霞にはあった。

 実際、弱点である紙装甲が改善された上、元から突出していた高速戦闘能力が更に強化された、交魔法状態の透破猫之神の戦闘能力は、交魔法状態の仮面者の中でも、間違いなくトップクラスに入る。得意とする高速高機動戦闘に持ち込むのに成功すれば、ある程度までなら一人でも、八部衆相手にやれるだけの戦闘力を、既に朝霞は持っていた。

 だからこそ、タイソン相手に朝霞は押し気味の戦いを、これまで続けて来れたのだと言える。だが、その戦いの流れ……潮目が変わった事を、朝霞は察してしまった。

 既に残りの魔力が多くは無いのは分かっているが、どの程度の魔術能力戦闘が続けられるのか、朝霞には分からない状態。おまけに、主力といえる攻撃能力の一つ、与える黒は使用不能。

 しかも、かなり激しい体術の使用により、朝霞は体力も相当に消耗していた。治癒魔術により体力も回復可能なタイソンに比べ、治癒魔術を使えない朝霞は回復も出来ない。

 黒猫団は能力が偏った三人が、チームで活動する前提で、その能力を育て上げて来た。それぞれが一人であっても、聖盗の中では最強クラスではあるのだが、回復や治癒を幸手頼りにして来た弊害が、今……個人で戦う場面で、露になってしまった格好。

 そして、戦いの流れの潮目が変わったのを察したのは、朝霞だけでは無かった。


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