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昇龍擾乱 66

(法輪は奪えないが、法輪の機能を止めた今、魔術は使えない筈! これはチャンスだ!)

 奪う蒼が対象とする魔術式を、一時的に機能停止に追い込めるのは、短ければ一秒、長くても五秒程度の僅かな時間。瞬延には届かないが、思考や感覚が相当な加速状態に入っているので、朝霞は色々と考えを巡らせたのだが、過ぎた時間は一秒前後、まだ法輪は機能停止状態のまま。

 しかも、法輪を機能停止状態にされるという、これまで経験した事もない事態に混乱したのだろう。タイソンは目を見開いて呆然としているだけで、まともに対処出来ない状態。

 この完全なる隙を、朝霞は見逃す訳にはいかない。攻撃の種類など選ぶ暇も無いとばかりに、得意とする蹴り技で、タイソンに襲い掛かる。

 まずは右脚で掛け蹴り(フックキックともいう)を、朝霞は放つ。掛け蹴りは通常、奇襲などに利用する、内側から外側に向けて放つ変則的な回し蹴り。

 タイソンが自分の右側にいた位置関係上、朝霞には掛け蹴りの方が狙い易かったのだ。

見事にタイソンの腹部を捉えた蹴り脚を、朝霞は即座に戻す。

 当てはしたが、魔力の鎧(という呼び名を朝霞は知らないが)による防御が生きているのを、足応えから察したからだ。防御殻無しに食らえば、普通なら一撃で敵を沈められる筈の蹴りなのだが、仕留められていないのは確実だったので、即座に次の攻撃に繋げなければならない。

 掛け蹴りのモーションにより、朝霞の身体は右側に程良く回った。そのまま朝霞は、戻したばかりの右脚で、横蹴りを一気に十数発、下段中段上段ローミドルハイと切り替えながら、続け様にタイソンに向かって放つ。

 脚部に腹部、胸部に頭部、腕部などに襲い掛かった朝霞の右脚先は、掛け蹴りを食らって正気に戻ったタイソンですら、影は見えても身体が追いつかず、何とか三発をさばくのが限界であり、全身を機関銃で撃たれたかの様に、滅多打ちの状態になる。

 しかも、タイソンの魔力の鎧は、朝霞の蹴りに打ち崩され、その効果を急激に失いつつある。魔力の鎧は発動し、維持するだけでも魔力を消耗する上、攻撃を食らうと一気に魔力を消耗してしまう。

 つまり、強烈な蹴りを食らい続けた魔力の鎧は、大量の魔力を失う羽目になったのだが、琥珀玉から魔力を発生させる法輪が機能停止中なので、タイソンは魔力の補充が出来ない。故に、魔力の鎧による防御能力は、急激に失われていき、タイソンの身体を朝霞の蹴りから守り通せなくなっていく。

 魔力の鎧による防御力が落ちたタイソンの左腕の肘が、朝霞の蹴りを食らい、嫌な音を響かせつつ砕け、有り得ない方向に曲がる。次の蹴りが掠っただけで、左腕は鮮血を撒き散らしながら、肘の部分から千切れてしまう。

 左肩に左脇腹、右腿に左の脛……といった感じに、魔力の鎧を失ったタイソンの身体が、次々と朝霞の蹴りに破壊され、刀剣で切断されたり、砲弾に撃ち抜かれたかの様に、抉られ続ける。

 血飛沫が飛び散り、視界が赤味を増して行く。タイソンの身体は僅かの間に、体中に酷いダメージを負ってしまったが、頭部と胸部……そして右腕は、他の箇所より魔力を集中して防御している為、まだ殆どダメージを負っていない。

(頭と法輪がある胸に、残りの魔力を集めて防御固めてるのか! 横蹴りだけで崩すのは無理だ!)

 横蹴りは決して弱い蹴りでは無いのだが、回転や体重を乗せた回し蹴りには、威力において劣る。朝霞は即座に、威力においては現時点で最強の蹴りを放つべく、身体を捻りつつ腰を落として、ためを作る。

 一瞬、蹴りの雨が止んだ為、タイソンは傷だらけの両脚を必死で動かし、背後に飛び退く。骨が数箇所折れ、至る所の肉が抉れている為、激痛に顔を歪めながらではあるが、タイソンは一瞬で数メートルの間合いを取るのに成功。

 ためを解放して、時計回りの回転を身体に与えながら、朝霞は勢い良く跳躍。ただし上にではなく、飛び退いたタイソンを追って前方に。

 回転しながらタイソンを追った朝霞は、そのままタイソンに襲い掛かり、伸ばした右脚で超高速の回転蹴りを放つ。二体のアパッチ相手に使った、上昇しながらの旋風蹴りでは無く、前方に跳びながらの旋風蹴りを、タイソンに放ったのだ。

 法輪を含む琥珀玉がある胸部を狙い、朝霞は旋風蹴りを放ったのだが、朝霞の右脚が捉えたのは、琥珀玉より僅かに下、タイソンの鳩尾の下辺り。旋風蹴りが発生させた、激しく渦巻く空気の流れに、タイソンの身体が浮かされてしまい、琥珀玉の数センチ下の辺りに、打点がずれてしまったのである。

 魔力の鎧による防御能力の殆どを失った状態で、旋風蹴りを食らったタイソンは、悲鳴を上げる間も無く、大刀の刃による斬撃を食らったかの様に、鳩尾の下辺りで身体を両断されてしまう。旋風蹴りが発生させた旋風に、上半身と下半身に分かたれた身体が、巻き上げられる。

 旋風に吹っ飛ばされたタイソンの身体は、文字通り血の雨を降らせながら、風に舞う木の葉の様に、出鱈目な回転を続けた。その挙句、朝霞から数十メートル離れた辺りに、上半身と下半身が数メートルの間を空けて落下、それぞれ血飛沫を撒き散らしながら、地面に叩きつけられた。


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