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昇龍擾乱 65

(まだ法輪に戻っていないなら、魔術式は奪える筈!)

 朝霞は右手の向きを強引に変え、魔術式に触れようとする。だが、タイソンと同じ方向を向きながら、左側にいるタイソンの胸に吸い込まれて行く魔術式を、右腕で追いかけるのは、かなり変則的な動きであり、朝霞には追い難い体勢。

 しかも、魔術式が法輪に戻るスピードは、常人なら視認すら困難な程に速い。結果として朝霞の右手甲が届く前に、魔術式は琥珀玉の中に戻り切り、法輪との一体化を果たしてしまった。

 朝霞の右手甲は僅かに遅れて、タイソンの胸に埋め込まれた琥珀玉を打ち、甲高い音を響かせる。この段階で、既に攻性防御殻の魔術式を奪うという、朝霞の目論見は失敗していた。

 だが、紙一重といえるタイミングでの失敗であった為、魔術式を奪うつもりだった朝霞は、既に奪う蒼を発動してしまっていた。正確にいえば、魔術式を奪うのに失敗した自覚はあったのだが、奪う蒼の発動を止める余裕が無かったというべき状態。

 朝霞の目には、既に魔術式が戻った状態の法輪を内包する、琥珀玉の姿が目に映っている。法輪が膨大な魔術式の集合体であるのは、魔術師でもある朝霞には分かるのだが、その中のどれが奪うべき魔術式なのか、朝霞には皆目検討がつかない。

(こんなの無理だ! 狙いの魔術式を選べる訳ないだろ!)

 超圧縮されている為、視覚が異常に強化されている朝霞でも、個別の魔術式は視認し辛く、魔術式の数自体も多過ぎる。しかも香巴拉式の魔術文字を読めないのだから、法輪の中から狙いの魔術式を選んで奪うなど、朝霞には不可能だった。

 奪う蒼は発動時、対象物に一つしか魔術式が存在しない場合は、発動状態で触れた時点で、自動的に魔術式を奪う為の動作を開始する。魔術式が複数存在する場合、朝霞が魔術式を一つ選ばなければ、動作を開始しない。

 つまり、無数の魔術式の集合体である法輪を内包する琥珀玉を対象に、奪う蒼が発動した場合、本来なら奪う魔術式を朝霞が選択するまで、何の動作も起こらない筈なのだ。

 だが、琥珀玉に触れた朝霞の青い六芒星は、朝霞が奪うべき魔術式を選べない状態にも関わらず、眩いばかりの閃光を放ち、青い稲妻の如き光を、琥珀玉の表面に走らせた。まるで琥珀玉の中に、一つしか魔術式が存在しないかの様に、奪う蒼は魔術式を奪う為の初期動作を開始したのである。

 通常なら、稲妻の如き閃光が一瞬で消え去った後、魔術が発動中であろうがなかろうが、奪う対象となる魔術式が、一時的に機能停止状態に陥る。その上で、魔術式が固定されている物体から引き剥がされ、青い六芒星の中に吸い込まれる。

 ところが今回は、稲妻の如き閃光が消え去ったまでは同じだが、狙いとした一つの魔術式どころか、閃光に包まれていた全ての魔術式……つまり法輪自体が、一時的に機能停止状態に陥ったのだ。ただし、機能停止しただけであり、琥珀玉内の記憶結晶板からは、引き剥がせない状態。

 これまで奪う蒼を使った経験から、朝霞は法輪自体が機能停止したのを、感覚的に察せられた。その上で魔術式を剥がして奪い取れない状態が、何を意味しているのか、大雑把にではあるが把握出来た。

(これは、魔力不足!)

 奪う蒼は魔力の消費量が、決して少なくは無い固有の特殊能力。魔力の残量が十分で無い状態で、奪う蒼を発動した際、今回の様に中途半端に発動したまま、先の段階に進まなくなる経験を、朝霞は過去に何度か経験していた。

 魔術式を一時的に機能停止に出来ても、魔術式を引き剥がし奪えない。そんな中途半端な状態になったのは、朝霞にとって初めての経験では無かったのである。

 ただ、現在は交魔法の発動中、仮に変身時に使用した蒼玉粒分の魔力を使い切っても、自らの記憶を直接魔力に換えて、奪う蒼を使える筈。それでも奪う蒼が中途半端な形でしか発動しないのは何故なのか、朝霞は思考が加速した状態で頭を巡らす。

 そして、通常なら一つしか奪えない筈なのに、膨大な魔術式の集合体である法輪ごと、奪おうとしている、自分の右手の青い六芒星を見て、朝霞は単純な答……真実に辿り着く。

(膨大な数の魔術式の集合体である法輪を奪うには、交魔法発動で増えた分の魔力量を含めても、魔力が足りないのか!)

 朝霞が気付いた通り、朝霞のレベル1の交魔法において、記憶を直接魔力に変換可能になった為、使用可能な魔力量の上限が大幅に引き上げられたのだが、それでも法輪を引き剥がすには、残りの魔力が完全に足りなかった。それ故、奪う蒼は法輪を機能停止にした段階から、先には進まなかったのだ。

 交魔法の入り口であるレベル1の朝霞の場合、奪う蒼に関しては、奪うスピードなどにおいて改善は見られたが、奪える魔術式が一つという制限に変わりは無い。それにも関わらず、膨大な魔術式の集合体である法輪自体に発動した理由は、朝霞には分からない。

 だが、そんな異常動作ともいえる発動の途中で、奪う蒼が停止した理由が、朝霞には分かった。法輪自体に奪う蒼が発動するという異常動作中であっても、現在の自分の能力では扱える魔力量が足りず、法輪は奪い切れないという現実にも。


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