昇龍擾乱 60
腰を落して身体を捻り、タイソンは溜めを作りつつ、金剛合掌印を結んだまま、両腕の前腕部分を両膝に触れさせる。光り輝く魔力は、タイソンの両脚にまで移る。
タイソンは既に魔術を発動させ、金剛合掌印を結んだ両手を先端として、円錐状の攻性防御殻を作り出している。上半身全てを覆う、閉じた傘にも似た形の、強い黄色の光を放つ攻性防御殻を。
僅かの間に両脚に魔力をチャージし、攻性防御殻を作り終えたタイソンは、金剛合掌印を結んだ両手を朝霞に向ける。そして一度、金剛合掌印を解いて、両手の親指と人差し指を使って輪を作り、残りの指を開く形の印……太陽印を結ぶ。
タイソンは指で作った輪の間から、まだ身体の自由を取り戻せていない朝霞の姿を、視界の中心に捉える。その上で、目に映る朝霞の姿を潰すかの様に、太陽印を崩して合掌し、再び印を金剛合掌印へと戻す。
そして、タイソンは溜めを解放しつつ朝霞に向けて、プールに飛び込む水泳選手の様に、金剛合掌印を結んだ両手を先端として跳躍。続けて、両脚にチャージした魔力を、足の裏からロケット噴射の様に噴出し始める。
人並み外れた跳躍力に加え、光り輝く魔力の噴射により、強力な推力を得たタイソンの身体は、朝霞に向かって真っ直ぐに飛んで行く。跳躍の際、身体に捻りを加えた為、右回りに回転しつつ、朝霞に向かって突き進む、円錐状の攻性防御殻の黄色い光に包まれたタイソンの身体は、まるでドリルか、ミサイルであるかの様。
円錐状の攻性防御殻を作り出した上で、身体を回転させつつ跳躍。足から魔力を噴射して得た猛スピードで、敵に向かって突進するのが、これもタイソン独自の魔武術である、金剛鑽攻。
通常の攻性防御殻は、強力な衝撃を受けると爆発したかの様に起爆し、強烈な衝撃波を発生させ、敵に一方的なダメージを与えるだけのもの。だが、防御魔術において八部衆一であるタイソンが、金剛合掌印を結んで作り出す、この円錐状の防御殻……鑽形攻性防御殻は、通常の攻性防御殻とは違う。
表面に鋭い切り刃の様な部分が形作られている為、敵を直撃した上で起爆し、大ダメージを与えられるだけではない。起爆する程では無い、掠れた程度の当り方ですら、防御殻表面の刃によって、かなりのダメージを与えられるのだ。
タイソンは黄色い光に包まれながら、回転しつつ朝霞に向かって高速で突進。あっという間に、十数メートルの間合いを詰めてしまう。
金剛鑽攻は相当な速さであったが、本来の朝霞であれば、回避出来るレベルの速さの突進技。だが、今の朝霞は本来の状態ではなく、タイソンが脱鎧で放った魔力の衝撃波により、身体の動きが阻害されている状態。
(身体が上手く動かない! これじゃかわせない!)
自分に向かって突進して来るタイソンの攻撃は、防御殻無しに食らったら、一撃でやられそうな威力だと、朝霞は察していた。かなり膨大な魔力を投じた上での、攻性防御殻で身を守りながらの突進技であるのは、見て理解できたので。
(食らったら終わりだ! 何としても避けないと!)
焦った朝霞は、瞬延に近いレベルまで思考と感覚が加速した状態で、必死で思考を巡らし、対処法を考える。そして何とか一つだけ、避けられそうな方法を、光り輝く鑽形攻性防御殻が、五メートル程の間合いまで接近した時、思い付く。
(そうだ、乗矯術なら!)
身体が自由に動かずとも、交魔法発動時は事実上、発動しっ放しになっている乗矯術でなら、移動と回避が可能だろうと考え、朝霞は即座に乗矯術の使用を開始。身体の自由が利かぬ状態で、右に身体が傾いたまま、翼から大量の青い光の粒子群を噴射。
身体に強烈な負荷がかかりながらも、右斜め上に身体を吹っ飛ばす様に移動させ、朝霞は金剛鑽攻の進路から身体をずらす。
(これで、かわせた筈!)
金剛鑽攻をギリギリの間合いで回避出来たと、朝霞は確信する。朝霞は乗矯術の噴射により、金剛鑽攻の進路から身体二つ分程、自分の身体をずらせていたので、そう確信するのも無理は無い。
だが、朝霞の考えは甘かった。回転しながら高速で突進して来るタイソンの身体が、向かって右側に急カーブし始めたのだ。
右側に避けた朝霞を追って、タイソンはコースを変えたのである。




