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昇龍擾乱 59

(弱い方の防御殻! これなら斧で二度斬り付ければ壊せるが、腕がまだ戻り切っていないし……ここは蹴りだ!)

 既に蹴りのモーションに入っていたし、左腕がまだダメージを引き摺っている為、朝霞は斧ではなく、そのまま蹴りで防御殻を迎え撃つ。ヒットした左の後ろ回し蹴りと防御殻は衝突し、甲高い音が響き渡らせるが、防御殻は砕けない。

 そのまま、朝霞は左脚を軸に右回し蹴りを放ち、続けて右脚だけで数発連続の横蹴りを放つ。すると、ダメージが蓄積したのだろう、通用盾の防御殻に亀裂が走り始める。

 更に朝霞は、身体を時計回りに回転させつつ、右の後ろ回し蹴りで防御殻を蹴る。その後ろ回し蹴りにより、防御殻の耐久力は限界を迎えて砕け、ガラス窓が砕け散る様な音を響かせながら、黄色い光の粒子群となって飛び散る。

 通用盾は瞬時に展開出来る以外、これといって特徴の無いシンプルな防御殻。金剛念珠などの強力な防御殻には劣るが、決して弱い防御殻では無い。

 魔術や武器で破壊されるならまだしも、香巴拉の防御魔術が作り出す防御殻を、攻性防御殻などを使わない、蹴り技だけで破壊するというのは、まともな事では無かった。そんなまともでは無い蹴り技を使う者など、この世に一人しか存在しないと認識していたタイソンは、驚きの余り両目を見開く。

 黄色い光の粒子群が舞い散る中、朝霞は更に前に踏み込んで、タイソンとの間合いを詰めると、再び右脚での横蹴りを連続で放つ。上段中段下段と高さに変化をつけた横蹴りが、タイソンに襲い掛かる。

 交魔法を発動させた透破猫之神の蹴りは、無影脚には及ばないものの、常人に見切れる速さでは無い。しかも、威力だけなら生身の飛鴻が放つ無影脚と、交魔法の仮面者として放つ朝霞の蹴り技は、同等であった。

 だが、防御殻無しに食らえば、大抵の魔術師を一撃で仕留められる威力の蹴りを、立て続けに食らっても、タイソンに沈む様子は皆無。全身に流す魔力量を一気に増やし、魔力の鎧の防御能力を徹底的に引き上げ、身を守っているからだ。

 八部衆は皆、魔力の鎧を使えるが、八部衆最強の防御能力を誇る夜叉……タイソンの魔力の鎧が持つ防御能力は、他の八部衆を大きく上回る。全身が黄色い光に包まれる程に、大量の魔力を流し込み、魔力の鎧を徹底強化して全身を守れるのは、タイソンだけである(華麗など他の八部衆は、身体の一部だけなら徹底強化が可能)。

 先程の、超高速で突進した上での朝霞の跳び蹴りや、身体ごと吹っ飛ばされた上でのカウンター状態での回し蹴りなどは、魔力の鎧を強化していたとしても、受け切れぬ威力が有ったので、タイソンは相応のダメージを受けた。実は跳び蹴りで両腕の骨に、その後の回し蹴りで肋骨に、それぞれ酷い皹が入っていたのだ。

 治癒魔術で治す暇すら与えられぬ程の連続攻撃を、タイソンは朝霞から受けている最中。故に、苦痛に苛まれてはいるのだが、タイソンはそのまま戦い続けている。

 最初の跳び蹴りと、二発目の回し蹴りと違い、互いに静止した状態で放たれる朝霞の蹴りは、タイソンにとっては魔力の鎧の強化により、耐え切れる威力の範囲内。スピードと全体重を乗せた跳び蹴りや、カウンターの回し蹴り程の威力は無いのである。

 だが、耐え切れる威力の攻撃であっても、数を食らえばダメージは蓄積し、防御殻同様に打ち破られる。それはタイソンも分かっているので、朝霞の蹴りを黙って食らい続けたりはしない。

 タイソンは両掌を祈る様に、胸の前で合わせる。右手を上にして、左右の指先が全て交差する形で、両掌を合わせる密印ムドラー金剛合掌印ヴァジュラ・アンジャリを結んだのだ。

脱鎧トゥオカイ!」

 同時に、タイソンは裂帛れっぱくの叫び声を上げる。すると、全身を流れていた膨大な魔力が、一気にタイソンの身体から周囲に向かって、光り輝く暴風の様に、勢い良く放出される。

 脱鎧……とは、鎧を脱ぐという意味。タイソンは魔力の鎧として利用していた魔力を、全て周囲に放出し、魔力の鎧を脱いだ状態になったのだ。

 ただ放出したのでは無い、勢い良く周囲に魔力を放出する事により、強烈な魔力の衝撃波を発生させたのである。気の代わりに魔力を放って衝撃波を発生させる、魔光寸勁モークォンツンチンと同様の仕組だが、魔光寸勁より広範囲に放たれる為、魔力の消費量が膨大であるにも関わらず、威力は低い。

 威力は低いが、タイソンの全周囲に放たれる為、朝霞ですら近い間合いでは、回避が不可能。蹴りのモーションに入った体勢のまま、黄色く光り輝く魔力の暴風の如き、脱鎧の衝撃波を食らった朝霞は、高飛び込みに失敗して、プールの水面で全身を打ったかの様な衝撃を、全身に受けてしまう。

 苦痛は感じるが、交魔法発動状態の朝霞なら、ダメージを食らう程の威力では無い。それもその筈、魔力の鎧の脱鎧は、敵にダメージを与えるのが目的の技では無いのだから。

(――やばい! 体勢立て直さないと!)

 数メートル吹っ飛ばされながら、朝霞が心の中で焦りの言葉を呟いた様に、朝霞は勢い良く放出された魔力による衝撃波を食らい、吹っ飛ばされた上に体勢を崩してしまった。しかも、周囲を強烈な魔力の奔流が通り抜けた影響で、周囲の空気の流れが乱れ、朝霞の身体は自由に動かず……体勢を立て直せない。

 つまり、朝霞は近接攻撃を強引に打ち切られ、間合いを取られた上、体勢を崩してしまい、僅かの間とはいえ、身体の自由を奪われた状態になってしまったのだ。跳び蹴り以降、猛烈な勢いで攻め続けていた朝霞は、脱鎧により攻撃のターンを奪われ、隙だらけの姿をタイソンに晒す羽目になったのである。

 脱鎧はあくまで、接近戦で追い込まれた際に、敵と間合いを取った上で、身体の自由を一時的に奪うのが目的。攻撃というよりは切り返す為の、タイソン専用の魔武術ベラマギの技。

 朝霞を隙だらけの状態に追い込んだ上で、タイソンは本命の攻撃を放つつもりなのだ。攻撃を放つ為の魔術を発動させる為、タイソンは金剛合掌印を結んだままの両掌を、そのまま胸の琥珀玉に触れさせる。

 光り輝く琥珀玉から、魔力がタイソンの両掌だけでなく、両腕にまで移る。タイソンの両腕は膨大な魔力をチャージし、眩いばかりの黄色い光を放ち始める。


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