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昇龍擾乱 56

 踵落しの衝撃から回復したタイソンは、朝霞の背中から放射される光の粒子の動きを目にして、朝霞が背後に回り込んだのを察した。だが、光の粒子は朝霞の背後に放出される為、タイソンが察した頃には、既に朝霞はタイソンの背後に回り込み終えている。

 煙幕の中でも至近距離に存在し、黄色い光を放つ美翼鳥法の小さな翼は、はっきりとでは無いが、朝霞には視認出来る。左拳で黄色く光る翼を、朝霞は殴りつける。

 左手甲の黒い六芒星から、黒い閃光が放たれ、タイソン……の身体から僅かに離れた翼を、黒い稲妻状の閃光が包み込むが、閃光はすぐに消え去る。奪い取った金剛念珠の魔術式が、美翼鳥法の魔術式の上に上書きされたのだ。

 美翼鳥法の魔術式は、朝霞の狙い通りに異常動作状態となる。翼の光は切れかけた電球の様に明滅し、光の粒子群の放出が止まってしまう。

 重力から身体を解き放ち、空中での推進力を与える美翼鳥法が、事実上機能停止状態となった為、タイソンの身体は重力に逆らい続ける事が出来ない。タイソンは悲鳴を上げながら、煙幕の中を墜落して行く。

 一気に数十メートル落下しながら、タイソンは異常動作中の美翼鳥法を強制解除。魔術式は上書きされたままなので、魔術式を奪われた金剛念珠同様、魔術式が再構築されるまで使用が不可能。

 代わりに荼枳尼法を発動し、落下スピードを抑えて墜落は免れるが、タイソンは煙幕から飛び出してしまう。タイソンと朝霞が戦っていた煙幕は、地上二百メートル程の空中で起爆した煙玉によるものなので、煙幕の下には煙幕が広がっていない空間があるのだ。

 タイソンを追いかけて朝霞も急降下、煙幕から飛び出して来る。朝霞は既に六芒手裏剣を手にしていて、視界に入ったタイソンに向けて、次々と六芒手裏剣を打つ。

 青く煌く六芒手裏剣を、タイソンは飛行速度を上げつつ蛇行して、回避しようとする。だが、スピードは速くとも運動性や機動性が低い荼枳尼法では、襲い来る多数の六芒手裏剣を、完全に回避するのは不可能。

 仕方なしに、タイソンは通用盾を発動して、防御殻を展開。六芒手裏剣自体は防御殻に当たって、陽光に煌きながら次々と砕け散る。

 荼枳尼法は防御殻を展開すると、飛行が不安定化する為、タイソンは六芒手裏剣をまともに回避出来ない。防御殻は次々と六芒手裏剣の直撃を受け続け、崩壊は時間の問題といった状況。

「美翼鳥法無しに、この黒猫相手に空中で戦い続けるのは、分が悪い!」

 この段階に至り、空中戦を続けるのは自分にとって不利だという現実を悟ったタイソンは、忌々しげに言葉を吐き捨てる。そして、防御殻を展開した不安定な飛行のまま、高度を下げるのに専念、フラフラとタイソンは地上へ降下し、荒野に降り立つ。

 タイソンは即座に荼枳尼法だけでなく、通用盾を解除。空から襲い来る六芒手裏剣を、地を駆けて身軽なフットワークで、全て回避する。

 見た目の印象と違い、タイソンの動きは素早く身が軽い。運動性の低い荼枳尼法で飛ぶよりも、地上でフットワークを駆使する方が、タイソンとしては六芒手裏剣をかわし易いのだ。

 しかも、タイソンは地を駈けながら、上空を飛ぶ朝霞に向けて、黄色い光線による攻撃を放ち始める。黄殲洪流の様に、太く強烈な光線では無い。

 タイソンが両手の人差し指と親指で輪を作り、伸ばした中指や薬指の先端を眉間で重ねると、身体を巡っていた魔力の一部が眉間に集中し、黄色い光を放ちはちめる。その光が細く鋭い黄色の光線となって、空中にいる朝霞に伸びて行くのだ。

 琥珀玉に触れて魔力を移す段階を踏まず、身体に流している魔力の一部を使い、眉間から放つタイソンの光線魔術アムスジャーラの一つ、三只眼光槍サンジイェンクァンシァン。発射の際、額に第三の目……三只眼サンジイェンが現れる様に見え、槍の如く敵を穿つ、細く鋭い光線を放つ事から、この名がついた。

 発射前後の隙が殆ど無く、魔力の消費量が少ない為、連射も可能。ただし属性を与えたりは出来ず、敵を貫くだけのシンプルな光線魔術で、対空攻撃や牽制に使う場合が多い。

 乗矯術による空戦経験こそ浅いのだが、高速高機動戦闘に関しては群を抜く才を発揮しつつある朝霞は、昨日の飛鴻戦とは段違いの空中戦を、タイソン相手に行えている。飛行が可能である高度な魔術師ですら、大抵は食らってしまうだろう、地上から次々と伸びて来る黄色い光線を、空中で様々な飛行軌道を描いて、見事にかわし続けている。

 ただし、細かい回避運動を行いながら、六芒手裏剣による反撃をする余裕は、流石に無い。かわしながら逃げ回るのが、せいぜいと言ったところ。

 逃げるにしても、この場を離れて逃げ去る訳にもいかない。この場から朝霞が逃げれば、タイソンはイダテンを追い、遠距離からでも強力な光線魔術により、神流や幸手に攻撃を仕掛ける事が出来るのだから。


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