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昇龍擾乱 55

 そんな八部衆の魔術師としての「核」とも言える法輪に、朝霞は左腕を伸ばし、法輪を内包する琥珀玉を、がっしりと左手で掴む。

(魔術機構なら、中の魔術式を上書きして、異常動作を引き起こせる筈!)

 そう考えたのだが、与える黒が上手く作動しない。理由は朝霞にもすぐに分かった、煙幕のせいで上書きする対象の魔術式を、選べないせいだ。

 左手で触れた物に、一つしか魔術式が無いのなら、与える黒は朝霞が選ばずとも、勝手に上書きする事が出来る。だが、複数の魔術式が存在する場合、奪う場合と同様、朝霞は選んで上書きしなければならない。

 だが、今は煙幕のせいで法輪を構成する魔術式が見れず、魔術式が選べない為、上書きは不可能。金剛念珠から魔術式を奪った際の様に、琥珀玉に顔を密着させれば、法輪の魔術式が見えるかもしれないが、胸に顔を寄せて魔術式を選ぶ朝霞を、タイソンが放置する訳も無い。

 琥珀玉を握った朝霞の左手を、タイソンは右手で掴みつつ、朝霞の左手の隙間から、左手で琥珀玉に軽く触れ、黄色い光を左拳に移す。そして、光り輝く左掌で内側に捻り込む様に、タイソンは掌底打ちを放つ。

 掌底打ち自体は、四華州の武術における寸勁ツンチンという、至近距離の相手に身体の捻りを利用して、強力な打撃を打ち込む技の動き。瀛州読みでは、寸勁すんけいとなる。

 手錬となれば、打撃のタイミングで掌から「気」を放ち、強烈な衝撃波を発生させ、威力の大幅な上乗せが可能。そんな寸勁を、気の代わりに魔力を放つ衝撃波で、威力を大幅に上乗せしたのが、タイソンの放った魔光寸勁モークォンツンチン、香巴拉の魔術というよりは、功夫服姿から分かる通り、四華州の武術に通じたタイソン独自の技だ。

 至近距離である上、魔力の光を発しているせいで、朝霞にはタイソンの魔光寸勁が見える。だが、左腕をつかまれている状態なので、朝霞は魔光寸勁を回避し辛い。

 故に、かわさずに瞬時に右脚で上段蹴りを放ち、タイソンの左腕と交差させ、魔光寸勁のコースを逸らす。突風が吹きぬける様な音と共に、タイソンの左掌から放たれた黄色く光る魔力の奔流が、朝霞の頭の右側を掠める。

 掠めただけなのに、右頬をパンチで殴られたのと同等の痛みを、朝霞は感じる。

(掠めただけで? 当たり所によっちゃ、一発で沈むぞこれ!)

 自覚が無いまま、魔力の奔流が掠めるだろう頭部に、朝霞は気を集めていた。つまり、気の鎧……というよりは、神流の気甲に近い防御を行っていたので、朝霞は痛みを感じはしたが、ダメージを受けはしなかったのだ。

 交魔法により、透破猫之神の紙装甲状態は改善され、並の仮面者以上の防御力を得た。それでも気の鎧による防御を行っていなければ、魔光寸勁が掠めただけでも、かなりのダメージを受けていた可能性はあった程度に、魔光寸勁の威力は高い。

 まだ光の残るタイソンの左掌が、タイソンの元に戻って行く。再度魔光寸勁を放つ為に、左手を琥珀玉に触れさせようとしているのである。

(あんな物騒な技、二度も打たせるかよ!)

 朝霞は魔光寸勁を逸らす為に蹴り上げた右脚を、そのまま大雑把にタイソンに向けて、振り下ろす。いわゆるかかと落しを、強引な形で放ったのだ。

 蹴り技の連携は素早く、タイソンは対処出来ずに頭に食らう。タイソンが踵落しを食らったのは、光を放たない只の蹴り技であった上、煙幕に遮られて見辛かったせいでもある。

 タイソンは苦しげな呻き声を上げつつ、頭部に食らった衝撃のせいで、朝霞の左腕を離してしまう。並の人間どころか仮面者ですら、一撃で仕留められる程度に、交魔法を発動している透破猫之神の蹴り技の威力は高いのだが、警戒して魔力の鎧を強化していたタイソンは、即座に体勢を立て直せる程度のダメージしか受けなかった。

(防御殻無しでも、えらい防御力が高いな、こいつ。姫の気甲きこうと、似た感じがするが……華武服着てたし、四華州の武術か何かか?)

 頭部への踵落しがヒットした手応えが、気甲を使った神流に打撃をヒットさせた際の手応えに似ている気がした朝霞の頭に、そんな疑問が浮かぶが、その疑問について考える暇など無い。左腕の自由と共に移動の自由を取り戻した朝霞は、光を放つタイソンの背後に、瞬時に回り込む。

 与える黒での法輪への攻撃は困難、至近距離での打撃技でも沈まないタイソンに、どう対処すべきか朝霞は考えた。結果、とりあえず光を放っていて狙い易く、琥珀玉や法輪程には、ガードが固め難いだろう美翼鳥法の翼に、朝霞は狙いを定める事にしたのだ。

(こいつは今、乗矯術に似た魔術を使ってる。乗矯術の翼の中には、魔術式の一部が含まれているから、こいつの翼にも魔術式がある可能性は高い!)

 朝霞が仮面者では無い時、乗矯術を発動する際と同様に、身体から少しだけ離れた、黄色く光る小さな翼が、タイソンの背中に存在したのを、朝霞は視認している。光の粒子を放出して飛ぶのも、乗矯術と美翼鳥法は同じ。

(だったら、与える黒で異常動作させられる筈!)

 そう考えたので、朝霞はタイソンの背後に回り込んだのである。斧で斬りかかる選択肢もあったのだが、飛行能力を異常動作させてからの方が、斧による斬撃もやり易いと、朝霞は考えた。


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