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昇龍擾乱 53

(煙幕を逆に利用されるとは……これ以上の煙玉の使用は、避けるべきか?)

 二撃目を防げなかった事に自責の念を感じ、悔しさを覚えた朝霞は、心の中で自問する。光線の方向と射角から、初撃同様に二撃目で仲間がやられないだろうとは思いつつ、三撃目を防ぐ為の行動を開始。

 朝霞は光線が放たれた辺りに向け、大量の六芒手裏剣を打つ。陽光に青く煌きながら、数十の六芒手裏剣が流星雨の様に、灰色の煙幕の中に突入して行く。

 今回は光線の発射後、朝霞が瞬時に六芒手裏剣を放った為、タイソンは光線を放ち終えた直後から、移動を開始してはいたのだが、遠くまで移動するだけの余裕が無かった。しかも、黄殲洪流という強力な光線を放つ前後には、僅かではあるが強力な魔術を使えない「隙」が発生する為、タイソンは金剛念珠も展開出来ない状態。

 その僅かな隙に、朝霞の放った大量の六芒手裏剣が、煙幕の中にいるタイソンに、襲い掛かって来たのだ。無論、六芒手裏剣は広範囲に放たれていた為、全てが当たる訳ではないが、三発がタイソンの身体を直撃した。

 タイソンは苦痛に悲鳴を上げそうになるが、唇を噛み締めて悲鳴をを押し殺す。悲鳴を上げてしまえば、朝霞に自分の正確な位置を、知られてしまうだろうから、それを避ける為に。

 高度な魔術師からすれば、威力が「低い」と判断される六芒手裏剣であっても、並の聖盗の刀剣攻撃同等の攻撃力はあるので、防御殻を展開していない生身で食らえば、普通の人間なら即死するレベルのダメージを受ける。それでも、タイソンが苦痛を感じる程度で、大した身体的ダメージを受けてはいないのは、戦闘時……常に大量の魔力を体中に巡らせ、魔力の鎧による防御を行っているからだ。

 タイソンの防御能力は八部衆最強であり、魔力の鎧による防御能力も、他の八部衆を大きく上回る。他の八部衆なら、銃弾程度の威力は防げても、六芒手裏剣を通常レベルの魔力の鎧だけでは、防ぎ切れなかっただろう(膨大な魔力を意識的に巡らせ、魔力の鎧の防御能力を、一時的に徹底強化すれば防ぎ切れた。黒化爆弾から頭部などを守った時の、華麗の様に)。

 ただ、魔力の鎧による防御では、苦痛は消せないので、タイソンは身体に三発、鋼鉄の球を投げ付けられたかの様な衝撃と苦痛を味わう羽目になった。故に、悲鳴を上げそうになった訳である。

 僅かな隙は終り、即座に金剛念珠を展開して身を守ったタイソンに、数発の六芒手裏剣が襲い掛かる。その殆どは金剛念珠を直撃して砕け散るが、一発だけ金剛念珠と緩い角度で当たったせいか、砕け散る事無く弾かれただけの六芒手裏剣があった。

 金剛念珠に弾かれた六芒手裏剣は、軌道を変えて飛び去って行き、煙幕の中から飛び出す。

(何であんな所から六芒手裏剣が? コースは変えていない筈なのに?)

 自分が放った方向とは、違う方向に向かって飛んで行く、一発の六芒手裏剣に気付き、朝霞は自問する。ある程度思念で飛行コースを操作出来る六芒手裏剣なので、投げた際と軌道が変わる事は有るのだが、朝霞はコースを変えていなかった。

 自問に対する答を、朝霞は瞬時に頭の中で導き出す。

(夜叉の防御殻に弾かれて、コースが変わったんだ!)

 自分が放った六芒手裏剣が、弾かれたと思う位置を、朝霞は即座に頭の中で計算。更に、それを二撃目の光線の射線と比べ、タイソンの移動速度と現在位置を、朝霞は瞬時に割り出してしまう。

(三撃目は撃たせない!)

 朝霞は即座に、忍合切から取り出した大量の手裏剣を、煙幕の中の……おそらくはタイソンがいると読んだ辺りに打ちながら、自らも急降下して突撃を開始。獲物を狙う猛禽類の様に、灰色の煙幕の中に突っ込んで行く。

 無論、煙幕の中では、朝霞も何も見えないのだが、音は聞こえる。そして、急降下する前に放った、朝霞に先行する六芒手裏剣の幾つかが、何かに衝突して砕け散った音が、朝霞の耳に届く。

 遠く離れた上空にいた時には聞こえなかった、ガラスの砕ける様な高音だが、自ら煙幕の中に突入し、六芒手裏剣の近くにいる今の朝霞には、六芒手裏剣の砕け散る音が聞こえるのだ。朝霞から見て、右斜め下の方向から。

(そこだッ!)

 急激に減速しつつ、音が聞こえた方向……つまり金剛念珠を展開しているタイソンがいる方向に、朝霞は進路を強引に変える。だが、減速が間に合わずに止まり切れなかった朝霞は、金剛念珠に体当たりする形で衝突、全身の骨が軋む程の衝撃を身体に受ける。

 透破猫之神の仮面が、金剛念珠の表面に押し付けられる。

(これは、琥珀玉に似た夜叉の防御殻! このレベルの防御殻なら、魔術式が有る筈!)

 朝霞は金剛念珠の魔術式を、見ようとする。ほぼゼロ距離と言える状態なので煙幕に妨げられはしないし、魔術式は闇の中でも魔術師には見えるので、殆ど光が届かない煙幕の中にいても、朝霞には金剛念珠の魔術式が視認出来る。

 レベルの低い防御殻は、魔術式など持たないのだが、高度な防御能力を持つレベルの高い防御殻は、防御殻自体にも魔術式が組み込まれている。絶対防御能力などの特殊な機能を発揮する為に、それは必要不可欠な事なのだ。

 通常なら、それは特に問題になったりはしないが、何事にも例外は存在する。奪う蒼により魔術式自体を奪い取ってしまえる、透破猫之神となっている朝霞と、接近戦を行う状況のみが、現時点では唯一の例外と言える。


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