表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
230/344

昇龍擾乱 50

「何がどうなってるのか分からないけど、派手に戦ってやがんな」

 遠ざかって行く巨大な半球を眺めながら、朝霞は呟く。ハノイに向かって飛びながら、後ろを振り返り、朝霞は様子を確認しているのだ。

 巨大な半球とは、誑惑絶佳が作り出す、半径一キロ程の巨大な幻影が展開されている空間。誑惑絶佳の外からは、誑惑絶佳の有効範囲は、華麗が誑惑絶佳を発動した辺りを中心とした、巨大な球形の空間に見える。

 華麗は地上で誑惑絶佳を発動した為、球体の半分は地中に埋まっているので、半球に見えるのだ。誑惑絶佳が作り出す球形の空間の外見には、内部の幻影の色が反映される為、朝霞の目に映るドームの色は、青空や青い海……浅瀬のエメラルド色などが混ざり合った、青を中心とした色合いだ。

 美しくも青い半球から、攻撃魔術であろう光線や光弾などが、頻繁に飛び出して来るので、半球の中で激しい魔術戦闘が行われているのは、遠ざかりながら後方を振り返っている朝霞にも分かる。

「――あれは?」

 後方を見ていた朝霞の目が、高速で迫り来る何かを捉える。イダテンに合わせて、スピードを落として飛んでいる朝霞よりも、遥かに速いスピードで飛んで来る人影だ。

 その人影の一部が、黄色い光を放っているのに気付き、朝霞は人影の正体を察する。

「琥珀玉の光……夜叉だ!」

 朝霞は声を上げ、仲間に夜叉……タイソンの追撃を知らせる。

「速い……イダテンのスピードじゃ、逃げ切るのは無理だな……」

 高速で迫り来るタイソンを見ながら、苦々しげに呟いた朝霞に、神流が問いかける。

「どうする? 二人がかりで迎撃するか?」

 朝霞は思考を巡らせ、どうするべきか考える。神流と自分で迎撃するか、それとも一時的に逃げるのを止めて、幸手も含めて三人で迎撃するか……などと考えを巡らせる。

 その上で、神流と自分で迎撃する選択肢と、三人で迎撃する選択肢を、朝霞は即座に捨てる。

「――いや、俺一人でやる! 姫は巫女から離れないでくれ!」

「一人で? 馬鹿言うな!」

 神流は強い口調で、朝霞に反論する。

「交魔法を習得しても、数倍……下手すれば数十倍の数でかからなければ、八部衆には勝てないって、ナイルさんも言ってたんだろ!」

「その通りだ、俺と姫で二人がかりどころか、巫女と三人がかりでも、八部衆の夜叉には勝てない可能性が高い」

「だったら、何でお前一人で?」

「勝つ必要は無い! 俺一人で夜叉を撹乱して、追跡の妨害に専念するだけだ! 勝つのは無理としても、その程度なら何とかなる!」

 一人で戦って勝つのは無理としても、交魔法により得た煙玉とスピードの速さを駆使すれば、夜叉を撹乱して追撃を妨害する程度の事は可能だろうと、朝霞は考えたのである。

「それに、相手は三人……残りの二人はアナテマが相手しているんだろうが、いつ蒼玉の星牢を奪いに来ても、おかしくは無い! そんな状況で、姫を一人には出来ないだろ!」

 イダテンが牽引するトレーラーに載せられた、蒼玉が詰まった星牢を見下ろしながら、朝霞は強い口調で言葉を続ける。

「三千人だ! 美里だけじゃない、お前や巫女の家族の命も、含まれてるかも知れない三千人分の命、間違っても八部衆に奪われる訳には行かない! 運びながらだと、姫はまともに戦えないだろうから、誰かが護衛についていないと駄目だし、護衛につくなら強い方……つまり、お前の方が良い!!」

 絵里について触れた朝霞の言葉を聞いて、昨夜……朝霞が言った言葉が、神流の頭に甦る。

「――ひょっとしたら、あの蒼玉の中に妹の蒼玉が含まれているせいで、そんな懐かしさを……俺は感じたのかもしれなと思ってさ」

 星牢の中にある蒼玉に、妹の絵里の物が含まれている可能性が高いと、朝霞が考えているのを、神流は思い出した。故に、相当に危険な状況に自分が追い込まれるのが分かっていても、朝霞は三千の蒼玉に防御を付けた上で、追っ手から逃がす方を優先するだろうと、神流は考える。

「撹乱に専念した上で、お前らが逃げ遂せられる様なら、その時点で俺は逃げに徹する! 夜叉は俺より飛行速度が遅いみたいだから、俺が逃げに徹すれば逃げ切れる!」

 タイソンが自分より遅いと、朝霞が判断したのは、迫り来るタイソンの飛行スピードが、自分の飛行スピードよりも遅かったからだ。わざわざ最高速度を出さずに追撃する訳も無いので、自分が見たタイソンの飛行速度は、最高速度に近いレベルだろうと、朝霞は考えたのである。

 朝霞の推測は外れておらず、タイソンは最高速度に近いレベルのスピードで飛んでいた。ただし、それは朝霞がタイソンから確実に逃げ切れる事を、意味してはいないのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ