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昇龍擾乱 48

「矢張り、あの程度で倒せる程、楽な相手では無いか……」

 華麗を見下ろしながら、バズは呟く。そして、周囲を見回して状況を確認、空中戦を続けているポワカと麗華や、海の幻影から逃れる為に、一時的に上昇していたアパッチ達が、再び地上に降りて、狙撃ポイントに移動しているのを視認。

 一見、アナテマ側が有利に戦いを進めている風に見えるが、バズの表情に余裕は無い。まだ相手が本気を出していないのを、バズは知っているからだ。

 華麗は美翼鳥法を発動すると、藍色に輝く光の翼を背中から生やし、光の粒子を放射しながら宙に舞う。そして、バズの正面方向……二十メートル程の間合いを取った辺りで静止し、華麗は気楽な口調でバズに話しかける。

「――雑魚を引き連れてるとはいえ、実質的には一対一の戦いで、僕等にこれ程のダメージを与えられる人間がいるとは、思って無かったよ」

 雑魚とは無論、アパッチ達の事。

「それだけの戦闘能力、アナテマでもトップクラスの魔術師の筈。アナテマの至高魔術師ケルサスって奴なんだろうが、君等程の強さとなると、序列は当然……上位だよね?」

 空中静止したまま、再生したばかりの左腕や両脚を、ストレッチでもするかの様に動かしながらの、華麗の問いかけ。

「どうだったかねぇ? 歳を取ると物忘れが激しくなるから、自分が至高魔術師だったのかすら、良くは覚えていないんじゃよ」

 いきなり年寄り染みた口調で、バズは惚けてみせるが、その周囲には黒煙が漂っている。既に煙水晶粒を魔力に変換し、何時でも魔術を使える状態にしてあるのだ。

 そんなバスの様子を見て、華麗は苦笑いしつつ、言葉を吐き捨てる。

「僅かであっても、僕等に情報を与えたくないから、惚けるってとこかな? 油断のならないジジイだ」

 華麗やバズが口にした、至高魔術師というのは、アナテマに属する魔術師の中で、トップクラスの魔術的能力を持つ者達の事である。アナテマに限らず、煙水晶界における魔術師の頂点に立つ者達といえるのだが、その総数は十三名であり、惚けて見せたバズも、華麗の推測通り、その十三名に含まれる。

 至高魔術師はアナテマにおいて、魔術師としての能力が高いとされる者から順に任じられ、それぞれが一から十三までの序列としての数字を持つ。至高魔術師は皆、アナテマの幹部と言える存在なのだが、あくまで魔術師としての能力の序列であり、序列がそのままアナテマ内での地位の上下になる訳では無い。

 例えば、ポワカは序列二位のⅡ(セクンド)であり、バズは四位のⅣ(クアルトゥス)と、至高魔術師としての序列ではポワカが上。だが、多くの部下を従え、アナテマの作戦立案や指揮を行う場合が多いバズの方が、余り部下を持たず、自由行動する場合が多いポワカよりも階級は上であり、アナテマにおける最大勢力のトップといえる存在だ。

 アパッチの開発に協力したり、今回の作戦にも実戦要員として参加したりと、ポワカはバズの指揮下で動く場合も多い。ただし、人に上下など無いという信条から、ポワカのバズに対する態度は、上官に対するものとは程遠いのだが。

 バズやポワカは自分達が至高魔術師だと、華麗達に名乗った訳では無い。だが、バズやポワカの魔術的能力を見れば、二人が至高魔術師であると、華麗達には容易に察せられる。

「ま、とにかく……僕等は少しばかり、君等を舐め過ぎていたみたいだ」

 華麗は両手を胸の前で組み、人差し指と中指を立てた上で、中指を人差し指に引っ掛ける。香巴拉式や仙術……陰陽術など、主に東洋系の魔術において、手や指を特定の形に組み合わせる行為が、魔術の発動手続きに組み込まれている場合がある(飛鴻が使う死相算命も、その一種)。

 香巴拉式においては、そういった手や指の組み合わせは、密印ムドラーと呼ばれている。手や指を組んで密印を作り出す事を、密印を結ぶと表現する。

 華麗が密印を結ぶと、瑠璃玉が眩いばかりの、強烈な光を放ち始める。これまでの藍色の光では無く、金色の光を。

「本気出すつもりは無かったんだけど、手を抜いていると……さっきみたいに、うっかり危ない目に遭ったりする可能性もあるから……」

 そう言いながら、華麗は結んだ密印を解く。すると、金色の光を放つ瑠璃玉の中から、光と同じ色をした短い棒状の物体が、迫り出して来る。

「ちょっとだけ本気出しちゃう事にするよ」

 華麗は左手で、その迫り出して来た物体の中央部分を掴むと、瑠璃玉の中から引っ張り出す。物体が完全に瑠璃玉から離れると同時に、瑠璃玉は金色の光の放射を止める。


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