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昇龍擾乱 44

 バズは杖を思念操作し、発動させた魔術により、杖の先端に黒い球体を作り出す。ストローの先からシャボン玉が現れる様に、杖の先端に現れた黒い球体は、バズの身体と大差無い程に大きく、その表面にはエリシオン魔術文字による、複雑怪奇な純魔術式が大量に記されている。

 藍色の光線が発射されている辺りに、大雑把に狙いを定めると、バズは黒い球体を発射。耳障りな高周波音を響かせつつ、巨大な大砲の砲弾の様に、黒い球体は幻影の海中へと飛び込み、派手な幻影の水飛沫を上げる。

 狙った辺りである本物の地面近くに、黒い球体が辿りついた頃合、バズは鋭い声を上げる。

「渦巻け! 過重力渦ヒィペル・グラヴィティ・ヴォルテクス!」

 バズの声に応え、黒い球体の表面に記されていた魔術式が消え失せる。直後、黒い球体は時計回りに回転を開始。

 ただ回転するだけでは無い、周囲に存在する全てを引き寄せながらの回転。回転する黒い球体の高重力に引き付けられて、周囲の空気が渦巻き始め、地表の岩や砂礫などが渦巻きに巻き込まれながら、黒い球体に引き寄せられる。

 人間や物が飛び込んだ際などに、幻影の海面が水飛沫を立てる事から分かる通り、誑惑絶佳が作り出す幻影は、物理現象に反応する。当然、海の幻影は高重力で回転する黒い球体に反応し、その姿を変えて行く。

 その姿は黒い球体を中心とした、半径百メートル程の巨大な渦潮、もしくは海水で出来た、巨大なすり鉢状の蟻地獄と言った風。高重力に捕らわれた物や人間は、巨大な渦巻きから逃れられず、黒い球体に引き寄せられてしまう。

 重力弾とは比較にならない高重力を発生させつつ回転し、巨大な重力の渦を作り出す黒い球体……渦動重力弾ヴォルテクス・グラヴィタティス・ボンブスを放つ、エリシオン式の魔術が過重力渦。術者の命令により渦動重力弾は起爆、高重力を発生させつつ回転を開始、有効範囲である半径百メートル程の全方位に存在する敵を、行動不能に追い込める魔術だ。

 過重力渦の高重力自体も、巻き込まれた人間に相当なダメージを与える事が出来るが、戦闘要員としての訓練を積んだ、耐久能力の高い魔術師や香巴拉の八部衆などに、大きなダメージを与えられたりはしない。だが、高重力に耐え切れる者達ですら、過重力渦に巻き込まれてしまえば、重力の渦から逃れるどころか、まともに行動する事すら不可能になる。

 誑惑絶佳の海の幻影に姿を隠しながら、ポワカを藍双射撃で狙撃していた麗華も、その例外では無い。渦動重力弾が起爆した辺りから、二十メートル程離れた地点に立っていた華麗は、過重力渦に捕えられた。

 高重力攻撃を受けている為、姿を隠せぬまま蟻地獄に捕らわれた蟻の如く、華麗は渦動重力弾の周囲を回りながら、引き寄せられて行く。脚力で踏み止まるのは不可能と判断し、華麗は即座に出力と速度に優れた飛行魔術……荼枳尼法を発動し、強烈な風を周囲に発生させつつ、飛び去ろうと試みる。

 だが、強力な推進力を持つ荼枳尼法であっても、過重力渦から逃れるのは不可能。あれよあれよという間に、華麗は重力の渦の中心付近に引き摺り込まれ、動きを封じられてしまう。

 過重力渦は広範囲の敵の動きを、一気に封じられる強力な魔術だが、過重力渦を発生させる渦動重力弾は発射するまで、一分前後の時間がかかる魔術。故に、敵に大きな隙が無ければ、使う事は出来ない。

 麗華と華麗が二人共ポワカに引き付けられ、自分から注意が逸れた大きな隙を突けたからこそ、バズは過重力渦を作り出し、華麗の動きを封じられたのだ。無論、過重力渦による重力攻撃だけで、華麗を倒せる訳では無い、過重力渦はあくまでも動きを封じる為の、次なる攻撃への布石。

 バズは過重力渦の有効範囲ギリギリまで飛んで近付き、杖を過重力渦に向け、思念操作を開始。杖の表面にはエリシオン魔術文字による魔術式が表示され、杖の先端の煙水晶粒が消滅、大量の黒煙を発生させながら杖に魔力をチャージ。

 次々と杖の先端に迫り出して来る煙水晶粒を消耗しつつ、バズは魔力のチャージを三度繰り返してから、魔術を即座に発動。発動させた魔術は、杖の前方二メートル程の辺り……過重力渦の有効範囲内に、緑色の球体を出現させる。

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