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昇龍擾乱 41

「頭か法輪、そのどちらかを潰さなけりゃ、八部衆は倒せはせん。腕の一本、脚の一本……落としたくらいで、勝機だなどと思うなよ」

 ポワカは良く、バズがそう話すのを耳にしていた。先程、八部衆が黒猫団や蒼玉の行方について話していた時、ポワカとバズも色々と話し合っていたのだが、その時にもバズは同じ事を口にしていた。

 四肢の一部を失った程度、膨大な魔力を残した八部衆にとっては、危機でも何でも無いのだ。たかが片腕を斬り落とした程度で、一気に勝負を畳み掛けようとしても、魔力を大量に消耗するだけで徒労に終るという、八部衆に関する情報を思い出し、ポワカの迷いは消えた。

 攻撃を待ち、麗華が姿を現した辺りを狙い、攻撃を仕掛けるという判断を固めたポワカは、身体の上下の向きを逆にしてから、周囲を見回し警戒する。

 目に映る景色は、頭上に地面……眼下には青空と、誑惑絶佳に惑わされているポワカからすると、違和感だらけ。それでも、目に映る景色よりは現実の上下に、身体の向きを合わせておいた方が良いと、考えたが故である。果てし無き青空に見えても、その方向には果てである、衝突したら危険な地面が有るのだから。

 そんなポワカに、攻撃は再び……死角から襲い掛かって来た。今回は背面からでは無く真上から、緑色に光り輝く、人間の頭程の大きさがある光球が飛来したのだ。

 華麗の放った藍双射撃を上回る強さの光だが、光線では無く光球。光線として放つエネルギーを圧縮した光球を、敵に放つ光線魔術の一種である(光線ではないが、魔術の分類上は同じカテゴリー)。

 光球として圧縮する際、何らかの効果が付加されるので、発射するまでの隙は大きいが、威力は藍双射撃を遥かに上回る。ただ、威力以上に厄介な能力を、麗華が放った光球は持っていた。

 頭上から迫り来る緑色の光を視認したポワカは、即座に回避運動を取る。一気に二十メートル程程、右側に飛び退くという感じで。

 だが、そこでポワカには驚くべき事が起こる。光球はいきなり進行方向を変え、飛び退いたポワカを追いかけて来たのだ。

「――自動、追尾!」

 目を見開き、ポワカは驚きの声を上げる。麗華の放った光球は、ポワカは自動追尾という言葉で表現したが、正確には自動追尾能力がある訳では無く、放った麗華が進行方向を、操作出来る能力があるのだ。

 麗華の操作により、追尾してくる光球を避け切れず、ポワカは光球に直撃されそうになるが、寸前で一枚のワパハが自動防御を開始、瞬時にポワカと光球の間に割り込む。直後、光球はワパハに衝突して起爆、耳を劈くばかりの爆音と共に、空に緑色に輝く大輪の花を咲かせる。

 ワパハは粉微塵となるが、絶対防御能力を発動し、爆発エネルギーや衝撃波など、ポワカに襲い掛かりダメージを与え得る全ての物を巻き込んだ上で、完全に消滅する。故に、ダメージを負わずに済んだポワカは、すぐに頭上を見上げて、麗華の姿を探す。

 攻撃が終了した直後なので、姿を消しつつあるとはいえ、まだ麗華の姿をポワカは視認出来た。ポワカの頭上二百メートル程に、右手の先をポワカの方に向けて突き出し、左手で右腕を支える姿勢で、海の幻影を背後に下を向いている麗華の姿を、ポワカは視界に捉えた。

 操翠光弾カオツィクァンダンという光線魔術により、ビルを吹き飛ばせるレベルの爆弾並の爆発効果を付加された光球を、麗華は右腕で放っていた。ほんの少し前にポワカが斬り落とした筈の右腕は、何事も無かったかの様に再生していたのだ。

 正確に言えば、麗華の胸の翠玉は一割程縮んでいるので、何事も無かったという訳では無いが、ポワカの距離からでは翠玉のサイズまでは視認し辛い。姿を消していた短い時間の間に、麗華は治癒魔術を発動し、一気に失った右腕を再生したのである。

 あっさりと右腕を再生した麗華の姿を目にして、ポワカは思い知る。「腕の一本、脚の一本……落としたくらいで、勝機だなどと思うなよ」というバズの言葉は、紛れもない真実なのだと。

 麗華が姿を消していたのは、一分程度の短い時間。ソロモン式と香巴拉式を除いた魔術流派においては、頂点といえるレベルの魔術師達が集められているアナテマにすら、そんな短時間で、腕や脚を再生出来る魔術師など存在しない。

 常軌を逸した量の記憶結晶粒に加え、長期間の継続的な施術が必要となるので、生命の危機に関わらない限り、四肢を失った場合はアナテマにおいても、義肢や義腕で対応するのが普通なのだ。

「この再生能力、厄介……」

 ポワカが麗華を見上げながら、苦々しげに呟いた直後、麗華は完全に姿を消したのだが、同時に青空……に見える陸上の、数百メートル離れた辺りから、一斉に火線が上がり始める。数百条の赤い光線が空に向かって伸び、麗華が姿を消した辺りに殺到し始めたのだ。

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