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昇龍擾乱 38

 八部衆は通常の香巴拉式の魔術に加え、他の者には使えない固有の魔術的能力を、過去の八部衆から受け継いでいる。緊那羅となった麗華の歌舞天恵や、摩睺羅伽となった華麗の誑惑絶佳の様に。

 誑惑絶佳とは、個人で扱える魔術としては最高といえるレベルの、幻術系魔術である。「誑惑」とは惑わしたぶらかす事であり、「絶佳」とは素晴らしく美しい風景という意味。

 華麗は誑惑絶佳により、最大で半径一キロ程の範囲の景色を、幻影により完全に作り変えてしまう。有効範囲に捉われた人間の五感は騙され、華麗が作り出した幻影を、現実の光景としか感じられなるのだ。

 現実の光景が見えなくなるだけでなく、華麗は幻影による景色の角度や方向を、現実とずらす事が出来る。故に、誑惑絶佳に捉われた人間は、自分が現在……現実の光景でいえば、何処にいるのか……どちらを向いているのかすら分かり難く、まともに行動する事すら難しくなる。

 しかも、術者本人や術者が望んだ者は、誑惑絶佳の幻覚と無縁でいられる上、幻覚の中にいる者達から、知覚出来ない様に出来るのだ。今回で言えば、術者である華麗や、華麗が望んだ麗華は、幻覚に惑わされる事は無いし、幻覚の中にいるポワカやバズ……アパッチ達は、華麗や麗華を知覚出来なくなってしまうのである。

 バズの視界から、華麗と麗華が姿を消したのは、単に知覚出来なくなっただけだった。麗華は即座に飛行魔術を発動して、ポワカの後を追って宙に舞ったが、華麗は地上を移動し、バズの背後に回り込んでいた。

 姿を消しているのに、わざわざ背後に回り込んだのは、誑惑絶佳も多くの幻術系魔術と、同様の欠点を持ち合わせているが故。幻術系魔術を使って姿を消している者は、攻撃を放った時や受けた時だけは、姿を消せなくなるというのが、その欠点。

 つまり、バズの視界となる範囲から攻撃を放てば、その瞬間に華麗は姿を現し、バズに攻撃を察知されてしまう。それを避ける為、華麗は視界の外……つまり死角から攻撃を放ち、放った後は再び姿を消してしまうのである……先程の様に。

 ちなみに、華麗の放った光線は、光線魔術アムスジャーラと総称される香巴拉式の魔術。特定の腕の動きの組み合わせで発動し、主に腕から光線を放って敵を攻撃する魔術で、光線の名は使用者である八部衆が、自分で好きに命名する慣わしとなっている。

 故に、同じ名を受け継ぐ八部衆が使う同種の光線魔術であっても、使用者により光線魔術の名は異なる。先程、華麗が放った光線魔術は、摩睺羅伽が代々、得意とする種類の光線魔術なのだが、華麗が命名した名は藍双射撃ランシュアンシュージ、藍色の光線を双腕から放ち、敵を射って敵を撃つという意味合いの、四華州風のネーミングだ。

 超高温や極低温による熱攻撃効果、電撃効果や爆破効果など、様々な効果が付加されている光線魔術もあが、藍双射撃は特に効果が付加されている訳では無い。魔力を変換して作り出した、青く極小の粒子群を収束し、超高速で撃ち出す事により、対象物を衝撃で破壊する、シンプルな光線魔術。

 効果が加えられていない光線は、発射前後の隙が小さく、藍双射撃は二発同時に撃てるにも関わらず、隙は小さい(光線それ自体は「条」で数え、光線を撃つ行為自体は「発」で数えています)。今回は威力を優先し、二条の光線を赤色惑星に集中して撃ったが、威力は半分に落ちるけれど、二つの目標を個別に狙って撃つ事も、藍双射撃は可能。

 そんな藍双射撃による華麗の攻撃に、苦戦しているバズを見ていたポワカとしては、バズを助けに行きたい所なのだが、そういう訳には行かない。姿を消している麗華の方が、自分を狙って来るのは確実、麗華に対処しなければならないポワカに、バズを助ける余裕は無い。

 ポワカの視界で、バズが赤色惑星を再展開した直後、二百メートル程の高さの空中にいるポワカの背後に、麗華が姿を現す。姿を消した後、飛行魔術を発動してポワカを追跡し、攻撃を放つタイミングを見計らっていた麗華は、華麗同様に敵の背後から、攻撃を仕掛けようとしているのだ。

 攻撃を放つ段階に入った為、姿を現した麗華の背には、翠玉が放っている光と同じ、緑色に輝く光の翼が生えている。正確には、背中から放射された緑色の光が、翼の様に見えると言うべきだろう。

 美翼鳥スパルナ法という香巴拉式の飛行魔術の発動時に、この光の翼は出現する。荼枳尼法より速度は劣るが、周囲に風を巻き起こしたりせず小回りも利くため、どちらかといえば高速移動向きの荼枳尼法と違い、空中戦に向いている飛行魔術である。

 光の翼の色は、発動に使用した記憶結晶の色と同じ。煙水晶で発動させた場合、乗矯術と良く似た光の翼となるのは、美翼鳥法と乗矯術が、魔術の流派は違えど、かなり近い性質の魔術だからだ。

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