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昇龍擾乱 35

「墜ちろ!」

 バズの声を切っ掛けとして、黒い球体はビリヤードのキューにかれた球の様に、杖の先端から放たれ、急上昇して来る金剛念珠に向かって飛んで行く。黒い球体は金剛念珠を直撃し、炸裂する。

 すると、蜂蜜に似たくすんだ黄色の金剛念珠の色が、真っ黒に変化してしまう。まるで黒い球体がペイントボールであったかの如く、金剛念珠を黒く染め上げてしまったのだ。

 黒い球体は、金剛念珠の色を変えただけでは無い、急上昇を続けていた金剛念珠は、黒く染まった後、急停止に近い形で上昇を止めて、落下を開始した。

 バズの言った通り、金剛念珠は墜ち始めたのである。一気に数十メートル程墜落した金剛念珠なのだが、溶岩で覆われた床に叩き落される手前で何とか踏み止まり、再び上昇を開始する、色が黒くなる前に比べて、半分以下のスピードではあるのだが。

 上昇して来る金剛念珠を見下ろしつつ、バズは舌打ちしてから、言葉を吐き捨てる。

重力弾ピラ・グラビタティス程度では、墜とせはせんか……」

 バズが金剛念珠に放った黒い球体が、重力弾。当たった物の色を一時的に黒く染めるだけでなく、黒く染め上げた対象に、高重力を発生させる攻撃魔術だ。

 細かい重力のレベルは制御出来ないのだが、Gでいえば二十前後に一時的に重力を高める事が可能。高重力により、敵を押し潰したり身動き出来なくしたり、飛行中の魔術師を墜落させたり出来る(ちなみに重力弾を複数当てても、継続時間が伸びるだけで、より高い重力をかけられたりはしない)。

 マットチョイの底は、まだ相当な高熱地獄といえる状態なので、バズは取り合えず金剛念珠を叩き落し、八部衆を消耗させ続けようとした。一瞬、その目論見は成功したかに思えたのだが、八部衆は重力弾による高重力状態ですら、再上昇を始めたのだ。

 程無くマットチョイから飛び出して来た、黒球と化した金剛念珠は、バズやポワカがいる地点から、二十メートル程離れた辺りまで移動してから着地。直後、シャボン玉が割れたかの如く、金剛念珠は一瞬で消滅、黄色い光の粒子群を大量に周囲に撒き散らす。

 粒子群の一部は、重力弾の影響だろう、黒く色付いている。僅かな量の黒い粒子群と、大量の金色の粒子群は、大気に溶け込む様に消滅する。

 光の粒子群が消え去ると共に、八部衆の三人が姿を現す。金剛念珠を展開する前と、殆ど変わりが無い姿で、三人の八部衆はバズやポワカと対峙。

 バズとポワカは、夜叉の胸を確認する。二人の目線の先にある、開かれた胸元から露になっている、金剛念珠を解除したので既に光を放っていない琥珀玉は、体積が半分程の大きさに縮んでいた。

 夜叉は魔力を大量に消耗した為、魔力の原料である琥珀玉も消耗し、縮小してしまったのだ。

「――予定より早目にナジャの巣を破られたとはいえ、防御の要たる夜叉の琥珀玉を半分も削れたのなら、悪くは無いと言ったところかねぇ」

 バズの言葉に頷きつつ、ポワカは夜叉の向かって左側にいる、緊那羅の胸元に目線を送っている。緊那羅の開かれた旗袍の胸元からは、淡い緑の光を放つ翠玉が覗いて見える。

 金剛念珠を解除し、既に光が失せている夜叉の琥珀玉と違い、翠玉が光を放っているのは、緊那羅が何らかの魔術を発動中である証。ナジャの巣を封じる為の魔術を、緊那羅は発動中なのだ。

「まさかホプライト如きに、琥珀玉を半分にされるとは、無様ぶざまなものだな」

 夜叉は忌々しげに、緊那羅を一瞥しつつ文句を言う。

「お前がさっさと、ナジャの巣を封じないからだ」

「私のせいにしないで欲しいんだけど! タイソンが金剛念珠のサイズを、ケチるからでしょ!」

 緊那羅は不満げな口調で、夜叉……タイソンに反論する。

歌舞天恵グーウティンフェイは、狭い舞台に向いて無いんだ! 私にまともに歌って躍らせたいなら、それだけの広さがある舞台を用意しなさいって!」

「狭かろうがナジャの巣が完成する前に、俺が金剛念珠展開出来たから、お前等はダメージ受けずに済んだんだし、一応は踊れるスペース確保出来たんだろうが!」

 タイソンは強い口調で、緊那羅に言い返す。

「だいたいあのタイミングじゃ、あのサイズで展開するのがギリギリだ! ナジャの巣が、あんなに速く展開出来る魔術だなんて、知らなかったのだからな!」

 タイソンはナジャの巣という魔術の存在を知ってはいたのだが、完成度と持続時間を落とし、高速で雑に展開する戦法を知らなかった。基本的には拠点防御用に仕掛けておく魔術だと認識していた為、タイソンは慌てて金剛念珠を発動し、自分と仲間の身を守りつつ、一応は緊那羅が歌舞天恵を使えるだけの広さを、確保していたのである。

 ポワカのナジャの巣による奇襲は、それ程に脅威的な攻撃であった。瞬時に金剛念珠による防御が出来たタイソンがいなければ、八部衆とはいえ無事では済まない可能性は高かったのである。

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