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昇龍擾乱 29

「マットチョイの天井落としたの、あいつ等か?」

「――だろうな」

 神流の問いに、朝霞は答える。天井の落盤を事前にポワカが知っていた以上、落盤自体がアナテマの作戦だと考えるのが妥当。

「ポワカが飛んで逃げろとも言っていたし、ナジャの巣で固めている間に、八部衆相手に総攻撃でも仕掛けるつもりなんだろ、アナテマは」

 天岩戸が上昇している為、次第に近付いて来るアパッチを見上げつつ、そう言い放った朝霞に、今度は幸手が問いかける。

「こっちにも攻撃して来ると思う?」

「多分、それは無い」

 慧夢は言い切る。

「警報のメッセージやポワカの言動からして、今現在タンロン鉱山跡に残ってる戦力は、八部衆を相手にする為のものだろう。この場に残されたアナテマの戦力には、俺等に回す余裕は無いと思う」

 八部衆を嵐に例え、その襲来を告げた警報のメッセージでは、ポワカとレッドバロン隊を除いた、全ての者達への退避が指示されていた。星牢を盗んだ朝霞達を捕らえるべく、襲い掛かって来た空色のアパッチ達も、既に完全に退避済み。

 空色のアパッチ同様に朝霞達を追撃していたポワカも、八部衆の襲来後には、聖盗である朝霞達への追撃の態度を、見せなくなっていた。アナテマは八部衆が出現した時点で、残された戦力を八部衆に集中する策をとっていると、朝霞には思えたのだ。

「あの赤いアパッチ連中が、ポワカと共にここに残された、レッドバロン隊とかいう連中なんだろうな」

 そう朝霞が思うのは、赤いアパッチ達がタンロン鉱山跡に残っているのと、レッドバロンの「レッド」が、「赤」を意味する言葉である為。レッドバロン隊は、部隊名に「赤」を意味する言葉を入れているので、赤いアパッチ達が所属する部隊名に、相応しいと思えたのだ。

 ちなみにレッドバロンとは、赤い男爵という意味である。欧大州の英倫えいりん州や、亜米利加あべいりか大州の北亜米利加きたあべいりか州などで、主に使用されていた言語の言葉が、そのままエリシオン統一言語に取り込まれている。

 赤いアパッチ達についての朝霞達の会話は、そこで打ち切られる。突如、眼下の土煙の中から、巨大な何かが飛び出して来たので、そちらに朝霞達の意識が向いた為。

 雲の中から飛び出した飛行機の様に、土煙の中から飛び出して来たのは、巨大な鳥を思わせる姿をしていた。だが、両翼の羽ばたきで土煙を吹き飛ばす、その鳥の様な何かの両翼を広げた幅は五十メートル程、明らかに通常の鳥では無い。

 身体の殆どは褐色、肩から頭部にかけては白く、鋭いくちばしは黄色と、その姿は鷲そのもの。その巨大な鷲としか表現し難い存在は、身体同様に巨大な爪で、七つの星牢を文字通り鷲掴みにしていた。

 星牢を鷲掴みにして上昇して来た、その巨大な鷲の背には人影。船の舳先に立っているかの様な、その人影の正体はポワカ。

 巨大な鷲の背に立って、ポワカはマットチョイの底から飛んで来たのだ。

「――何だよ、あれ?」

 天岩戸より遅れて土煙から姿を現したが、あっという間に並んで横を飛び始めた巨大な鷲を目にして、神流は朝霞と幸手に問いかける。

「あんな化け物、知るか!」

 朝霞は即答するが、幸手は天岩戸を操作しつつも、並んで上昇を続ける鷲を一瞥し、思い当たる節を口にする。

「精霊……かもしれない」

「精霊?」

 声を揃えた朝霞と神流の問いに、幸手は頷く。

「前に禁術や禁忌魔術関連の情報を調べていた時に、精霊召還魔術……精霊を呼び出す魔術について触れていた本があったのよ」

 幸手は魔術については、朝霞や神流より詳しく、使える魔術の数も多い。二人が知らない魔術に関する知識も、色々と知っているのだ。

「時間無いから、簡単に説明しとくけど、精霊と呼ばれている擬似生命体を召還……呼び出して、自在に操る魔術が精霊召還魔術」

 この世界で精霊と呼ばれる存在は、一見生命体風に見えるが、思考能力や魂魄の類を持たない存在であり、尚且つ子孫を残す事も無い。故に、生命体というよりは擬似生命体と呼ぶ方が、相応しい存在なのである。

「危険な魔術なんで、精霊召還が可能な魔術は、基本的に禁忌魔術扱いになっていて、情報自体が殆ど秘匿されているから、私も余り詳しくは知らないんだけどね」

「――星牢をマットチョイの外に運び出す為に、巨大な鷲の精霊を召還した訳か」

 ほぼ同時にマットチョイから飛び出し、地上に躍り出た巨大な鷲の精霊を眺めながら、朝霞は呟く。

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