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昇龍擾乱 25

(まさかナジャの巣が、こんな一瞬で広範囲に展開出来る魔術だとは……)

 朝霞はポワカがナジャの巣を使うのを、先読みしていた。サオトーでポワカがナジャの巣を解除し、糸をストールに変える場面を目にしていた朝霞は、ポワカが背後にストールを回した時点で、ナジャの巣を使うつもりだと見当がついていたのだ。

 故に、ナジャの巣をポワカが使い、それに八部衆が対処したタイミングで煙玉を使い、マットチョイを煙幕で埋め尽くし、朝霞は逃げ去るつもりだった。だからこそ、既に煙玉を両掌に、握りこんでいたのである。

 しかし、朝霞には大きな、読み間違いがあった。ナジャの巣が一秒足らずで、サオトーを遥かに超える広さがある、マットチョイの南側の空間殆どを埋め尽くす程に、素早い発動と展開が出来る魔術だった事だ。

 サオトーで朝霞が目にしたナジャの巣の解除には、一分足らずの時間がかかっていた。マットチョイの南側より遥かに狭いサオトーですら、解除に一分足らずの時間がかかるナジャの巣は、発動や展開も速くは無いだろうと、朝霞が思い込んでしまったが故の、読み間違いである。

 実際、ナジャの巣は普通に発動した場合は、朝霞の読み通り発動や展開は遅い。だが、完成度を下げれば高速での発動や展開が、可能なタイプの魔術だったのだ。

 無論、ナジャの巣により退路が塞がれたのは、神流や幸手も気付いている。

「――どうする? 斬るか?」

 既に身構えている神流の問いに、朝霞は即答する。

「頼む!」

「了解!」

 神流は二十メートル程離れたナジャの巣に向かってダッシュすると、長刀のみでナジャの巣に斬りかかる。目にも留まらぬ早業で、神流が上段から振り下ろした長刀は、ナジャの巣の糸に触れる。

 直後、ナジャの巣全体が閃光を放ったかと思うと、神流が手にしていた長刀の糸に触れた辺りは、粉微塵となって消滅してしまう(厳密に言えば、徹底的に細かく切り刻まれ、砂礫状の細かな破片群となって、辺りに飛び散っている為、消滅した様に見えるのだが)。

「か、刀が……あたしの刀が!」

 真ん中より先の部分が消え去ってしまった、無残な状態の長刀を目にして、神流は驚きの声を上げる。斬り合いでは負けた例が無い布都怒志の、しかも交魔法状態の長刀が、完全に斬り合いに負けた事に、神流はショックを受けたのだ。

 だが、神流は即座にショックを振り払い、長刀を鞘に戻す。滅多に使う事が無い能力を使う為に。

 その能力とは、破損した刀剣の自動修復能力。それなりの魔力を消費するのだが、神流の長刀や脇差は、鞘に一度戻せば、すぐに自動的に修復されるのだ。

 刀身が欠ける程度の破損は、過去に何度か経験していたが、刀身の半分を失う程の破損を経験するのも、それを修復するのも、聖盗となってからの神流には初めての経験。魔力を一気に消耗した事による、瞬間的な疲労感を覚えながら、神流は即座に長刀の修復を終える。

 修復を終えた長刀を即座に鞘から抜くと、神流は二刀を手に腰を落とし、身構える。

「止せ! 巣の破壊、不可能!」

 再度、攻撃を仕掛ける動きを見せた神流を、ポワカは言葉で制止する。

「要は、刀を糸に触れさせなければいいんだろ!」

 神流は身体を捻って作った溜めを、一気に解放しつつ、回転しながら両刀を高速で振るい、全力で旋風崩しを放つ。神流が放った気が周囲の空気と混ざり合ったせいで、膨大な周囲の空気が巻き込まれ、旋風というよりは小型の竜巻にすら見える空気の渦が、砂礫やブラックマーケットのブース様の設備などを吹き飛ばしながら、ナジャの巣に衝突する。

 刀剣で触れられないなら、風で吹き飛ばしてしまえとばかりに、神流が放った旋風崩しの旋風は、様々な物を吹き飛ばしたり巻き込んだりしながら、マットチョイの南側……ホァンダオの脇にある壁に衝突して消滅。壁の一部すら崩してしまうが、肝心なナジャの巣自体は微風でも通り過ぎたかの様に、殆ど変化らしい変化を見せない。

「蜘蛛の巣の分際で、旋風崩しで吹き飛ばせもしないのか!」

 悔しげに言葉を吐き捨てる神流に、ポワカは言い放つ。

「完成した巣、破壊も排除も無理!」

「――だったら、神憑り……鳴神!」

 旋風崩しで吹き飛ばせないと知った神流は、躊躇いもせずに現時点での最大威力の神憑り……鳴神による破壊を試みる。最後の手段と言える鳴神を、八部衆と戦う前に八部衆に見せるのは、まずいかもしれないとは思ったのだが、ナジャの巣をどうにかしない限り、逃げ遂せ様が無いので、神流はリスクを承知で思い切ったのだ。

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